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恋の香りに導かれ  作者: オクノ フミ
3/3

3.諦めない約束

 この3話掲載に合わせて、小説タイトルを変更しました。こちらの方がしっくりくるのでは?と思います。また、このエピソードではレート指定は不要でしたので、小説情報でR15指定を外しました。

 ミアが祈ってくれたおかげか、その日の収録は順調に進んで予定より早く終わった。その途端緊張しだした僕を見て、ユチャンが黙ってポンと肩をたたいてくれた。セナも「力入り過ぎ!」って笑ってた。年少組はそんな感じで軽く励ましてくれるんだけど、年長組がみんなウザイ。ベク兄さんは何度も「遅れないようにな。」ってうるさいし、チャンス兄さんは「彼女のことを1番に考えろよ。」ってしつこいし、自分のことで手一杯なはずのテオク兄さんに至っては「ここで練習していけ!」って騒ぐし。…でも、みんな心配してくれてるんだ。わかってる。ありがたいことだよね。


 いろんなことを一緒に乗り越えて今がある。そのことも僕は絶対忘れてないよ。だから、時間がかかっても絶対認めてもらうんだ。心配し、応援してくれるみんなのためにも…。




 教えてもらった住所に、時間少し前に無事着いた。さすがに立派なお宅で、普段なら敷居が高くて躊躇するところだけど、今日は、そんなことを思う余裕すらない。失礼のないように。けど、彼女への想いは真剣なものだとわかってもらいたい。許していただけるまで諦めませんって、きちんと言わなきゃとか、頭の中が言わなきゃならないことでいっぱいだ。


 深呼吸してチャイムを鳴らす。待っていたらしい彼女が、迎え入れてくれた。不安そうな彼女を見て、かえって落ち着いた。


 「大丈夫。認めてもらえるまで諦めないから。今日がダメでも、何度でも来るよ。だから、ちゃんと認めてもらえるの待ってて。」

 「はい。」


 僕の言葉に彼女も少し安心してくれたみたい。さあ、がんばれ、僕。


 「お父様、いらっしゃいました。」

 「入っていただきなさい。」

 「失礼します。」


 僕が部屋に入ると、局長は彼女に下がるように言った。心配そうな彼女だったけど、静かに出て行った。


 「さて。今日は何を話してくれるのかね?」


 怒っているらしいと聞いていたけど、そんな風には見えない。だから、落ち着いて話し出すことができた。


 「単刀直入に申し上げます。僕はミアさんが好きです。まだ数回しか会ったことがないですが、彼女の控えめで、でも、しっかりしたところや、人に対して気遣いのできる優しいところ、それから見た目だけではなく、気持ちもとてもかわいらしいところに惹かれました。この仕事をしていることで、不安に思われることもあるかと思いますが、生半可な気持ちで伺った訳ではありません。決してお嬢さんを傷つけたりはいたしません。ですので、どうかお嬢さんとのお付き合いをお認めいただけないでしょうか。」


 僕の言葉を黙って聞いていた局長が僕に聞いた。


 「こんなことを言って、仕事を干されるとは思わなかったのかね?」

 「マネージャーには叱られました。認めてもらえるまで、付き合いは許さないと言われています。メンバーのみんなは心配しながらも応援してくれています。ですから、マネージャーやみんなの信頼を裏切らないためにも、お許しいただけるまで、お付き合いはいたしません。でも、ミアさんも僕を待ってくださると言っていただけたので、お許しいただけるまで、何度でも来ます。諦めません。それだけ僕は真剣にミアさんを想っています。」

 「そうかね。じゃあ今日はここまでにしよう。君の真剣な気持ちを信じていいものか、私なりに判断させてもらうよ。また、その内時間を取るから。では、これで。」

 「はい。夜遅くに失礼しました。」


 頭を下げて、退室した途端、ガチガチになっていた全身が脱力した。あっという間の面談終了でこれなのだから、もっと話し込んだ時はどれだけ疲れるのだろう。これがこの先何度続くのかはわからない。僕の真剣さをどうやって計るつもりのなのかもさっぱりわからないけど、彼女とも約束したんだ。簡単に諦めたりしない。


 本当は、彼女に会って帰りたかったけれど、そんなことでも何か言われそうで我慢した。お宅を出たところで『今日はこれまで。帰るね。』と簡単に連絡した。『お疲れさまでした。おやすみなさい。』と返信が来て、思わず微笑んだ。




 それから、何度か同じように呼び出されて、その度に同じような話をして、けれど何も言われずに終わることが続いた。


 最初の訪問から3か月経った。あのレギュラー番組もほぼ収録を終えて、迎えたたぶんこれが7回目。これまで局長ご本人だけが対応してきたところが、初めて奥さんも同席された。…けれど、やっぱり話は同じように進む。特に変わったことはない。ほんの少し諦めの気持ちが浮かんできそうになるのを、必死で抑え込む。ここまで来ると、ほとんど意地だ。付き合える付き合えないよりも、「簡単には諦めない。」と誓った彼女との約束を守る、ただそれだけ。とりあえず、彼女がいやがっていたお見合いの話は、取りやめではなく先送りになったと聞いた。それだけでも、来ている意味がある、と思うようにした。


