終わりの始まり
1周目
産まれてすぐに、口減らしのために川に流され死んだ。
2周目
3歳の時に、家が強盗に襲われ遊び半分に刀投げの的にされて死んだ。
3周目
口減らしのために、奴隷商人に売られ輸送途中に馬車から落ちて死んだ。
4周目
どうにか、5歳まで生きていたが兄が貴族の怒りを買い、家族全員晒し首になって死んだ。
5周目
エルフ族の子供として産まれたが、普通に口減らしのために売られ死んだ。
6周目
人の子供として産まれた。
少年と言われるほどまで生きた。
友達と一緒に森を歩いていたら、魔獣が出てきて、友達に囮にされ死んだ。
7周目
少年になり、街を歩いていると盗人だと言われ、弁解する間もなく首を切られ死んだ。
8周目
魔族として産まれた。
親の巨人の様な足に誤って踏まれ、死んだ。
9周目
魔族として産まれた。
少し大きくなったが、肩がぶつかった魔族に殴り殺された。
10周目
エルフ族として産まれた。
よく分からない儀式のために、心臓を生きたまま取り出され死んだ。
11周目
人として産まれた。
冒険者になって旅に出た。
幼馴染みの女と、行きずりの男の3人でダンジョンに入った。
男が誤って発動させたトラップによって溢れ出る魔獣に追われる。
追いつかれそうになった時、幼馴染みと男に蹴り飛ばされ、魔獣に食い破られる。
囮にされたようだ。
死んだ。
12周目
魔族として産まれた。
父親が、他の魔族に殺されそうになった時、咄嗟に盾にされ体を引きちぎられて死んだ。
13周目
初めてドワーフとして産まれた。
ミスリルの武器には子供の骨が必要らしく、焼き殺され死んだ。
14周目
魔族として産まれた。
村に攻めてきた人間に、理由もなく殺された。
15周目
エルフ族として産まれた。
魔法学校に通っていた。
貴族に勝負を挑まれ勝った。
家族全員殺された。
16周目
人として産まれた。
王族の息子の内の1人のようだ。甘やかされて過ごす。
継承権の問題だかで暗殺された。
17周目
また、王族として産まれた。
暗殺には注意をしていたのだが、民衆の反乱が起こり、ギロチンにかけられた。
死んだ。
18周目
魔族の王族として産まれた。
他の兄弟との、殺し合いを強制され死んだ。
19周目
人として産まれた。
死んだ。
20周目21周目22周目23周目24周目25周目26周目27周目28周目29周目30周目31周目32周目33周目34周目35周目36周目37周目38周目39周目40周目41周目44周目45周目46周目47周目48周目49周目50周目51周目52周目53周目54周目55周目56周目57周目58周目59周目60周目61周目62周目63周目64周目65周目66周目67周目68周目69周目70周目71周目7…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
1024周目
勇者となった男は、「第二王女」ミスティ、「聖女」アンナロッテ、「白魔法使い」ミシェル、「黒魔法使い」ベアト、「剣士」ロイワルド、の6人パーティで魔王を討伐した。
しかし、魔王討伐の後「勇者の討伐」という王国からの、緊急クエストが発生する。
平和になった世界に、勇者という人気者がいると、困る権力者の数が多かったのだ。
「勇者討伐」に懸けられた懸賞金は白金貨1000枚。五世代は遊んで暮らせる額だ。
勇者討伐のために、近衛兵、貴族の私兵、王国の住民、勇者が助けた村の子供、勇者の仲間達も全てが敵に回った。
ミスティに騙され城に登城した勇者に、アンナロッテの結界とミシェル、ベアトの極大魔法が炸裂する。
「平民風情が図に乗りすぎなんですよっ!さっさと、死んでください!!」
「世界の平和にあなたは邪魔なので」
「お前の体は、私の魔術の実験に使ってやるから安心して死ね!!」
「生まれて初めて人間にここまで全力の魔法を使うぜ!ははっ!てめぇは化け物だっけな?」
しかし、勇者も伊達ではない。
左腕を消し炭にしながらも、その場を切り抜ける。
雨が降り注ぐなか、右腕をぼろ布で覆い隠しながら、城下町の貧民街を隠れ進む。
