急襲と戦闘
「はああぁぁぁ……」
泉の中心で大きく溜息を吐く。
いやマジで焦ったー。
すっごい柔らかくて手頃な大きさのキキリのアレが俺のアレに……。
お母さん……。
俺もう、死んでも悔いはないです……。
「……ん?」
なんだか泉の下のほうからゴゴゴ……! っていう音が聞こえてくるね。
うん。
嫌な予感しかしない――。
「まさか……! ラグザ様! お逃げになってください!」
「いや、え? マジで? マジでヤバイ感じ……?」
泉の深さはどれくらいか分からないけれど。
ものすごい勢いで何かが迫ってきているね。
ていうか、今でかい口みたいなのが見えた気がする。
うん。
あれ……どうしようこれ……。
「イデア様! 眠っているはずの泉の主が……!」
「へ……? まさか、そんなはずは……!」
キキリの叫び声でブツブツと呟いていたイデアが反応する。
もうすでに俺の足元まであと僅かといった場所に、牙つきの大きな口が開いている。
あー、これ間に合わないね。
俺、喰われて死ぬのかぁ。
『馬鹿が……! 何故逃げようともしない……!』
俺のすぐ横に異空間から出現したシュウ。
まあ、来てくれるとは思っていたけれど。
「聞きたい? 実はね、さっき思いっきり泳いだら足つっちゃって」
『!! お前は本物の馬鹿か……! ちいぃ!!』
今まさしく喰われてしまうという瞬間――。
シュウは俺の身体を無理矢理持ち上げ、そのまま異空間の中に引きずり込んだ。
バクン――!
「ラグザ様!」
キキリの叫び声が一瞬だけ聞こえたが、すぐにかき消された。
俺は今、シュウに抱えられ、世にも不思議な空間にいる。
『くそ……! ラグザ様はそれはそれは賢明でお美しい方だったというのに……! 貴様は馬鹿で能無しで、状況判断も出来ないようなクズだとは……!』
「そこまで言われるとさすがに立ち直れないかも」
『く、またこれだ……! お前は一体何なのだ! こっそりと会話を聞いてみれば、いい加減な態度で適当なことはぬかすわ、のらりくらりと真面目に物事を考えないわ……! そんなことで姫様の代わりが務まるとでも思っているのか!!』
ものすごい耳元で怒鳴られました。
きーんって鳴ってる。音が。
俺こいつすごい苦手。
憤慨したままシュウは別の場所から空間をこじ開けた。
そこから外に出た俺達。
いや、マジで便利だな……こいつの能力。
「ほっ……。無事でしたか、ラグザ様。助かったわ、シュウ」
『イデア! こいつはただの馬鹿だぞ! こんな奴にこれからも付き合っていくなんて御免だぞ、私は!』
いきなりイデアに喰ってかかるシュウ。
あちゃー、嫌われちゃったか。
でも今はそれどころじゃねぇんじゃね?
「イデア様! シュウ様! 来ます!」
「ぶっ!!」
慌ててこちらに戻ってきたキキリの裸をもろに見てしまって倒れそうになる俺。
いかん……!
瞼の裏に焼きついてしまった……!
「キキリはすぐに装備を整えなさい。シュウ。同時に行くわよ」
『ああもう……! どうして泉の主なんかと戦わなくちゃならないんだ……! まったく……!』
すでに戦闘態勢に入ったお二方。
いますごい目で俺のことを睨んだよね、シュウさん。
これって俺が悪いことになるのかな。
何が何だか分からないまま怒られるのって、すごくショックが大きいのだけれど。
泉の方向に視線を向けると、ありえないくらい大きな鮫みたいなモンスターがこちらに向かってきます。
……ちょっと待って。
ナニアレ。
どうして手足が生えてて、しかも水の上を4本足で走っているの……?
え? 鮫? 犬?
