番外編 スリングさんととある一日。フロッグラビットを添えて
小鬼族戦と言ったな?あれは嘘だ!
今回は10話達成での番外編です。大体10話毎くらいで番外編を挟みたいと思います。
「今日の仕入れは、まぁまぁだな」
上機嫌で歩いてると、前から見知った顔が歩いてくる。
まだまだ若いのに、この村で一番腕のたつ戦士だ。
「よぉ、シル。ん? 何だ? その子は……人族か? 黒髪なんて珍しいのを連れてるな。服装も見たことないもんだし、捕虜か?」
初めて見る顔だ。
人族だとしても、若すぎる。
流石にこれがどっかの敵の兵士って事はねぇだろう。
噂じゃ子供の兵士を暗殺者の様に育ててる国もあるとは聞くが。
話を聞いてみると、森で小鬼族に襲われていたらしい。
そりゃ災難だな。
平時ならまだしも、今の大森林に子供がいるのは危ねぇ。
シルの話だと、今のところ大規模戦闘が即始まるって事はないようだ。
安心したところで、珍しくシルが何も手にしていない事に気付いた。
普段なら狩りの獲物を持って帰ってくるはずだ。
コイツは見廻り中でもしっかり狩りもこなすから、流石だ。
どうやら、このお嬢ちゃんに血生臭い思いをさせない様に、置いてきたらしい。
優しいこった。
仕方ねぇ、ここはおじさんが骨を折ってやるか。
シルに獲物の回収の手配は俺の方でやる事を伝えると、蛙兎の旨い所を分けてくれるらしい。
マジか! あれはすげぇ酒に合うんだよなぁ。
情けは人の為ならずってな。
シルと別れてウキウキしながら、酒屋で酒を買って行く。
まだ仕事も残ってるし、飲めないが、これは今日一日頑張ってから、最高の肴と一緒に楽しむもんだ!
さぁ! 今日も頑張るぜ!
昼の客足もピークを過ぎて、暇になってきたところに、シルとお嬢ちゃんが通りがかる。
声をかけてやると、お嬢ちゃんの滞在は許可が出たらしい。
良かったな、お嬢ちゃん。
機嫌が良かった事も手伝って、今日仕入れたばかりの果実をお嬢ちゃんにくれてやる。
囓った後にお嬢ちゃんは幸せそうな顔でほっぺたを膨らませて食べている。
黄色栗鼠みたいだな。
夕方の客足が伸びてきたところで、シルとお嬢ちゃんは帰っていった。
シルに聞いたら、例のブツは後で届けてくれるらしい。
楽しみだ。
夕方の客も終了し、店を閉めようとしていると、シルが例のブツを持ってきてくれた。
ヒョー! やったぜ!
急いで店仕舞いを終わらせて帰宅する。
嫁さんの飯を食い、行水が終わり。
さぁ! ここからが俺のお楽しみと癒しの時間だ!
例のブツを調理しようとして、置いていた場所に無い事に気付く。
あれ? どこいった?
よく見ると酒もない。あれ?
暫くの間探してみるも見つからない。
おかしい。どこいった?
しかし、一度楽しみにしていた以上このまま寝る事は出来ない為、代わりになりそうなものを探しに調理場に向かう。
満足できるかはわからないが、このままでは寝られない。
調理場に近付いて、芳ばしい香りに気付く。
なんか、すげぇ旨そうな匂いがしてるんだが。
調理場に入ってみて理解した。例のブツと酒の在処だ。
「一人で美味しいものを食べようなんてズルいのよ。何年一緒に居ると思ってるのよ。アンタが隠れてこういうことしようとしてる事くらい、すーぐわかるんだからねぇ」
其処には、ケラケラと笑いながら、蛙兎の舌を香ばしく焼き、酒を片手にフニャフニャになってる嫁さんが居た。
コイツめ……
仕方ない。
今日のところは俺の負けだな。
その日、久しぶりに嫁と若い頃の話と、旨いモノを酒の肴にしながら、夜遅くまで呑み明かした。
こうして、雑貨屋スリングの日常は彩られている。
タン食べたいデス。