だが、
「おい!こっちにあの男がいたぞ!!」
全ての住人が敵だった。
道を歩く子供も、かつて薬を分け与えた老人も。
俺は、直ぐに城下町を出て以前攻略した、高難易度のダンジョンに向かった。
ボスの間は比較的安全だったからだ。
だが、
「いらっしゃい。ここがお前の墓場だよ」
ロイワルドが待ち構えていた。
ミシェルとベアトが俺に極大魔法を打ったとき、追跡魔法をミスティが掛けていたらしい。
そして、俺の向かう先が分かったロイワルドは先行してこのダンジョンに来た。
以前、俺とロイワルドとミスティの3人で、ダンジョンをクリアしたことがあったから直ぐに場所も予想できたのだろう。
ロイワルドとの戦いは熾烈を極めた。
俺は、左手を失った状態で戦い続け、左目、右足を失い、さらに腹に一突き食らって満身創痍だったが、なんとかロイワルドを退けた。
男は持っていた、最後の転移アイテムを使った。
ランダム転移だったから、向かった場所は分からなかった。
視界が収束する。
周りを見渡すと、旅の途中で立ち寄った村に、近い森の際だった。
鬱蒼と生い茂る森の木の葉の隙間から、雨の雫が涙のように滴り落ちる。
俺は、1歩も動けなくなり木に寄りかかり雫に体を濡らしていた。
「あっ」
声がした方向に、視界を向けるとそこには以前盗賊に襲われていたのを助けた女の子がいた。
助けた後に、告白され村を離れるのが辛かった記憶がある。
「大丈夫?」
男はその俺のことを気遣う声に、緊張の糸が切れ、涙が流れ出した。
止まらない涙を拭う力もなかったが、俺は大丈夫と答えた。
目を閉じ、迫り来る死を受け入れる、落ち着いた気持ちになった。
が、
ドスッ
後頭部に鈍い痛みを感じた。
「勝手に、死んじゃ、困るの!私が、殺さなきゃ、お金が、もらえないじゃない!!」
女の子が手に大きな石を持って、男の後頭部に叩きつける。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
「やっと、死んだ」
1025周目
魔王となった男は、人類を根絶やしにした。ミスティも、アンナロッテも、
ミシェルも、ベアトも、ロイワルドも、男を殺したあの女の子も。
しかし、全世界を統一した、男を祝う、という参謀の悪魔族のリチャードの誘いに、魔王城に来ると。
「おはようございます、魔王様。そして、さようなら。愚王様。」
玉座に座るリチャードがそう言い放つ。
足元に異様な紋様が浮かび上がる。
すると、全身から魔力が吸い取られていくのを感じる。
咄嗟に、その場から離脱しようとすると
「ダメじゃない。魔王様。私の愛から逃げちゃ。」
男の体が一瞬拘束される。
声のする方をみると、そこには俺に常日頃から、愛の言葉を囁き誘ってきていた、サキュバスのルージュが、魔眼を怪しく光らせて立っていた。
魔眼“愛の束縛”見つめた対象を、相手の強さに応じて拘束する魔眼だ。
魔王である俺は、魔力を吸い取られているとはいえ、1秒程度しか拘束はもたない。
が、それで充分だった。
「おらぁっ!!」
狼族のゾーマが俺の体を地面に叩き込む。全身の骨がみしみしと軋み、地面にめりこむ。
彼は男が戦場に向かう時いつも、背中を任せていた戦友だ。
「さようなら」
吸血種族のミーシャが男の両手両足を魔眼“マリオネット”で千切りにかかる。
残り少ない魔力を右手と両足に通し左腕を犠牲にして、やり過ごす。
しかし、
「なかなか、しぶといですね。でも、これで終わりです。」
リチャードが懐から秘宝“革命の檻”を取り出し、それを叩き潰した。
これの効果は単純明快。王の力を削ぐ。ただそれだけを目的としたアイテムだ。
普段だったら大丈夫だが、現状の魔力が足りない状態で食らうと、まずい。
全身の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
そして、近づいてくるリチャードを睨みつけていると
「おぉ、怖い怖い。そんなに、睨まれると殺してしまうよ。」
ザンッ
首を落とされた。
しかし、魔王ほどになるとそれでもなかなか死なない。
