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第15話 対小鬼族戦⑤ 始まりの終わり

シルの直剣のイメージはスクラマサクス。

「ガァァァァ!」


 叫び声を上げ、迫ってくるゴブリンに、スリングショットで目を潰し、鞭を絡める。

 そこをシルが一息に首を薙ぎ飛ばす。


 ハァハァ


 私は息があがっている。

 どれくらい戦っているだろうか。

 倒しても倒しても、王により戦力が補充される。


 矢はとっくに尽きてしまった。

 シルは既に弓を捨て、片刃の直剣で戦っている。

 魔法も混ぜて戦い、小鬼族の一部を牽制し、完全に囲まれたり、同時に攻撃されることを避けている。

 私を背後に庇ってくれながらだ。


 私はそんなシルをサポートしている。

 遠距離からスリングさんが援護してくれている事も大きい。

 だけど、そう長くは保ちそうにない。

 援軍が来る事を期待しているけど、来る気配がしない。

 最初の侵攻から数えてもかなりの時間が過ぎた筈なのに。

 それに。


 私はチラリとシルの身体を見る。

 かなりの傷を負っている。

 王との戦闘が開始して直ぐだ。

 私は恐怖から震えが止まらなくなり、動きが止まってしまった。

 そこをゴブリンに狙われた。


 シルが庇ってくれて、私はかすり傷程度で済んだが、シルは大きな傷を負っている。

 本来なら動くのも辛いはずだ。


 何とかしなきゃ、何とかしなきゃ。

 そう思いながら、夢中で戦って、体勢を立て直してからは、大きな怪我を負うこと無く、現在の拮抗が保たれているけど、この怪我じゃいつ押しきられるかわからない。


 活路を見出ださないと。

 私は覚悟を決めた。


『スリングさん。あの一番おっきなやつの所までの道を作れますか?』


 風囁をスリングさんに飛ばす。


『シュン嬢か? 試作品の連装式弓矢があるから、一度ならいけるが、どうする気だ?』


『シルの怪我の具合から見ても、これ以上は保たないと思います。私が直接王を倒して活路を開きます』


『……しかしお嬢ちゃん。それはシルが許さねぇだろ』


『シルには内緒です。その為に風囁でスリングさんに相談してるんじゃないですか』


 チロッと舌を出しながら、スリングさんにウインクする。


『はぁ。しかしな、出来ればお嬢ちゃんみたいなちっこいのに、そんな無茶をおじさんはさせたくないんだが』


『大丈夫ですよ。これでもシルに鍛えられましたし、それにこのままじゃ全滅するだけです。子供だとか大人だとか言ってる場合じゃありません。動ける内に動かないと』


 遠距離から援護の手を休めずにスリングさんは無言で数秒考えている様だった。


『わぁった。ただし、やる以上ミスは許されねぇ。タイミングが命だ。それはこっちで見極めてやるから、お嬢ちゃんはそれを逃すなよ』


『スリングさん……ありがとう』


 お礼を言った後、数体のゴブリンを屠る。

 そしてそのタイミングは来た。

 王がゴブリンの補充をしようとして無防備に

なっている。

 敵の数もかなり減っている。


『今だ! 走れ!』


 クラウチングスタートの体勢を素早く取り、そのまま前傾姿勢で走り始める。

 シルはゴブリンを薙ぎ払った体勢で目を見開き、驚いた顔をしている。

 シルと目があったまま、口だけで伝える。


「ごめんね」


「シュン! やめろ!」


 シルの制止を後ろで聞きながら駆ける。

 目の前のゴブリン達が襲ってくる。

 しかしその身体は次々に左へと吹き飛んでいく。

 右から翔んでくるスリングさんの矢に貫かれて。


 王へと肉薄した。

 スリングさんから貰ったナイフを素早く抜き放ち、王の首へと突き刺す。


 私はこのナイフを結局今まで使えなかった。

 怖かったからだ。

 最初のゴブリンに殺されかけた、あの時の恐怖が襲ってきて、ナイフを持つと震えてしまう。


 それは、この王との戦いが始まってからもそうだった。

 その為、直接ゴブリンの命を奪えず、シルが余計に傷付いた。


 だからこそ。

 今この時は恐怖をそれ以上の恐怖で塗り潰して、震えを抑え込み、王を討たなければいけない。

 そう、シルが死ぬ事の方がよっぽど怖いじゃないか。

 そう考えると自然と震えは止まっていた。


 これなら殺れる。

 喉を刺し貫き、息の根を止めた。


 『そう思った』


 ナイフは、王の首の皮一枚を裂き、血を僅かに滴らせただけだった。


 躱された!?


 そう思った瞬間には、私の身体を激痛が駆け巡った。

 身体は右へと弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。


「カハッ!? ケホッケホッ」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 口の中からは鉄の味がして、地面には赤いものがぶちまけられている。

 私の口からは大量に血が流れていた。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


 何故私は今、こんなに痛い思いをしているんだろう。

 怖い思いをしているんだろう。

 どうしてこんな事になったんだろう。


 そんなことが頭を駆け巡っていると、目の前が暗くなった。

 大きな、大きな影が立っていた。

 醜悪な顔をして、目の前で大きな剣を振り上げている。


 私は何も変わってない。

 強くなんてなれてない。


 此処に来たばかりの頃にゴブリンに殺されかけた。

 あの時と似通ったシチュエーションを目の前に、ただ悔しさが込み上げてくる。


 涙で濡れる私へと、容赦なくその凶刃は降り下ろされた。


 あぁ……死んだ。

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