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アークシャテリウム眷属国物語  作者: 木原ゆう
―零章― 呪われた姫と入れ替わりの青年
2/13

お家事情

「『入れ替わり』の……呪い……?」


 険しい表情のばあさんが発した言葉。

 俺にはそれが何のことなのかさっぱり分からない。

 というか、ここはメイド喫茶じゃない……?


「……ああ。その前に聞こう。おぬしの名前は何じゃ?」


「俺? ええと、鳴海新一なるみしんいちっていいます。『なるみ』は鳴海海峡の『なるみ』で、『しんいち』は新しい――」


「言っている意味が分からんからあえてスルーするぞ。おぬしの名は『ナルミシンイチ』……。ふむ……」


 俺の善意ある説明を無視したばあさんは、額に手をあて考え込んでいる。

 せっかちなばあさんとか苦手なんですけど……。


「むむむ…………ほわぁっふっ!!」


「うわ! びっくりした!」


 いきなり叫び声を上げたばあさん。

 驚いてベッドから転げ落ちる俺。

 尻を押さえ顔を上げると、ばあさんの目の前に映像が浮かんでいた。

 ナニコレ……。


「これは姫様が飛ばされた先・・・・・・を映し出すワシの魔法じゃよ。『飛ばされた』とはいっても、精神だけが異世界へと跳躍し、約1000年の時を経て発現した呪いが――」


「あ! 俺の学校じゃん! ばあさん! 俺の学校が映ってる!」


「……せっかちなガキはこれだから嫌いじゃ」


 口を尖らせて何か呟いているばあさん。

 しかし映像を見た俺は一気に青ざめてしまう。

 そこに映っていたのは、しきりに辺りを気にしている『俺』だったのだから――。


「……あの、これって、もしかして……」


「少し黙っておれ。今、姫様にコンタクトをとってみるからな……。むむむ…………ほわっふぅ!!」


 また叫び声を上げたばあさん。

 今一瞬、入れ歯が取れそうになっていた。


「……駄目じゃ。異界の扉がワシの魔力を封鎖しておる……」


「ということは、連絡がとれないってこと?」


「そうじゃ。これは『お上』の協力が必要じゃな……。いや、しかし、姫様はちょうど18になられた。ということは『御奉仕』をせねばならん年齢じゃから、このままこやつに代わりに……ぶつぶつぶつ……」


「……あのぅ」


 完全に自分の世界に入ってしまったばあさん。

 何だか長くなりそうだから、俺は空間に浮かんだ映像を見ながら思案し始めた。


 学校の校舎裏で目を覚ました『俺』がそこにいる。

 俺がいつも放課後に、こっそりと持ち込んだ携帯ゲームをやって暇潰しをしている場所だ。

 夕方のバイト時間まではいつもあの校舎裏で時間を潰していた。


 映像に映る俺は、自身の姿に驚いている様子だ。

 さっき俺がしたみたいに、全身を隈なく触っている。

 そして何を思ったか、おもむろに陰部に手を伸ばし、何故か硬直している。

 徐々に顔が真っ赤になり、ついには叫び出したではないか。


「お、おい、ばあさん……。あいつ大丈夫か……?」


「勇者アレニウスは姫様の成長を心待ちにしておったし……。しかし魔王ゼノンがなんというか……。『御奉仕』の順番を間違えてしまうと大変なことになるじゃろうし……むむむ……」


