発芽、そして急成長~2~
リアルがゲロ忙しくて遅れました。
すみません。
「シラーさん。特別融資の話なんだけど」
「……」
「鉄を買うことを確約すれば、相当な金額引き出せるってのは本当かい?」
「ホントウデス。キンカイチマイノユウシガカノウデス。」
「金貨1枚!?ま、まじか!?」
「……」
「でも、利子がやばいだろ?仮に1%未満でも俺達は死んじまうよ。」
「キンリニカンシテデスガ、コチラノケイヤクショニナリマス」
「金利1%。やっぱそうか。……ん?この希望者なら分割可能ってのは何なんだ?」
「キボウシャナラ、1%ヲツキゴトニ、サイダイニジュッカイニブンカツデキルトイウコトデス」
「…ん?てことは、借りてひと月以内だったら……あぁぁ!分からん!」
「1.0005バイデスヨ」
「おぉ!すげぇな!そんなんで、シラーさんは大丈夫なのか?」
「……」
「あぁ、すまんすまん。忙しいんだったよな。そりゃそうか、こんな契約書があるんだったらみんな来るわ!あははは!じゃあ、俺も融資を頼む。ほら、ここにサインすればいいんだろ?」
「ハイ」
「ありがとな!」
「マタノゴライテンオマチシテマス」
☩
(馬鹿か!こんな、簡単なトリックに引っかかる奴が本当にいるのか。やっぱ、生活に役立たない計算なんてもんは、庶民は覚えないもんか。)
隣の部屋、薄暗い闇の中でヴァンジェアンスが、シラーを見つめている。
(てか、もう少しシラーの会話の種類増やさねぇとな。さっきの奴は馬鹿だったからいいけど、違和感が大きいしな。)
さっき、ちょくちょくシラーが黙り込んでいたのは想定外の言葉をかけられたからである。
ヴァンジェアンスに支配魔法をかけられた人間は、ヴァンジェアンスの指示以外のことはできない。
この魔法の欠点の一つはそれだ。
ところで、さっきヴァンジェアンスが言っていたことだが、これはいたって簡単なトリックである。
斉藤樹の世界でも、一時期行われた詐欺の一種である。
このトリックは、四則演算が完璧にできれば気づくものだ。しかし、この世界で庶民は足し算と引き算は、できるが掛け算割り算を出来るものは少ない。
識字率もある程度あるが、やはり使わないものは広まらないし、覚えないものである。
ヴァンジェアンスは男が部屋から出ていくのを確認するとシラーの下へ向かい、契約書の枚数を確認する。
(53枚か。こっちの計画は、充分進んだな。あとは、マリアをどうするかさっさと決めねぇとな)
「シラーこのあとも引き続き任せた。」
「ハイワカリマシタ」
ヴァンジェアンスは、静かに裏口から銀行を出て家に向かう。
道中も、徐々に噂が広まっているのを確認して、ほくそ笑みながらではあったが。
~*~
「ただいまぁー!」
「おかえりなさい」
「おかえり、ヴァンくん!」
「おかえりなさいませ。ヴァンジェアンス様。」
家につくと、ミミカ、べリスの3人が出迎える。
マリアは、居間の方で編み物をしているようだ。
ヴァンジェアンスは居間に向かう。
「おかえりなさい。今日はどこに行ってたの?」
「街を見回ってたんだ。」
「そう。なんか、最近おかしな感じだから気をつけなさいね。」
マリアがヴァンジェアンスにそう忠告する。ヴァンジェアンスは少し動揺しながらも
「(察しがいいな)うん分かった!」
直ぐに対応した。まぁ、あまりマリアは家から出ないとはいえ、友達もいるようだし気づいてもおかしくはなかった。
「よろしい!あ、ところで今日お父さんが家に来るわよ」
マリアが何の気なしにそう言った。
「…………え?」
(お父さん?1度も会ったことねぇぞ?それが、今日来るってどういうことだ?)