頭を踏み潰され、脳漿が飛び散る。
眼球だけが飛び出していき、生体反応なのか勝手に動く。
胴体からも、未だ血を巡らそうと心臓が動いているのか、勢いよく血が噴きだしている。
だが、まだ死なない。
いや、むしろまだ死ねない。
「もういい、こいつは溶岩に沈めるとしよう。」
リチャードは痺れを切らしたのか、そう言い放ち、男の元仲間達を引き連れて王の間を出ていく。
男は魔王城地下にある岩石が真っ赤に溶けている空間に、ゴミのように棄てられた。
再生と死を幾千万回繰り返し、やっとのことで男は死んだ。
1026周目
男は半魔として生まれた。
人と魔人のハーフということだ。
その特性を生かして、少ないながらも仲間を連れ、人族と魔族の共存の道を
ひたすら模索した。
結果、魔王と勇者の間を取り持ち世界には今までにない、平和な時間が流れることとなった。
しかし、
「人族の貴族48名!魔族の貴族54名!及びに国家転覆の反逆罪で、貴様を勇者と魔王の名の下処刑する!!」
ブチッ
何かが壊れる音がした。
男を待ち受けていたのは、全ての罪を被せられて、処刑になるという道だった。
共存の道は正義だけではなせなかったのだ。
時には、反対する貴族や暗部を壊滅、もしくは暗殺するなど、後暗いこともやってきた。
その闇の部分を全て男に押し付けたのだ。
男は首と手と足に、魔力封じの枷を嵌められ処刑を待つということで、牢屋に押し込められた。
そして、処刑当日。
公開処刑として、主だった魔族や人族の重鎮や、様々な国民が処刑場に集まる。
彼等は、一昔前までは目が合うだけで殺し合う様な関係だったのだが、今では仲は良好になっている。
男が処刑場に連れていかれると、周りから石とともに罵声が投げつけられる。
男は何も言わない。
処刑場に辿り着く。
そこは、一種の高台のようになっている。
手枷と首枷を嵌められ、処刑人が持っている斧を高く掲げられる。
「何か言いたいことはあるか?」
処刑人が男に問いかける。
男はゆっくりと視線を前に向ける。
そこには、ミスティ、アンナロッテ、ミシェル、ベアト、ロイワルド、リチャード、ルージュ、ゾーマ、ミーシャ、そして、今回の世界で仲間だったリスケとミミカ、男に憎悪の視線を向ける数え切れないほどの民衆が幸せそうに立っていた。
「おい!何も言うことはないのか!」
処刑人が焦れったそうに、言葉を荒らげる。
そして、遂に男の口が開き。
「許さない」
「許さない。絶対に許さない。目を抉って殺す。内臓を炙って殺す。首を絞めて殺す。全身の骨を細かくくだいて殺す。眼筋を沸騰させて殺す。爪と爪の間に釘を打ち立てて殺す。四肢をもいでから家畜の餌にして殺す。瞼を剥ぎ取って全身を縛ってから腐虫の巣に落として殺す。皮を全部剥ぎ取って殺す。生きたまま内臓を引きずり出して殺す。体中の血を絞り尽くして殺す。砂の中に埋めて殺す。油で揚げて殺す。陸地で溺れさせて殺す。脳みそをぐちゃぐちゃにして殺す。塩酸の海に沈めて殺す。肉を削ぎ落として殺す。殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くす。」
処刑人が絶句している。
男の拡声された声は処刑場に集まった全ての人間に届く。
男の異様な姿にどよめきが広がる。
「俺は絶対に許さない。お前らの魂が消し炭になって、世界のゴミとなるまで絶対に諦めない。」
「はっ、早く、そいつを殺せぇ!!!!」
王族の一人が、男に恐れを抱き処刑人に指示を出す。
処刑人は、硬直していたが指示を聞き、ビクッと震えながらも斧を振り上げる。
そして、男の首に目掛けて一直線に───
「次の世界で待っていろ」
男の首が落ちる。
世界は巻き戻り、その姿は霞へと消えていく。無限に拡散していくはずの未来は、1点に収束をしその姿を再び現す。
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ある街に一人の男の子が産まれた。
「村」を「街」に変更しました。
サブタイトルを「世界の終わりの始まり」から「終わりの始まり」に変更しました。