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番外編 セフィさんのとある一日。

「旦那様? 本日は逃がしませんからね?」


 私の朝は早い。

 一日の始まりは、掃除、洗濯、朝食の準備。

 そしてこの朝から逃げようとしている、この館の主人であり、族長であるソルトロッソ様を捕まえる事だ。


「何を言うかセフィ。俺が逃げるなどとそんなこと。俺はただ、ちょーっとばかし、森に入ってだな、その後ちょーっとばかし、スリングのとこで食いもんを買って、そんでちょーっとばかし、シルのとこに顔を出してこようと思っただけで」


 この人は本当に……

 誤魔化せてないし、許すわけがないじゃないですか。


「はいはい。わかりました。それでは、私がスリング様の所で食べ物を購入し、シルフェルス様の元に赴くと致しましょう。ですから、旦那様はこちらの執務を早く進めてください、なっと」


 手早く旦那様を椅子に縛り付け、目の前に大量の書類を置いた。


「いや、セフィ? セフィーユちゃん? シュンの嬢ちゃんが使い魔を生成したって話も聞いてるから族長としては、確認にも行っておきたいんだけど?」


 ピクッ


「旦那様。今なんと?」


「いや、だから確認に――」


「シュン様の所に行く。そして使い魔の確認で御座いますね。畏まりました。その任しかと、このセフィ目が果たしてみせましょう! なので、旦那様は心置きなく書類を倒してくださいませー!」


「あ、セフィ! おま! ちょ! 待て! 俺が!」


 机から立とうとした旦那様が、他の侍女に取り押さえられているのを横目に、早々に執務室を後にする。


 シュン様! あの可愛らしい方に私の新作のお洋服を着せねば!

 それに使い魔というのは、私の耳にも届いておりましたが、主人であるシュン様に似て、それはそれはお可愛らしいとか。

 これは私が行かねばなりません!


 職務放棄?

 いえいえ、これは、職務として!

 待っていてくださいねー!


 私は衣装部屋に用意してある、新作のお洋服の数々から幾つかを選定し、屋敷を後にする。


「お、セフィちゃんじゃねぇか。今日はソルトロッソの旦那はどうしてんだ?」


 スリング様のお店にお邪魔すると、そんな事を聞かれた。


「旦那様ですか? 族長としての責務を全うして御座いますよ。いつもこうしてお仕事をしていただきたいものです」


「へぇ。珍しい事もあるもんだな。机仕事なんざ、嫌がりそうなもんだが」


 えぇ。嫌がってましたね。

 知りません。

 仕事はする為にあり、させる為にあるのです。

 あの方は普段からサボりすぎです。

 おかげで私は侍女としてのお仕事が滞るのです。


「毎度! またいつでも買いに来てくれやー!」


 スリング様に会釈し、その場を後にする。

 今回は果実とハーブ、それに珍しく入荷されていた御菓子を購入しました。

 これでシュン様も喜んでいただけるでしょう。


 スキップをしながらシルフェルス様のおうちを伺いましたが、残念ながら、留守の様です。

 どういたしましょう。


「オマエ、ナニ、イエ、ボス、イナイ」


 ふと、声がした方を向くも、誰もいない。

 くいくいっと服を引かれる。

 下を向くと、一人のゴブリンが立っていました。

 この方は確か……ゴブ太郎さんでしたか?

 ゴブリンは見分けがつきません。


「ボス、ハナ、ツム、ニシ」


 ボブ太郎さんは片言でそう言って去っていきました。


 よく解りませんでしたが、ニシ……西でしょうか?

 私は村を降り、西に向かって歩きました。


 しばらく歩いた頃でしょうか。

 何やら甘い香りがしています。

 ハナ……あぁ、なるほど、解りました。


「あ、セフィさん! どうしたの? 珍しいですね。お屋敷から出てるなんて、ソルトロッソさんじゃないのに」


 クスクスと笑う可憐な少女が花畑に居る姿はとても絵になりますね。

 ほーっと見とれてる私に少女がトトッと歩き、近づいてきました。

 あぁ、頭を撫で撫でしたい。


「セフィさん? わぷっ! いきなり頭を撫でないでよぉーもぉー」


 おっと、私とした事が無意識に頭を撫でてしまっていたようです。


「本日はシルフェルス様は御一緒ではないのですか?」


 私は辺りを見渡しますが、いつも一緒にいらっしゃるシルフェルス様が見当たりません。


「あ、今日シルは見廻りのお仕事だよー。私は最近見つけたこのお気に入りの花畑でのんびりしてるの」


 シュン様はクルクルッと回ってはにかむ。

 花が舞い、とても絵になります。


「それで? セフィさんはどうしたの?」


 ハッ! そうでした!

 私はお仕事でここに来ているのです。

 えぇ、お仕事です。

 お仕事といったらお仕事なのです!


「えぇ、シュン様。本日はお洋服を着て――いえ、違いました。旦那様の命により、先日生成されたという使い魔を見せていただきに参りました」


「スーちゃん? いいよ? スーちゃん、出ておいでー」


 そう言うと、シュン様のチェニックの胸元辺りからモゾモゾと何かが顔を出しました。


「キュ?」


 ピシャーン


 こ、こ、こ、こ、こ、これは!


「可愛い!」


「でしょー? 可愛いよね! 良かったー! 何か知らないけど、スリングさんもシルもスーちゃんと私を見て笑うんだもん! 何か可笑しな所でもあるのかと思っちゃった」


 そう言うシュン様の肩を通り、首を抜け、頭の上にチョコンと座ったスーちゃん様から目が離せません。


「えっと、セフィさん? この子を見に来ただけ?」


 ハッ! 我を忘れてました。


「お仕事はそれだけなのですが。シュン様、そのですね。宜しければ、また私の用意した服を着て頂けないかと。」


「え? いいですよ? ただ、セフィさんが用意してくれる服っていつも可愛らしくて、私なんかが着て似合うのかなって思いますけど。」


 とんでもない!

 シュン様はとても可愛らしく、私の服を良く着こなしてくださいます!

 長耳族は種族柄かあまり背の低い子もいないので、これほど可愛らしくなる子はいませんからね!


 その後、買ってきたお菓子とハーブで花畑の茶会を楽しみ、シルフェルス様のおうちにお邪魔してからは沢山の服をシュン様に着ていただきました。


「ただいま戻りました」


 ほくほく顔で屋敷に戻ってきましたが、はて?

 何やら静かですね?


「旦那様ー? いらっしゃらないのですかー?」


 執務室をガチャと開くと。旦那様が机の上で死んでいました。


「か、勝手に殺すな……書類が……終わらん……」


 どうやら、真面目に執務に取り組んで頂いた様で、溜まっていた執務は1/3まで減っていました。


「仕方ありませんねぇ」


 その後、旦那様に紅茶を出し、執務を手伝い、今日のお仕事は終わりになりました。私、侍女なのですが……


 夜空の月を見ながら、遠い目をして、自称侍女はベッドに潜り込んだ。

 明日も彼女のお仕事は朝早くから始まる事だろう。

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