「なんか、仕事でこの街に寄るんだって。」
マリアは編み物から目を離さず淡々とそう言った。その声からは、何の感情も伺うことは出来なかった。
~*~
「おい、べリス。」
「は、はい。何でしょうか」
べリスがヴァンジェアンスの声にすぐに反応する。
「この街の騒動に母さんを巻き込まないために、俺はやるべき事がある。明日から、家をちょくちょく開けるが、全て俺のいうとおりにしておけよ。」
「は、はい。」
「あ、あと俺の父さんって誰か知ってるか?」
ヴァンジェアンスが尋ねると、べリスは少し驚いた顔をして
「王都でも有数の資産家の、リュラー様です。」
「リュラー?聞いたことねぇな。」
「はい。彼は優秀なのですが、女遊びが激しいようで、相手に子供が出来たら金を与えて、手を切るというのを繰り返しているようです。」
「てことは、母さんは愛人ってことか。」
ヴァンジェアンスが、少し暗い声でそう呟く。べリスは、その反応を見てまずいことをしたんじゃないかと体を固くする。
もと、盗賊のくせになかなか優秀である。
「ヴァ、ヴァンジェアンス様。すみませんでした。」
「ん?なんだ?」
「い、いえ、私の言葉でヴァンジェアンス様が気を悪くしてしまったのではないかと…」
「あぁ、別になんてことはない。予想はしていたしな。」
べリスは、ほっと、息をついた。
しかし、
「まぁ、悪いと思ってるんだったら、主人として罰を与えなくちゃァなぁ」
ヴァンジェアンスの口元が歪む。
べリスは、やぶ蛇だったかと口元を引くつかせている。
「締め上げろ!奴隷紋」
「!?きゃー「黙れ」むぐぅ!ぐぅ!うぅ…」
べリスは、内臓、というより子宮から伝わる異様な圧迫感に咄嗟に悲鳴を上げそうになる。
しかし、ヴァンジェアンスはそれを許さない。奴隷紋を介した命令により、べリスの口は強制的に閉じられ、涙を目元に浮かべながら、蹲るしかべリスにはやれることは無かった。
ただ、
「おい、なんかお前あんま苦しんでないな。」
べリスの顔には苦痛だけでなく、ほんの少しではあったが快楽の色が浮かんでいた。
というのも、べリスは日常的に繰り返される、ヴァンジェアンスからの暴力によって、若干Mになっているのであった。
しかし、それには気付かない、というかまさかそんなことになっているとは思わないヴァンジェアンスは
「次からはもっとキツイ罰にするか。…あ、あと床は綺麗にしとけよ。漏らしてるみたいだしな。」
べリスの股間のあたりは、若干湿っていた。
……それの原因についてはここで言及するのはやめておこう。
べリスは、恍惚とした笑みを浮かべていたとだけ言っておくが。
~*~
夜。
食卓には、いつもの様に立派な食事がならぶ。
シチューにパンをつけながらヴァンジェアンス達は夕食を楽しむ。
べリスは、エミリアとは違い遠慮はせず普通に席に着いていた。
ゴンゴン
ノックを強く叩く音が食卓に響き渡る。
食卓の空気が一瞬凍りつく。
ヴァンジェアンスはマリアの顔を見るといつもの、ニコニコとした顔に少し影が出来ていた。
「開けてきましょうか?」
べリスがそう提案する。
「いえ、私が開けてくるわ。」
しかし、マリアは直ぐに立ち上がり玄関の方に向かう。
そして、
「じゃあ、ちょっと見てみるか」
「はい?」
「いや、玄関に監視用で水晶を取り付けてたんだよ。」
ヴァンジェアンスは懐から取り出した水晶…というには平べったい板のようなものを取り出した。
「なにー?それー?」
「水晶を薄くした物」
ヴァンジェアンスが素っ気なく返事をする。
ヴァンジェアンスの視線は水晶に釘付けだった。
☩
『…こんばんは。リュラーさん』
マリアがうつむき加減で、リュラーと目を合わせずに挨拶をする。
それは、言外に相手との拒絶を現しているようだった。
『おいおい、俺とお前の仲じゃないか。リュラーさんなんて距離を感じるなぁ』
リュラーと呼ばれた男が軽い返事をする。リュラーは年齢の割には若々しく、髪は茶髪で長身の美男子だ。
『……』
『まぁ、いいや。ところで、マリアさ俺と結婚しない?』
『……え?』
リュラーが突然、マリアに結婚を提案した。
その提案に虚をつかれたマリアは咄嗟にリュラーと視線を合わせる、
その反応に気を良くしたのかリュラーがペラペラと話しはじめた。
『いや、ほらさ。久しぶりにマリアのこと見たらさ、前と全然変わらなくて何か可愛いなぁって。今の奥さんもそろそろいいかなって思って。』
『……』
『あ、でもなんだっけ?あの子供。あれは駄目ね。餓鬼とかほんといらない。そうだ、奴隷にして売ったらいいんじゃない?いやー、楽しみだな。マリアとの新婚生活。新婚旅行はどこに行く?俺はね、西の方のあの海岸の港町が──』
パンッ
夜の街に乾いた音が響き渡った。
『いい加減にしてください』
それは、マリアがリュラーの頬を平手打ちした音だった。
マリアの目元には涙が浮かび、全身を震わせて怒りをあらわにしていた。
その両目は赤くなりながらもリュラーを射抜くように睨みつけていた。
リュラーは平手打ちをされた瞬間は、驚いていたが、直ぐに興味を失ったような目になり
『ふーん。ま、いっか。また、この街を出るときに声はかけとくから。じゃあね。』
リュラーは来たときと同じように軽く何も起こらなかったかのような調子で去っていった。
☩
「あら、まだ食べ終わってなかったの?」
マリアが食卓に戻ってくる。その目元は赤く腫れていた。
「……うん。お母さんを待とうと思って。」
「あら、ありがとうね。でも、ちょっとお母さんご飯はいらないの。」
「どうして?」
「うーん。なんか、ね。ちょっと疲れちゃった」
「……そう。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
マリアは重い足取りで寝室に向かう。
ヴァンジェアンスはマリアが完全に見えなくなったのを確認すると。
「おい」
「はい。」
べリスは直ぐに返事をする。
しかし、それは昼間とは違い力強く意思のある返事であった。
「分かってると思うが計画を少し変更する。」
「分かりました」
ヴァンジェアンスが口元を歪ませる。
しかし、目は一切笑みを浮かべておらず怒りをみなぎらせていた。
「あぁ、あの男をぶち殺してやらなくちゃ気が済まないからな。」
ヴァンジェアンスの両目は紅くなっていた。
致命的なミスを発見したので修正しました。
すみません