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アークシャテリウム眷属国物語  作者: 木原ゆう
―零章― 呪われた姫と入れ替わりの青年
4/13

紋血章(ステータス)

 地下牢に響き渡る足音。

 ほどなくして俺の前に現れたのは宰相のメルエルと治癒術師のイデアだ。

 牢屋越しに俺の目を凝視してくるメルエル。

 相変わらず眼力つえぇ……。


「覚悟は決まったかいの」

「決まるわけないだろ!」


 ばばあの質問に即答する。

 その瞬間に俺の唾がばばあの顔に掛かったらしい。

 目を瞑りハンカチで顔を拭くメルエル。


「ラグザ様。……いえ、『ナルミシンイチ』様。これは我が国の命運が掛かっている大事な『儀式』なのですよ。どうにか了承していただけないでしょうか」


「やだ! 絶対にやだ! 出して! ここから出して俺を自由にして!」


 イデアの言葉に俺は首をブンブン振って反論する。

 国の命運だかなんだか知らんが、そんなものよりも俺のアイデンティティのほうがよっぽど重要だ。


「ふうむ……。一体なにがそんなに不満なのか……。確かに最初は少し抵抗あるやもしれんが、おぬしが相手をするのは各国の首脳達じゃぞ? ある意味名誉なこととは思わんのか」


「思うかっ!! お前アホだろ!!」


「最初は誰でもそういうのですよ、ラグザ様。私も初めての『御奉仕』ときは、それはそれは恥ずかしくて……。あらいやだ、身体が熱くなってきましたわ」


 そう言ったイデアは頬に手を当てて身体をくねらせている。

 馬鹿だ……。

 この国の女は、どいつもこいつも馬鹿なんだきっと……。


「キキリよ。ラグザ様を連れ出す。お前には護衛役を命じよう」


「は、はい……!」


 慌てて返事をしたキキリ。

 そして懐から鍵束を取り出し、牢の錠を開いた。


「ラグザ様。少ーーーしだけ、眠くなりますけど・・・・・・・・気にしないでくださいまし」


「へ――」


 イデアの両手に光が集約していく。

 彼女が詠唱しているのは――魔法?


「あ……れ……?」


 徐々に瞼が重くなっていくのが分かる。

 くそ……!

 錠が開くタイミングでなんとか逃げ出そうと思っていたのに……!


 ――意識が遠のいていく。

 俺は、このまま眠ってしまうのか。


「これからラグザ様を『清めの泉』へとお連れします。キキリ、しっかりと護衛を頼むわよ」



 ――俺の耳に最後に聞こえたのは、イデアのその言葉だけだった。





 ――夢を、見ていた。


 いつもの高校の、いつもの屋上。

 誰もいない屋上で手すりに寄りかかり溜息を吐いている俺――。


 あれは――俺か?

 じゃあ、それを見ている『俺』は、一体誰だ――?


「……はぁ。どうしたらいいのでしょうか……。婆やとは《通信魔法リ・ポート》が繋がらないですし……」


 これは、俺の声だ。

 なのに口調は女言葉……。

 まさか、これは――。


「これがあの『入れ替わりの呪い』だったとして、このタイミングで発動するなんて……。1000年前といえば、魔王ジュネイルが世界を支配していた時代……。当時のアークシャテリウム帝国は数多くの勇者を輩出していたから……」


 独り言を呟いている俺。

 内容は全く理解できないが、これだけは言える。

 あれはアークシャテリウム眷属国の姫――ラグザだ。

 俺と精神が入れ替わった姫が、俺の夢の中に――?


「どうにかして婆やと連絡を――あっ」


 慌てて後ろを振り向いた俺。

 そこには購買部で買ったのか、パンを抱えた数人の生徒らの姿が。

 彼らは俺に気付き声を掛けてくる。

 そして、取り繕ったように笑顔で対応する俺――。



 ――そこで俺の『夢』は終わった。





「ん……」


 目を覚ます。

 辺りを見回すと、何かの乗り物に乗っているのだと気付く。

 これは――馬車か?


「お目覚めですか、ラグザ様」


 俺の向かいに座るイデアがにこりと笑いそう答えた。

 俺は何も答えずに仏頂面で外に視線を向ける。

 馬車の外にキキリの姿が見えた。

 彼女は歩きながら馬を引いている。


「あらら、嫌われてしまったようですわね……」


 困ったようにそう言うイデア。

 姿は見えないが、きっとあのモフモフ娘もどこかに潜んでいるのだろう。

 俺が逃げ出そうとすれば、すぐにでも捕らえられるように。


 ということは、俺を含めて4人か。

 きっとこれから『清めの泉』という場所に連れていかれるのだろう。


 ――どうする?

 さっきの夢の話をこいつらに話すか?

 それともメルエル婆に直接話して交渉に持ち込むか?


