イカレタ高齢者
正信の目に一つの遊具が飛び込んできた。
小さな恐竜のすべり台。
あれはトリケラトプスか。
その時…正信に衝撃が走った…!!!
思い出されたのはまるで…太古からDNAに刻まれし『本能』
恐竜は生きることに意味を求めていただろうか
恐竜は生きることに実感を求めていただろうか
恐竜は生きることに視線を感じていただろうか
正信は叫んだ。狂ったように。
雄叫びとはこういうものだと自らを目覚めさせるために。
『生きる』とは…それ即ち…『本能』
『ぎぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ』
大きく息を吸いこんでもう一度。
『うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
傍からみればイカれた高齢者である。
突然の奇声に砂場にいた子供が泣いた。
恐れるなら泣けばいい。
避けるなら逃げればいい。
警察を呼ぶなら呼べばいい。
俺は…人間。
俺は…野獣。
俺は…本能。
定年後なんてあってない人生。自分の好きなように生きてやる。
思えば、人の目を気にして生きてきた人生。
つまらん。つまらん。
正信はノートを公園の噴水に投げ入れ、家に帰った。
そして妻にこう告げた。
『俺は、トリケーラトプスだ。ちょっと旅に出かけてくる。』
さちへは最初は驚いた顔をしたものの、微笑んでこう言った。
『あら、トリケラトプスは草食よ。』