 局長とのいつもの展開が終わって、じゃあ、お暇しなくちゃと腰を上げかけたら、一端退席して戻ってきた奥様が初めて口を開いた。


 「ミアとはいつ会いましたか?」

 「こちらに最初に伺った時にお出迎えいただいて、その日以来顔を合わせてはいません。約束ですから。」

 「それで満足ですか?」

 「それは…正直に申し上げて、とても会いたいです。メールしたりはしていますが、直接会って話すのは、その何倍も幸せな気持ちになれます。」

 「そう。じゃあ、今日は会わせて差し上げましょう。ミア、入りなさい。」


 その声に静かにドアが開いて、泣きそうなミアが入ってきた。僕はその姿に驚いた。元々華奢だったのに、もっとやせてしまって…。僕は、局長や奥さんの前であることも忘れて、ミアに駆け寄り、その細くなった体を抱きしめた。あんまり痛々しくて、見ていられなかったから。


 「大丈夫?ミア。ちゃんと食べられてる?ちゃんと寝てる?ゴメン。もっと気遣ってあげればよかった。認めてもらうまで会わないなんて言ってないで、ちゃんと顔を合わせて話すべきだったね。意地になって約束守ろうとして、1番肝心のミアのこと大切にしてあげられてなかった。ゴメン!本当にゴメン!」


 ミアは僕の腕の中で、静かに泣き続けた。その内に、ふ~っと体の力が抜けて、僕に体を預けると気を失ってしまったんだ。僕はその体を横抱きにして、局長と奥さんの方へ向いた。この様子では、相当眠れていなかったんだと思う。


 「ちゃんと眠らせてあげたいので、お部屋まで連れて行ってよろしいですか?」

 「その前に、私達と約束してもらえるかな?」

 「何でしょう?」


 局長と奥さんは顔を見合わせ、うなずき合った。


 「ミアとの付き合いは認めよう。ただし、門限は夜10時。君の自宅への出入りは禁止。それ以外にも、君に誠実さが欠けているような態度が見えたら、その時点で終わりだ。それで構わないね?」

 「はい。もちろんです。ありがとうございます。」

 「…正直、本当は、認めるつもりは無かったんだよ。この仕事をしているとね、やはり芸能人・タレントに関してあまりいいイメージは持てなくてね。忙しい君のことだから、のらりくらりと引き延ばしている内に諦めるだろうと思ったんだ。ただ、ウチの局で番組を持ってもらっている間は、断って何かあっても局長として問題があるから、終わったら、言い渡すつもりだった。でも、ごらんのとおり、ミアがね、完全に参ってしまって…。」

 「ここ最近急に滅入ってしまって。ロクに食事も摂れない、夜もあまり眠れてないようで、みるみるやつれてしまったの。恋煩いって、本当に病気なのね。お願いだからちゃんと娘を元の元気な姿に戻してちょうだい。それだけが今の私の望みよ。」

 「わかりました。」

 「じゃあ、ミアを寝かせてやって。」



 奥さんに案内されて、ミアを部屋まで運んだ。いかにもミアらしいかわいい部屋だったけれど、肝心のミアに元気が無いことで部屋までくすんで見える。


 「しばらく付き添っていてもよろしいですか?」

 「…そうね、その方がきっとミアのためよね。適当な時間になったら呼びに来るから、それまでね。」

 「はい。」



 パタンとドアが閉まって、部屋がまた静かになる。肌が白いからなおいっそう青白く見えるミア。そんなに思い詰めるほど僕のことを想ってくれてたんだね。うれしいけど、苦しいよ。


 「意地なんか張らなきゃよかった。約束にこだわって、結果ミアを1人にして。ゴメンね、ミア。許して…。」


 そっと、その青白い頬を撫でた。ひんやりした頬。あのふんわりと頬を染めていた時のミアとはまるで別人だ。本当に人形になってしまったかのようで、胸が痛い。せめて、僕の体温が伝わるように、そっと手を握った。


 どのぐらいそうしていたのだろう。長いまつげがピクピクっとして、ゆっくりミアが目を開けた。まだはっきりしない視界に最初に映ったのが僕だったからか、力なくはあったけど、ミアが微笑んでくれた。