 夢の中では俺の声はラグザに聞こえていないようだった。

 しかし、彼女の声は俺に聞こえる。

 彼女が俺のいた世界で何をして過ごしているのか。

 どういうコンタクトを取ろうと考えているのか。

 それが俺には分かるというわけだ。


(……でも、次もまた夢の中で見れるとは限らないし……うーん)


 『清めの泉』とやらで何をするのかは分からないが、恐らく身を清める儀式か何かだろう。

 それが終えれば、俺は『御奉仕』の旅に連行されることになる。

 魔王? 勇者? エルフ? あやかし

 そんな訳のわからん連中に御奉仕するなんて、あまりにもアホ過ぎるだろ。

 それだったら死んだほうがマシだ。


「おい、モフモフ。いるんだろう?」


 俺の言葉に遅れること数秒。

 今度は馬車の天井付近の異空間から顔だけ出したシュウ。

 こいつの能力は一体何なのだろう。

 どんな場所でも自由に出入りできる、ということなのだろうか。


『……モフモフではない。ちゃんと名前で呼べ』


「嫌だね。俺は人に命令されるのとか、一番嫌いだし」


「あら、2人ともいつの間にか仲良くなっちゃって。知らなかったわ」


 俺とシュウのいがみ合いに見当違いなコメントを残すイデア。

 空気の読めないビッチ女扱いにしてやろうかこいつ……。


『……用件は何だ。さっさと言え』


 溜息を吐き、先を促すシュウ。


「これから行くのが『清めの泉』という場所だとして、それが終われば俺は御奉仕の旅に強制連行されるんだろう? キキリから聞いた話じゃ、この国はその他の4つの国の中心にあって、それぞれ少しずつ領土を与えてもらって成り立っているんだってな」


 勇者の国。

 魔王の国。

 エルフの国。

 妖の国。

 それらが綺麗に四方に散らばり、中心にあるのがこのアークシャテリウム眷属国だ。

 ならば、最初に俺が御奉仕に向かう国はどこなのだろう。


『聞きたいことはそんなことか? それを聞いてどうする』


「ああん、もうシュウったら。決まっているでしょう? 最初の『おとこ』が誰なのか、気になって夜も眠れないからよね? ラグザ様」


「違います」


 ジト目で即答する俺。

 イデアさんビッチ女に決定。


『……はぁ。いいだろう、教えてやる。お前の言うとおり、この国は4つの国から領土と金、そして術石を支援してもらっている。大昔は大国だったアークシャテリウムだが、幾度と無く戦争に敗れたせいで、今では眷属国として国民は皆奴隷と変わらない日々を過ごしているが、いつかは――』


「なにその『術石』って」


『……最後まで人の話を聞かないかお前は』


 口を挟んだせいか、一気に不機嫌になったシュウ。

 そんなに睨まれても困るんだけど……。


「ふふ、『術石』っていうのはね、この国ではお金と同じくらい価値のある特別な石のことよ。4種類ある術石は各国の紋章が刻まれているわ。取引額は常に変動しているけれど、昔に比べて今は各国のレートとも安定しているかしら」


「うん。さっぱり分からないけど、あれか。株みたいなものか」


 イデアの説明を適当に流した俺。

 あまり関係なさそうな話題はスルーするに限る。


『お前は馬鹿か? 術石が無ければ術を習得することも、新たな術を開発することもできないのだぞ? それがどういう意味なのか分かっているのか?』


「ごめん。分かっていたら逆にすごいと思うの」


 シュウの言葉に真顔で反論する俺。

 だって俺、2日前まで普通の高校生だったし。


「仕方ないわね。見たほうが早いかしら」


 そう答えたイデアはおもむろに魔導着を脱ぎ始めた。

 そして大きな胸を強調するかのように、胸をはだけさせようと――。


「ちょっと!? なにしてんすかお姉さん!?」


「いいから」


 そしてギリギリまではだけさせた胸を俺の目の前で強調する。

 何がギリギリかはあえて言わない。

 胸の谷間の少し上。

 そこに何か文字のようなものが描かれている。

 刺青かなにかだろうか……?


「ほら、何をしているのよ。押してみて」


「押す?」


「ここよ。早くしなさいな」


「え、ちょ……!」


 手を持たれ、強制的にイデアの胸の谷間の上に指を置く。

 危うく違うところを押しそうになってしまった……。

 どことは言わないが……。


 途端にほのかに光る文字が空間に浮かび上がった。

 それが次第に俺でも読める文字へと変化していく。


「これは……」


 そこに浮かび上がった文字――。


======

名前/イデア

称号/治癒術師

魔術/『睡魔のささやきスリーピィヴォイス』『炎の欠片フレイムジッポ』『雷の雄叫びサンダーエッジ

聖術/『癒しの水ヒールウォーター』『精神の安らぎマインドシェイカー

御奉仕人数/25人

総合ランク/B

======


「うん。なにこれ」


 なんか履歴書みたいなのが出てきた。

 うわー、いっぱい魔法とか覚えててすごいね。

 うん。

 最後のほうは見なかったことにする。


「キキリからある程度説明は聞いたのでしょう? この世界のルールについて」


「御奉仕人数25人」


「あら、それで変な顔をしているの? これでも私は少ないほうよ。嘘だと思うのなら、シュウの紋血章ステータスを――」


『……私はいい。早くこいつに説明してやれ。恐らく何も知らんぞ』


 それだけ答えたシュウは、そのまま異空間に消えていった。

 え? シュウはもっと人数多いの……?

 うわ、超意外……。

 今度出てきたらモフビッチとあだ名をつけてやろう。

 ……たぶんぶっ殺されると思うけど。



 ――そしてイデアビッチさんの説明が始まりました。

















 

名前/ラグザ·アークシャテリウム

称号/皇女

技術/-

魔術/-

聖術/-

妖術/-

合成術/-

御奉仕人数/0人

総合ランク/E

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