第1話 村を追い出される?
「シルフェルス。お前村から出ていけ」
「は?」
シルがポカンとしている。私もポカンだ。
今日は朝からソルトロッソオジサマに呼び出され、オジサマのお屋敷に来ている。
応接間に現れたオジサマはそんな事を言い出した。
「もっかい言うぞ? シルフェルス、お前村から出ていけ」
「族長? 言ってる意味が解りかねますが? どういうことでしょうか?」
「だから、村から出て――「それは解りましたから、理由と用件をお願いします」
オジサマが三回目を口にしようとしたところをシルが割り込んだ。
「む、そうか、言葉が足りんかったな。先日の小鬼族の襲撃に関して、国から報告が欲しいと言ってきておる。だが、俺は現状各集落の復興と小鬼族の管理、それにやりたくもない族長の執務に追わ――」
「旦那様」
セフィさんが鋭い視線でオジサマを睨んでいる。
怖い、冷めきった目だ。
「いや、やらなきゃいかん仕事が多いからな、ここから逃げらrげふん、離れられん。だから、お前代わりに行け」
オジサマはまたセフィさんに睨まれながらそう続けた。
「それにな、お前も一度国王に顔見せしとかにゃならんだろうしな。いい機会だ」
「解りました。それならそう最初から言ってください」
「ハッハッハ! スマンスマン! シルが慌てるかなと思ってな? ちょっとやってみたんだが、お前は動じんなー。面白くない」
オジサマは唇を尖らせて、ブーブー言ってる。
あれ? シルって私の前だと結構慌ててる気がするんだけど。
「しかし族長、僕にはシュンの監視もありますので、難しいかと思いますが?」
「あぁ? シュンの嬢ちゃんの監視なんてもういらねぇだろ。それはもう無しだ無し。それにシュンの嬢ちゃんにも王国に行ってもらうし、心配いらんだろ」
え? 初耳なんですけど?
「ハァ。旦那様。シュン様が初耳だという顔をしております」
「嬢ちゃんはシルと違って反応が面白ぇなぁ」
クックッとオジサマは笑っている。
セフィさんとオジサマの反応からして、わざとだ。
むぅ。
「そうむくれんなって。いや、なに、嬢ちゃんもいつまでもこの村に居ても仕方ないだろ? それに王国に行きゃ、ニホンの情報も少しは見つかるんじゃねぇかってね」
なるほど。
確かに最近は狩りくらいしかしてない。
正直どこからどう手をつけたらいいか解らなかったし、ぶっちゃけると、ちょっと今の生活が楽しくなっていた。
いけないいけない、早くおうちに帰らないと!
「てことで、だ。シルに嬢ちゃん、お前ら王国まで行ってくれ。駄賃は多少は用意してある」
そう言うと、セフィさんが前に出て、お金の入った皮袋を渡してくれた。
結構な金額が入ってる様だ。
「あとは、そうだな。謁見するのにその格好じゃ困るだろうから、セフィ。服を適当に見繕って用意してやってくれ」
「畏まりました」
一礼して、セフィさんは応接間を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、ウィスタリア王国までの道程や王国に着いてからの流れなんかをオジサマに聞き、出発は明日という事になった。
準備にもっと時間をかけるべきだって?
私もそう思う。
だけど、王国からは早い報告を依頼されているし、シルや私は特に家族が居たりする訳じゃない。
特に私は、ほぼ着の身着のまま状態で、旅の用意さえ終われば出発できる事もあり、明日の出発。という訳だ。
まぁ一日二日じゃ大して変わらないと思うけどね?
お国というのは、その一日二日での影響が大きいというから、仕方ない。
その後、私は謁見に際しての衣装選びという名目でセフィさんに着せ替え人形にされたのは言うまでもない。
オジサマの屋敷を出たのは昼過ぎになってからだった。
お昼ご飯はご馳走になって来た。
あぁ、美味しかったなぁ。
茸猪のバター焼きが特に美味しかった。
これは背中に茸の生えた猪の肉と茸を一緒にバターで炒めたもので、風味豊かな茸と乳化を起こした猪肉をバターが優しく包んで、口の中では自然溢れる野生の旨味が突進を繰り返していた。
更にセフィさんが選ぶ紅茶が料理にまた合うのだ。
「よぅ、シル。ソルトロッソの旦那の所からの帰りか? あん? シュン嬢はどうしたんだ? 涎垂れてるが」
「た、垂れてません!」
危ない危ない。
トリップしていた。
「スリングさん。僕達、明日から王国に向けて旅をする事になったので、必要な物を揃えてほしいんですが」
ポコポコしている私とほっぺたをプニプニしているスリングさんを尻目に淡々と続けるシル。
クールだわ。
「お? 王国ってのは王都までか? それだと最低でも2週間は片道でかかるだろ。食糧と夜営道具くらいか?」
そう。意外と王都までの距離があるのだ。
途中に村や街はあるそうだけど、夜営もすることになると思う。
「そうですね。必要なものとしてはそれくらいですかね」
「あいよ。出発はいつ頃だ?」
「明日です」
「明日ぁ!? えらい急だな。まぁいいや、取り敢えずこっちの手元にあるもんを揃えてみるから、時間をくれ。明日の出発前までには、揃えとくからよ」
「はい。すいませんが、よろしくお願いします」
「はいよ。どうせソルトロッソの旦那が急に言ってきたんだろ? シルが気にする事じゃねぇよ。あの人はいつもいきなり面倒事持ってくんだから」
スリングさんはため息を吐きながら、右手をヒラヒラしてる。
スリングさんとオジサマって結構長い付き合いなのかなぁ?
一先ず、旅の必要な物はスリングさんやセフィさんが用意してくれそうなので、今日は早目に寝て、明日からの旅に備えよう。
猪肉食べたいデス。