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第18話 対小鬼族戦⑦ 終幕:争いは終る

「戦士の魂は灰と共に。この森でこれからも生き、そして実りを与えてくれるだろう。これは別れではない。彼らは我々の一部となり、そして森の一部となってこれからも生き続けていくのだ。彼等の、これより更なる繁栄を祈り、この森に戦士達の魂を贈ろう」


 オジサマはそう言うと、目の前にある瓶を力一杯空に投げた。

 そして、風魔法により中身を天高くから、森へと流した。


 私は目を閉じて祈る。

 隣にはシルがいる。

 彼もまた、瞳に涙を浮かべ、黙祷している。


 今回の戦闘で少なくない数の長耳族の戦士が亡くなった。

 小鬼族はシルの村だけではなく、他の村にも被害を出していたそうで、戦士以外にも犠牲になった人がいるらしい。

 援軍が来なかったのは、どうやら、他も手一杯になっていたからだそうだ。


 空からは白い粉が粉雪の様に舞い、森へと還っていった。


 私はあの戦いで小鬼の王から殺された所までしか記憶がない。

 ジジイの所から落ちた後、目が覚めると私の部屋のベッドの上だった。


 あの後の事はシルから聞いた。

 私は異常な速度とおかしな言動をしながら、小鬼の王をバラバラに分解したらしい。

 話を聞くだけでも吐き気を催す様な、グロテスクな状況だったらしい。


 王の心臓を咀嚼した私は、身に付けていた、弓、鞭、ナイフを手に取り、光に還したそうだ。

 よく解らないけど、手に持った武器が光の粒子になって消えたんだと。

 その後は、そのまま血溜まりに倒れ附したとの事だった。


 残った小鬼族は、何故か倒れた私に集まったらしく、シルは即座に私を護る為、倒そうとしたらしいが、彼等はどういう事か、私に危害を加える事は無かったそうだ。

 また、長耳族への攻撃も同時に収まり、争っていた小鬼族も私の所へと向かったらしい。

 こっちはソルトロッソオジサマから聞いた話だ。


 その後、小鬼族については、殲滅しようという声もあったそうだが、オジサマが状況から今すぐに答えを出す必要はないと判断したらしく、私が起きるまで保留となっていた。

 そんで、小鬼族がどうなったかというと。


「ボス! こレ! オレが獲っタ! うさギ! 喰ウ!」


 目の前の小鬼族が、私に蛙兎を渡してくる。


「あ、ありがと。ゴブ太郎は狩りがうまいんだね」


 私は苦笑しながら、目の前のゴブリンに礼を言い、兎を受けとる。

 ゴブ太郎は心なしか誇らしそうに見える。


 そう。

 目が覚めた私は、何故か小鬼族の言葉が解る様になっていた。

 その上、何故か小鬼族にボス呼ばわりされている。

 ゴブ太郎曰く。


『王、倒されタ。それにオレ達にはわかル。ボス、今度のボス』


 らしい。

 よく解らないけど、小鬼族のボスになっているらしい。


 意思疏通出来るのは私だけだけど、こんな状態でこの小鬼族を殺すなんて思えない。

 話をしてみたけど、彼等はただ生きる事に貪欲であり、今回の襲撃に関しては小鬼の王から強制的に行わされたものだからだ。

 長耳族の中には、家族を殺された者も居た。

 当然確執もある。


 だけど、オジサマの発言により、村の皆や他の集落も含めて、今回の件は水に流す事となった。

 オジサマは思った以上に発言力があり、それを長耳族の皆も受け入れる程にカリスマを持っている様だった。


 ただし、全くの処罰無しという訳にはいかないので、小鬼族には私から指示を出し、長耳族の作業を手伝い、共に森で生きて、無用に他の種族に危害を加える事がない様にさせた。

 その後は、今のところ大きな問題もなく、しっかり働いてくれている。

 ただ、意思疏通が取れないのは困る為、小鬼族には言語の習得をさせている。

 元々賢くない小鬼族にとっては、こちらの方が罰に見えるくらい苦労している様だった。


 一先ず戦後については、こんな感じ。

 そんで私にとってはこっちが困った。

 というよりも、もう顔面蒼白にして、申し訳無さしかない。


「スリングさん! 本当にごめんなさい! 私の所為で……その左腕……」


 そう。

 スリングさんは私を庇って腕を失った。

 これは私が当事者だ。


 私の為に、私の所為で失ったのだ。


「ハッハッハ! 傷は漢の、いや、戦士の勲章だってな! それも可愛いお嬢ちゃんを庇って負ったなんて俺すげぇ格好いいじゃねぇかよ! まぁ庇いきれてなかったんだけどな? ハッハッハ!」


 爆笑するスリングさん。

 いや、色々反応に困るんですけど。


「でも! 私の所為だから……何でも言って下さい! 私に出来る事なら! お手伝いします!」


 スリングさんは今度は困った様に笑った。


「シュン嬢よぉ。前にも言ったが、子供は甘えてりゃいいんだよ。それに大人が子供を護るなんざ、当たり前のこったろうが。気にすんなよ。それにお嬢ちゃんには、故郷に帰るって目的もあんだろ?」


 スリングさんは以前同じ言葉を言った時と同じ様に頭をポンポンと撫でながら、ニカッと笑った。

 私は撫でられた頭を押さえながら、改めてスリングさんにお礼を言った。


 これ以上は困らせるだけだと思うから。

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