 「インファさん、いてくれたんですね。」

 「うん。下で気を失ったから、ここまで運んで、付き添わせてもらってたんだ。大丈夫?気持ち悪くない?」

 「…はい、大丈夫です。インファさんに会えたから。」

 「ゴメンね、ミア。1人で寂しい思いさせて。でも、ご両親が認めて下さったよ。付き合っていいって。」

 「本当ですか?」

 「うん。門限夜10時、僕んちへは出入り禁止だけどね。」

 「信じられないです。あんなに怒ってたのに…。」

 「こんなミアを見てるのがご両親も辛かったんだと思うよ。寝られなかった?」

 「どうしたらいいのかわからなくなって、いろんなこと考えて…。ここのところ悪い夢ばかり見るんです。だから…。」

 「そうだったんだ。僕は仕事してるから、まだ切り替えができたけど、ミアは1人で考える時間がたくさんあったものね。ホント、ゴメン。」

 「謝らなくていいんです。だって、もうこれからは都合さえ合えば会えますよね?」

 「うん。だから、早く元気になって。お茶したり、映画を観たり、買い物に行ったり、ミアとしたいこといっぱいあるから。」

 「はい。早く元気になります。」


 表情が明るくなっただけでも、僕がいた甲斐がある。よかった…。


 「明日メンバーと事務所に報告するから。その後、マネージャーの連絡先も教えるね。収録中とかで僕が出られない時は、マネージャーに連絡してもらえるようにするから。」

 「はい。」


 青白かった頬がほんのり色づいてきた。僕のかわいいミアが戻ってきてくれた。それだけで、幸せな気持ちが満ちてくる。


 けど、いつまでもこうしてはいられない。ミアが目を覚ました以上、長居するのはよくないな、と思った。僕の家に出禁なのは、二人っきりにしたくないというご両親の意向なのだから。まったく信用されてないってことだけどさ。それも、約束を守って、ミアを大事にしていれば、いつかきっと信用も得られるはず、と思うから。


 「ミア、もう大丈夫?あんまり遅くまでいるときっとまたご両親が心配すると思うんだ。ミアが大丈夫ならそろそろ失礼しないと…。」

 「そうですよね…。」


 見るからにシュンとしたミアがかわいそうで、何かできないかと思った。そこで思い出したんだ、香水のことを。僕のカバンの中に同じラインのオードパルファムを入れてあるって。


 「ね、ミア。起きても大丈夫なら一緒に下へ下りてくれる?下に置いてあるカバンの中に、今僕が付けてるオードパルファムが入ってるから、それを置いていくよ。この香りだから。ミアがくれた香水と同じラインなんだ。」


 そう言って、僕はふんわりとミアを抱きしめた。コトンと僕の胸に頭をもたれるミア。


 「インファさんの香り、すごく落ち着きます。」

 「そう。ならよかった。僕と同じ香りを使ってれば、1人じゃないって思えるよね。」

 「はい。」

 「じゃあ、行こうか。」


 まだちょっと顔色は悪いけれど、さっきのように今にも倒れそうな様子はなくなって、足取りがしっかりしている。今日会えて本当によかった、と思った。



 僕と一緒に下りてきたミアを見て、ご両親も確かなミアの変化を感じたのだろう。明らかにホッとしたのがわかった。


 「遅くまでお邪魔しました。ミアさんも目が覚めたので、これで失礼します。もう少しミアさんが元気になったら、また、お誘いに上がりますので。」

 「わかりました。…ミアを元気づけてくれてありがとうございました。」

 「本当にありがとう。」

 「いえ。特別なことは何もしてませんから。」


 ご両親から御礼の言葉をもらえるなんて思わなかったからちょっと驚いた。


 「玄関までお見送りしてきます。」

 「ああ。」


 ミアもそんな様子にほっとしたのだろう。落ち着いた声でそう伝えて、僕を玄関まで送ってくれた。


 「はい、じゃ、これ置いていくね。寂しくなったら使って。」

 「うれしいです。ありがとうございます。」

 「家に着いたらメールする。」

 「あの…声が聞きたいです。電話をもらってもいいですか?」

 「もちろん。じゃあ、電話するね。」

 「はい。」


 うれしそうな笑顔のミアに見送られて、僕は晴れやかな気持ちでミアの家を後にした。



 僕とミアの恋は、やっとスタートラインに立ったところ。恋愛初心者の2人を、あの香水が縁を結んでくれたんだね。経験がない分、うれしいことや楽しいことだけじゃなく、戸惑うことや悩むこともきっとたくさんあると思うけれど、初めてのいろんなことを2人で一緒に経験して乗り越えていければいい。もし、うまく乗り越えられなくて、傷ついたとしても、恋をしたことを絶対に後悔しない。僕にとってミアとの時間は、それだけの価値があるから。


 ミアの手を取って、2人でゆっくり歩いて行こう。その進んでいく先に何があるのかはまだわからないけれど、歩きながら、語り合い、伝え合い、信じ合ってより確かな関係を築いていきたいと願ってる。その気持ちを今は大事にしたいんだ。


 今夜は何だか空の星さえいつもより輝いて見える。僕とミアの歩いて行く道を照らしてくれてるのかな?この星たちの光をたどって行った先に、2人の幸せが待っていますように…。僕はそう星に願った。


 

- 完結 - 

 以上で、スピンオフ作品、年少組・インファとテレビ局制作局長の令嬢・ミアとの「始める恋」のお話『恋の香りに導かれ』は、全3話で完結です。機会があったら、始まった二人の恋の様子を書けたらいいな、と思います。

 お付き合いいただきありがとうございました。

 なお、残りのメンバー3人のお話も準備中ですので、そちらでまたお付き合いいただけたらうれしいです。どうぞよろしくお願いします。

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