第3話 コルサの村。
宿はとても簡素なものだった。
一番安い部屋で銅貨2枚、部屋は藁のベッドで食事無し。
私達が取った部屋は普通の部屋だ。
一泊大銅貨1枚、銅貨5枚。
食事も付いているし、二人部屋だ。
うん。二人……緊張するよね。
いくら慣れたとはいえ、シルみたいなイケメンと二人きりで部屋の中で寝るんだよ。
そりゃ緊張するよ。
「シュン」「ひゃい!」
シルが目を見開いて驚いている。
「どうしたの? 変な声を出して」
「え? あ、いや、スーちゃんが変なとこに潜り込んじゃって、くすぐったかったんだ。あは、あははは」
シルはキョトンとした顔をしている。
「まぁいいか。疲れただろうから、今日は早く休もう。ただ、その前にこれからの事を再度少し打ち合わせよう」
シルがベッドに腰かける。私も向かい合わせに自分のベッドに座る。あ、ちょっと硬い。
「コルサの村を出たら、1週間は野宿になると思う。そこから、ルべリアの街を抜けて、いくつか、村と街を抜けたら、王都ウィスタルに着く。多分、僕とシュンの見た目だと、悪目立ちしちゃうから、トラブルだけはくれぐれも気を付けてね」
「やっぱり黒髪、黒眼って珍しいの?」
「そうだね。少なくともウィスタリア王国では、見かける事はほとんどないよ。それに長耳族もあまり森を離れる事はないしね。スリングさんみたいな商人は例外として」
「そっか。わかった。気を付けるね」
「うん。それにしても――」
シルがジッと私を見つめる。
思わず頬が熱を持つ。
「やっぱり少し緑になってる気がするね。どういう事なのかな」
私は自分の髪の束を少し摘まんで、光に当てて見る。
そこには黒にうっすらと緑が混じっている。
見ようによっては光の加減でそう見えている程度にだが。
今自分では見えないが、同じ様に瞳にもやや緑が混じっている。
「うーん。あの小鬼の王と戦った後からだもんね。やっぱり謎の加護かスキルの影響かなぁ」
小鬼族との戦闘の後、シルから指摘されて気付いた事だ。
ジジイの仕業かもしれない。
これ元の世界に戻ったら直るんだろうな。
直らなかったらどうしてやろうか。
「大丈夫だよ! 特に何か悪い影響がある訳じゃないし!」
少し心配そうな顔をしているシルに笑顔を向ける。
「そうだね。何かあれば、直ぐに言っておくれ」
シルは優しく微笑んだ。
思わず見とれそうになってしまう。
「さ! 今日はもう寝よ! いつもと違う筋肉使っちゃって、変なとこが痛くなっちゃった! 木の上での生活に慣れすぎちゃったよ!」
頬の火照りを誤魔化す様にベッドに潜り込む。
スーちゃんがポケットから出て、私の枕元に丸くなった。
「そうだね。じゃあ明日からは本格的に移動するから、そのつもりでね。おやすみ、シュン」
「おやすみなさい、シル」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、目を覚ました私とシルは、食料を購入しに村のお店に立ち寄った。
「乗り合いの馬車かい? それなら、三日前に来たばかりだから、後四日は立ち寄らないね」
お店のおばさんから、王都に向かう乗り合い馬車について聞いたところ、そんな返事が返ってきた。
正直普通の旅路ならば、四日待っても問題ないんだけど、今回は一応王国からの国務扱いだ。
早期の報告を受けている以上、四日も遅れるのはマズイと思う。
「仕方ないね。やっぱり徒歩で向かって、途中は野宿をする必要がありそうだ」
シルは、あまり期待はしていなかったのだろう様子で、そんなことを言う。
野宿かぁ……
別に野宿自体は、お父さんに付き合ってよく経験した。
だから、野宿自体に抵抗はあまりない。
問題は――
チラッとシルを見ると目があった。
ニコッと笑いかけると、ニコッと笑顔を返してくれる。
この人は、私を異性とは意識してはいないんだろうなぁ。
はぁ。
「はい、毎度。王都の方に行くなら、最近サリクス林道の辺りで盗賊が出るから、気を付けるんだよ」
シルは、おばさんから買ったものを受け取り、『ありがと』と一言笑顔でお礼を言った。
おばさんの顔が赤くなってるじゃない。
この天然ジゴロめ。
また溜め息を吐く私を不思議そうな顔で見た後、シルは歩き出した。
私も後を着いて歩く。
「盗賊か……ウィスタリア国内も何だか物騒になってきてるね」
シルは少しだけ難しい顔をして、そんなことを呟いた。
宿に戻り、買った食料を簡単に分けてから、宿を後にする。
「さて、それじゃ。ちょっと大変だけど、頑張っていこうね、シュン」
「おー!」「キュー!」
私が腕を上げて出発を示すと、スーちゃんも頭の上で、一緒に短い腕を伸ばしてくれた。
プッとシルと二人笑いながら、コルサ村を後にした。
スーちゃん可愛い……