姫騎士
静かになった泉。
しかし、俺の肩は小刻みに震えていた。
「? どうかされましたか、ラグザ様……?」
心配そうに俺の顔を覗き込むキキリ。
俺は顔を上げ、思いっきり彼女の肩を両手で掴む。
「きゃっ! ななななんですか!?」
「格好良い!! キキリめっちゃ格好良い!! 俺も騎士やりたいー!!」
「へ?」「は?」『はぁ?』
3人が同時に声を発する。
しかし俺の興奮は冷めやらない。
「皇女とかつまんねぇじゃん! なんかナヨっちくて頼りねぇし! 俺も騎士やる! やり方教えてキキリ!!」
「あう、あうあう……! ら、ラグザ様ぁ……! そんなに肩を揺らさないでくださいぃ……!」
困った顔で首をカクカクさせているキキリ。
俺は目を爛々と輝かせながら、自身が騎士になる姿を妄想している。
シャキーン!
ズババーン!
さっきのキキリは盾役だったけど、きっとすごい技とかで敵を木っ端微塵にするんだぜ……!
テンションあがるだろそりゃ……!
『……イデア』
「……ええ。どうしたらいいのかしら、この子……」
大きく溜息を吐いたシュウとイデアさん。
しかし俺の決意は変わらない。
だって小さい頃から剣士とかに憧れていたんだし。
剣道を始めたのだって、初めてみたアニメがあまりにも衝撃的で格好良かったからだし。
「イデアお姉さん! お願い! 俺にも騎士やらせて! なんでもするから!」
「ピクッ……。 今、『なんでも』と仰いましたか……?」
「へ……?」
すごく淫猥な顔をしたイデアさん。
さすがビッチの鏡というだけのことはある。
「いいでしょう。今からラグザ様の『称号』を騎士に変更いたします。その代わりに――」
『おい、イデア……。こいつの暴走に付き合ってやる義理はないんじゃないのか?』
「シュウは黙っていて。こちらの願いだけを強制的に押しつけるのは得策ではないわ。貴女だって本当は分かっているのでしょう? 私達は生まれてからずっと強制されてきたのだし」
『……ふん。勝手にしろ』
それだけ答えたシュウはまた何処かに消えてしまった。
まるで忍者みたいなやつだな……。
今度会ったらモフニンジャビッチとあだ名をつけてみようか。
……確実に抹殺されるだろうけど。
「い、イデア様……。宜しいのですか? メルエル様の許可無く『称号』を変更してしまうなんて……」
震えた声でそう話すキキリ。
というか『称号』って、さっきのステータスに載っていたあれだよね?
それを変えれば騎士になれるの?
なんか修行とかしないといけないんじゃなくて?
「大丈夫よ。メルエル様もラグザ様がその気になってくれれば手段は問わないと言っていたし。騎士になりたいのであれば、やらせるくらい問題ないでしょう。ではラグザ様、こちらに」
イデアが俺を手招いている。
俺は嬉々爛々としながら軽くスキップで彼女の前に立つ。
「紋血章を開きますわね」
彼女が俺の胸に手を伸ばす。
一瞬嫌な予感がしたが、彼女はしっかりと痣の部分に手を触れてくれた。
そういえば俺、まだ素っ裸だったっけ。
まあいいや。
騎士になれるんだったら素っ裸でも。
俺の眼前にステータスが浮かび上がる。
そしてその状態のまま、イデアは懐から一冊の書物を取り出した。
「今から称号変更の儀式を行います。洗礼者は私、イデア。立会人はキキリ」
書物のページが勝手にパラパラと捲れていく。
そしてイデアとキキリの周囲に淡い光が集まっていく。
「授洗者はラグザ・アークシャテリウム」
俺の周囲にも淡い光が集まっていく。
なんだろう、この心地良い感覚は――。
あれだ。
夢の中で空を飛んでいるときのような、心の開放感というか躍動感というか――。
突如、俺の脳裏に様々な知識が集約していく。
これは、戦闘の知識――?
攻撃、防御、身のかわし方――。
様々な武器の使い方、そして『技術』の習得方法――。
それらが目まぐるしく俺の頭の中を掻き乱していく。
「すげぇ……! なにこれ……! 頭の中がとんでもないことになってます……! イデアお姉様……!」
それら様々な戦闘情報が徐々に綺麗に整頓されていく。
まるで本棚に1つずつ書籍を整理していくみたいに。
綺麗に本が納まった瞬間、俺の周囲の光ははじけるように消え去った。
「ふぅ……。じゃあ、ラグザ様。自身の紋血章を確認してみましょうか」
イデアに言われ、目の前に浮かび上がっているステータスに視線を凝らす。
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名前/ラグザ·アークシャテリウム
称号/姫騎士
技術/-
魔術/-
聖術/-
妖術/-
合成術/-
御奉仕人数/0人
総合ランク/E
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「称号が……『皇女』から『姫騎士』に変化してる……」
「え? 姫騎士……? 『騎士』ではなくてですか……?」
俺の呟きに反応したキキリ。
どうしたんだろう?
もしかして何か失敗したとか?
「おかしいわね……。確かに私は『騎士』としての洗礼を行ったはずなのに……。『合成術』といい、貴方は一体……?」
「いや、俺に聞かれても」
正直にそう答えるしかない俺。
でも『騎士』も『姫騎士』も大して変わらないんじゃないかしら。
おれ元々姫だし。
「あれ? でもなんにも『術』とか覚えてねぇじゃん。俺の頭の中にはめっちゃ色んなイメージが溢れているんだけど」
「そりゃそうよ。『術』は鍛錬して初めて習得できるものだから。そして習得時には、それに相応した数の『術石』も必要になってくるの。ほら、そこにも転がっているでしょう?」
イデアが指差す先。
そこはさっきまであのモンスターが転がっていた地面だ。
「うん……?」
確かになにか光るものが落ちている。
俺はそのまま近くに寄り、それを拾い上げる。
「それが『術石』ですよ。基本的にはモンスターを討伐するとモンスターの『タイプ』によって4種類のうちのどれかの術石が手に入るのです。泉の主だったデビルシャークドッグは近接戦闘タイプのモンスターですから、術石は『技の術石』が手に入ります」
俺の手に収まるくらいの大きさの綺麗な石。
透き通るような青い色をした、まるで宝石のような『術石』――。
「それで約1200WSってとこかしら。術石によって単位の呼び方も変わるから、おいおい覚えていったほうがいいかもね」
「ふーん。あれか。円とかドルとか、世界各国の通貨名みたいなもんかぁ。よく出来てんだなぁ」
まじまじと術石を眺めてそう呟く。
これを使えば俺は『技術』を習得できるってことか。
まあその前に鍛錬しなきゃいけないみたいだけど。
「さあ、清めの儀式を済ませてしまいましょう。余計な時間を食ってしまったし、メルエル様に心配をかけてはならないしね」
「はい。それではラグザ様。もう一度私と一緒に泉の中央まで――」
「自分で出来ます! 先に泳いでいってますからキキリさんは後から来てくださいーー!!」
またもや目の前で脱ごうとしたキキリに背を向け、俺は猛ダッシュで泉の中心へと向かっていきました。
――今度はバタフライで。
名前/ラグザ·アークシャテリウム
称号/姫騎士
技術/-
魔術/-
聖術/-
妖術/-
合成術/-
御奉仕人数/0人
総合ランク/E