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第17話 対小鬼族戦⑥ 少女は妖しく嗤う

 青年は駆けた。

 緑の小人を切り捨てながら。

 自身の身体にダガーが、投石が、牙が、爪が、幾度も突き立てられようと、目の前の凶劇を止める事の方が重要だったからだ。


 しかし、遠い。

 遠い。

 間に合わない。


 ザシュッ


 あぁ。

 肉が裂かれ、骨が断たれる音がする。

 空を舞い弧を描くものがある。

 それは青年の足元に転がった。


 腕だ。


 目線を上げ、前を向く。

 其処には、幼い少女と醜悪な緑の巨体に割って入る人物がいた。

 スリングさんだ。


 彼は間に合ったのか。

 シュンは無事なのか。

 大丈夫だ。

 彼女はまだ生きている。


 しかし程なくその夢は儚く散る。


「くそったれ……間に合わなかった……」


 スリングさんが膝を折り、肘から先が無くなった腕を押さえ、倒れる。

 小鬼の王が降り下ろした大剣は、少女の、シュンの胸を貫いていた。


「うああああああああああ!」


 青年は駆けた。

 風魔法を駆使し、風の加護を全開し、急加速でのGや鎌鼬による裂傷等お構い無しに。


 駆ける。

 翔ける。

 懸ける。


 まだ彼女は生きている。

 それに懸け、全力で駆け、自らの命を賭ける。


 彼は手に持った直剣を加速した勢いそのままに、前宙しながら、振り下ろした。

 まさしく全力で、王の頭から股下まで、真っ直ぐに叩き割る様に。


 しかし届かなかった。


 彼の剣は、砕けた。

 ただし、王の大剣が叩き折れた事から、その一撃には途方もない力が込められていた事が解る。


 唖然とするシルの顔は、次の瞬間歪んでいた。

 錐揉みしながら左へ弾き跳ばされた。

 横っ面を殴り付けられたからだ。


 大剣を折られた事に気を害したのか、王はシルへと憤怒の表情と雄叫びを向けながら、歩いてくる。


 しかし、シルは動くことが出来なかった。


 限界を超えた速度で動いた事への反動により、身体を動かすことが出来なかった。

 いや、もしかすると、精神が折れた事により、彼の身体は動かなかったのかもしれない。


 王が折れた大剣を振り上げ、振り下ろそうとした時だった。


『条件が達成されました。14の加護が発動します』


 それは少女の声だった。

 ただし、其処には生命を感じさせない無機質さを含んだ響きがあった。

 振り下ろされる大剣が迫る中、シルは少女を見た。

 彼女の身体は壁に体重を預け、倒れている。


 しかし、次の瞬間、彼女の身体は消えた。


 フォンッ


 それとほぼ同時だった。

 風を切る音がした。

 王の大剣が振り下ろされたのだと思った。

 しかし、シルの身体に刃が届く事は無かった。


『14の加護の発動に成功しました』

『14の加護は13の加護へと変更されました』

『スキル、強欲を取得しました』

『強欲の取得により、スキル、言語相互理解に小鬼言語を追加(アップデート)しました』

『スキル、韋駄天のロックを一部解除しました』

『神性領域へのアクセスロックが一部解除されました』


 大剣をその手に持った少女の口から無機質な言葉が紡がれる。

 シルは不思議そうな、間の抜けた顔をする王が目の前にいるにも関わらず、少女から目を離すことが出来なかった。


 シュンは生きていたのか?


 混乱する頭と度重なる怪我により、頭痛と耳鳴りがする。

 あの少女は本当に彼女なのか。

 シルは目の前の光景が信じられなかった。

 だって彼女は何時も可愛らしい笑顔で笑う子だった。

 なのに目の前の彼女は。





 醜悪に顔を歪めて嗤っている。





 次の瞬間、彼女の姿は消えた。


『とても良い爪ね。もらってあげる』

 小鬼の王の指が引きちぎられていた。

『とても良い腕ね。もらってあげる』

 小鬼の王の腕が切り取られていた。

『とても良い脚ね。もらってあげる』

 小鬼の王の脚が抉り取られていた。


『とても良い角ね。とても良い目ね。とても良い鼻ね。とても良い耳ね。とても良い腸ね。とても良い肺ね。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。全部欲しい』


 目の前で小鬼の王が次々に解体されていく。


 角が捥げ、目が抉られ、鼻がちぎり取られ、耳は空虚な穴だけ残し、腹が切り開かれていく。


 王は何をされているのか理解できない顔で雄叫びを上げて悶えていた。


『あら。とても良い心臓ね。もらってあげる』


 小鬼の王は、心臓を穿ち取られ、息絶えた。


 鮮血に塗れた少女は、クスクスクスクスと、嗤いながら、手に持った心臓を。


 一口咀嚼した。

少女の瞳は月夜に妖しく光っていた。まで入れようとして、締まりが悪いので削りました。

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