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第13話 対小鬼族戦③ 老戦士の思惑

 森の各地から戦闘音が響き始めた。


 小鬼族の断末魔の声。

 剣劇の音。

 魔法による破壊音。

 風叫(ウィンドハウル)による、戦況報告。


 そんな死の臭いが溢れた森を一つの影が滑る。

 戦闘音の聞こえる場所から極力距離を取って、影は滑る。


 ガサッ


 影の前に更に三つの影。


「ケキャキャ!」


 三つの影は、突然の来訪者に剣を振り下ろす。

 しかしその剣が届くことはなかった。


 一つは矢に射抜かれて。

 一つは首を刎ねられて。

 一つは目に石が撃ち込まれた後、痛みに仰け反った所に心臓を一突きされた。


「こんなとこまで来てやがんのかよ」


 その人物は、額の汗を拭いながら、怪我がないかを確かめる。

 問題がない事を確認した後、ゴブリンに刺さったナイフを抜いた。


「ったく、兄貴も無理させるぜ。俺が現役から退いてどんだけ経つと思ってやがんだよ。死んだらどうすんだ」


 彼、スリングは溜め息を吐きながら、ナイフの血を拭う。

 一時間程前になるだろうか。

 彼の前に一人の人物が居た。


「スリングよぉ、お前には悪いとは思うが、一つ働いてもらえねぇか?」


 嫁さんの避難をさせ、店の商品から必要な物だけ見繕って避難を進めようかとしている所に現れた来訪者。


「おいおい兄貴よ。俺はもう引退したんだよ。今はしがない雑貨屋で、非戦闘員の一人だってんだよ。そりゃこの森や兄貴には世話になってるが、最初に言ったろ?俺はもう戦わねぇし、戦えねぇよ」


 目の前の人物、ソルトロッソとは血が繋がった兄弟という訳ではない。

 ただ同じ人物に育てられ、同じ人物にモノを教わったというだけだ。

 それも知ってる人物は多いわけじゃない。


「それは重々承知してらぁな。その上で無理な頼みをしてるんだよ。別に先陣切って戦えなんて言わねぇよ。そんなもんは俺やお前にはもう出来やしないのは解ってるからな。ただ、今回はどうにもキナくせぇ」


 兄貴はそう言って拳を握っている。

 この人は戦う事しか出来ない人だった。

 俺もそうだった。


「俺には器用な真似はできねぇが、スリング。お前は別だろ? ウェポンマスターの称号までジジイからもらってんだ、武器を使えば俺よりはまだ動けんだろ」


 師匠が戦闘狂だと弟子も戦闘狂になるもんだ。

 それが嫌で使う側じゃなく、売る側になったってのに。


 違うな。


 本当は武器からは離れるつもりだった。

 でもそうはいかなかった。

 だから武器以外を取り扱ってまで武器と関わった。

 武器屋じゃなく雑貨屋にしたのは、自分の罪を隠したかったのかもしれない。


 黙っている俺を無視して兄貴は続ける。


「さっきも言ったが、先陣切って戦えってんじゃねぇ。戦闘区域を迂回して、小鬼族の本隊を探ってほしい。何かがあるはずだ。それだけ確かめたら、即逃げていい」


 兄貴の顔は自分が死ぬ事を覚悟した顔だった。


「わぁったよ。ただし、そこまでしか本当にやらないからな? 死んだら嫁さんにどやされちまう」


 俺は溜め息を吐きながら、頼みとやらを聞くことにする。

 血が繋がっていないとはいえ、仮にも兄貴が死んだら、旨い酒を気持ちよく飲めなくなっちまう。


「すまん。恩に着る」


 兄貴が頭を下げた。この人も丸くなっちまったな。

 いや、お互い歳を取ってしまったんだろう。

 一先ず、使えそうな武器を揃えて、村を出発し、南に迂回しつつ、小鬼族の本隊の場所に目算をつけて移動を開始した。


 しかし、思った以上に戦域が拡大してるのか、予想以上に敵の数が多いからか、こんな所にまで敵がいる。

 移動経路を修正しつつ、更に先へと進む。


 移動を開始して、1時間ほど経っただろうか、森を抜けた。

 慎重にレシット山脈と森の入り口の間を見る。


 暗視(ナイトヴィジョン)鷹の目(イーグルアイ)のスキルを発動する。


 おぉぅ。多いな。

 戦闘開始から時間も結構経つっていうのに、小鬼族で溢れている。

 見てみると、ゴブリンに混じってホブゴブリンも多数見受けられた。

 特に目立っておかしなものがある様子はない。

 兄貴の勘が鈍ったのか。


 一応そのまま監視を続けて、そろそろ引き上げようかと思っていたらソレを見つけた。


「は?」


 自分の目を疑った。

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