「清めの泉の主、《デビルシャークドッグ》です……! しかも超大型タイプの……!」
俺の心を読んだのか。
慌てて鎧を着ながらキキリが説明してくれる。
水も滴るいい女が、俺の目の前でぷるんぷるんさせながら――。
ありがとう。
神に感謝しよう……!
「炎帝フレイアの名の下に、集え数多の負の煌きよ……! 《炎の欠片》!」
『咎人に対する慈悲は無く、魂のみは救済せしめん……! 《断罪の大鎌》!!』
イデアとシュウの詠唱によりそれぞれの『術』が発動する。
イデアの手から放たれたのは巨大な炎の塊。
まずはそれがモンスターの顔面にヒットする。
『グエエエエェェ!』
顔を焦がされ悲鳴を上げるモンスター。
そして間髪いれずに奴のすぐ上空から異空間が出現。
2つの異空間からは大きな鎌が振り下ろされ、モンスターを挟み込むように斬りかかる。
『ギャギャン!!』
堪らず水中へとも潜っていったモンスター。
なにあれ……。
すげぇ格好いい……!
「イデアさん! モフモフ! お前ら格好いい! ていうかすげぇ! ドカーン、ズババ! っていったよ今!」
俺のはしゃぐ姿に苦笑いのイデア。
シュウにいたっては更にものすごい形相で俺を睨む始末……。
「お、お待たせしました! 準備が整いました……!」
息を切らし、イデアとシュウの前へと走り寄るキキリ。
「恐らくもう一度浮上して、今度は飛び掛ってくると思うわ。貴女が盾となり奴の攻撃を受け止めて、その隙に私とシュウで止めを刺す。いいわね」
「は、はい!!」
作戦を聞き、気合を入れるキキリ。
ていうか、あの鮫だか犬だかの攻撃を受け止める……?
あのでっかい牙で大口を開けたあいつの攻撃を?
「あの、キキリ? お前、大丈夫――」
「ラグザ様には指一本触れさせません!! ご安心ください!!!」
振り返り、満面の笑みでそう答えたキキリ。
まだ彼女は新米騎士だというのに、こんなに賢明に俺を助けようとしている――。
『くるぞ!』
シュウの叫びと同時に、勢いよく泉から飛び出してきたモンスター。
イデアの予想どおり、大口を開けたまま上空から急降下をしてくる。
「私がラグザ様を守る……私がラグザ様を守る……私が……ラグザ様を……守る!!」
背に背負った大盾を構え、キキリが衝撃に備える。
そして彼女も『術』を詠唱する。
「天命を受けし勇者の血よ、我に守りの力を授けたまえ……! 《騎士の大盾》!!」
ガキン――!
という金属音が周囲に響き渡る。
光り輝く盾により、モンスターの牙を受け止めたキキリ。
「イデア様!」
キキリが振り返らずに叫ぶ。
すでに詠唱を終えていたのか、イデアは天に指を掲げ、魔法を発現させた。
「《雷の雄叫び》!!」
暗雲立ち込めた上空から、雷鳴が轟く。
俺はもう何が何だか。
まるで超リアルなRPGの世界にでもいるかのような錯覚を受けてしまう。
『ギャギャギャワアアアァ!!』
落雷をもろに喰らったモンスターは、その場で仰向けになりもがき苦しんでいる。
そしてその真上には、いつの間にか短刀を2本構えたシュウが回転しながら降りてきて――。
『――これで終わりだ。《二刀の乱れ斬り》!!」
無防備になったモンスターの腹部めがけて乱舞を繰り出したシュウ。
目にも止まらぬ動きで、斬撃音だけが遅れて周囲に響き渡った。
『ギュワアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!』
断末魔の叫びを上げたモンスター。
そしてそのまま一瞬動きを止めて――。
――何故か黒い煙とともに消滅してしまったのだった。
名前/ラグザ·アークシャテリウム
称号/皇女
技術/-
魔術/-
聖術/-
妖術/-
合成術/-
御奉仕人数/0人
総合ランク/E