 まったく俺の話を聞いていないばあさん。

 映像に映っている俺は校舎裏を駆け出し、そのまま何処かへ行ってしまった。


「ばあさん! 俺どっか行っちゃった! ねえ聞いてばあさん! 俺の話!」


「うるさいのう! 今ワシ集中している所なんじゃ! 声かけないで!」


 ばあさんが叫んだ瞬間、宙に浮かんだ映像は消失した。


「あっ」

「あっ」


 俺達は互いに目を合わす。

 そして数秒の沈黙――。


「……して、若者よ。おぬしの世界は、戦争が絶えぬ非情な世界か? それとも、確固たる王が存在する平和な世界か?」


「え? あー、ええと、王というか……政府? 国は『日本』ていう名前で、昔は戦争とかしていたみたいだけど、今は平和で……」


「そうか。それならばとりあえず問題はないな。姫様がいきなり死ぬようなことにならなければ、時間さえあれば解決できる問題じゃし」


 ほっと溜息を吐いたばあさん。

 俺もそれに釣られて大きく息を吐いた。


「なんだぁ。時間さえあれば解決すんのかぁ。脅かすなよ、ばあさん」


「ばあさんではない。『メルエル』じゃ。目上の者に対する口の利きかたがなっておらんな、若者よ」


 そう答えたばあさん――メルエルは、凄みのある目で俺を睨みつけた。

 眼力つえぇ……。

 ばばぁ怖えぇ……。


「……まあよい。おぬしも大体の事情は察したな。この『アークシャテリウム眷属国』の姫君であらせられるラグザ・アークシャテリウム様と、異界の若者であるおぬし――『ナルミシンイチ』の魂は入れ替わったのじゃ」


「うん。なんとなく」


「そしてそれを解決するには、我が国を取り囲む4つの『創主国』の君主らの力を借りねばならん」


 おもむろに立ち上がったメルエル。

 そしてベッドに座る俺の周りをゆっくり歩く。


「勇者アレニウスの治める『勇者の国』、魔王ゼノンが治める『魔王の国』、エルフの王ナルシスが治める『エルフの国』、あやかしの王バルトが治める『妖の国』――」


「ちょっと待って、ちょっと待って! いっぺんすぎて頭に入ってこない! なにあやかしって!?」


 立ち上がり叫ぶ俺。

 やばい。

 頭が混乱してきた……。


「我らが『アークシャテリウム眷属国』はな……。国王以外は女性しかいない・・・・・・・、珍しい国なのじゃよ」


 立ち止まったメルエルは、そっと俺の耳元でそう囁いた。

 うん。

 ばあさんの口から『女性』とか耳元で囁かれても鳥肌しか立たない。


「長い間、世界中で行われてきた戦争……。その中で生まれた『眷族国』という言葉……。この国に生まれてきた時点で、我らの運命は決まっておるのじゃ」


 肩を落としたメルエルは、俺の前に屈みこむ。

 そして下から俺の顔を見上げ、こう続けた。


「姫様は、すでに覚悟なされていた。18の誕生日を迎えたその後、各国首脳に『御奉仕』をする旅に出掛けるという『覚悟』を、な」


「御奉仕……」


 俺の額に冷や汗が流れる。

 御奉仕……。

 うん……御奉仕。


「……」

「……」


 また俺とメルエルの間に沈黙が流れた。

 今度は時間にして数十秒という、長い長い沈黙――。


「……任せた」


「やだよ!!! 嫌に決まってんだろうが!!!」


 咄嗟にそう叫ぶ俺。

 え? どういうこと?

 俺が姫様の代わりに、その『御奉仕』とやらをしろって?

 だってアレでしょう?

 『御奉仕』って完全にアレでしょう!?

 頭おかしいだろ!!!


「残念だが、おぬしに拒否権は無い」


「だから! なんで俺が! だって、相手って男でしょう! そうなんでしょう!」


「良いではないか。むしろおぬしが男で良かったと思っておる。姫にかけられた呪いのせいで、異界の少女にも同じ苦痛を与えてしまうより、よっぽど気が軽くて済む」


「俺はものすっご重いだろうが! トラウマどころじゃねえだろ! やんない! 絶対やんない!」


 逃げ出そうと扉に向かい駆け出す俺。

 しかし何かに足を取られ、その場で転んでしまった。


『ラグザ様。手荒な真似をしたくはありません。大人しくしていただけないでしょうか』


「ひいぃ! 何だよお前!」


 俺の足を捕らえたのは、急に地面から出現した全身毛むくじゃらのモンスターだ。

 犬みたいな狐みたいな奴が人間の言葉を話しているし……!


「シュウや。姫様を監獄へお連れしろ。事情はワシから皆に話す」


『分かりました』


 シュウと呼ばれた犬型の化物はそのまま俺を抱え部屋から出る。

 もう何が何だか分からない俺は、とにかく大声で叫びまくる。


「ちょっと! 誰か助けてー! 何なんだよここは! 俺は一体どうなちゃうわけ!? ちょっと放せ! 放して!! ちょ、くすぐったいの! もふもふが首筋とか太股とか――!!」



 ――そうして俺は監獄へと連れていかれました。


















名前/ラグザ·アークシャテリウム

称号/皇女

技術/-

魔術/-

聖術/-

妖術/-

合成術/-

御奉仕人数/0人

総合ランク/E

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