日差しを浴びる高齢者
衝動的に「自分のやりたいこと」を生きる目標にするとはいったものの…
具体的に自分はなにがしたいのか。
さちへに助言を貰って二週間、正信は悩んでいた。
とりあえず、真っ白のノートに手当たり次第に案をまとめてみたのだが…
①世界一周旅行をする!
②没頭できる趣味を見つける!
③今までやったことのないことに挑戦する!
うーん…①以外はどれも漠然としていて、なんとも実行に移しにくい。
そしてなんとも無難で面白みもない夢だ。
金と時間はあるのに、発想力と考え続ける体力が正信にないのは、天は二物を与えぬということか。こんな悩み、若い世代からは恨まれそうだ。
(そう…なにかこの夢を具体的にするには…)
煮詰まった正信は、気分転換に外へ散歩に出かけた。
近くの公園の木々はすくすくと日差しを浴び、季節は夏に向かおうとしていた。
公園のベンチに座り、コンビニで買ったコーヒーをすすりながらまた考える。
書きなぐったノートは端が折れ、紙面は黄色く汚れていた。
③いままでやったことのないこと
正信はふと目を止めた。65年間で今まで自分がしたことがない行為か…。
その時ふと、少し面白いことを思いついた。
【例えば、この公園内で自分が人生で初めて行う行為はないだろうか。】
この公園とは長い付き合いで、息子や娘とも通った思い出深い場所である。
シーソーも、ブランコも、遊具は全て一緒に使ったし、ラジコンをしたり、時には他の子供達と遊んだりもした。
ここには今、10人前後のママさんや子供が遊んでいるがその誰よりもこの公園を知っているといっても過言ではなかろう。
そんな公園で、今まで全くしたことのない新しいこととはなにがあるだろうか…
うーん難しい。定義が広すぎる。
例えばこの公園で裸になったことや噴水に飛び込んだことはないが、そんなことをしてもただ警察を呼ばれるだけである。
なにより、奇行を行うことは本来の目的からは反する。
そうだ。
より具体的に考えるために、少しルールを増やそうか。
A,長年付き合いのあるこの公園で、自分が今までしたことがない行為。
B,社会的規則に反する行為や他者に迷惑をかけるような行為はしない。
C,今日、この場で完結できる行為であること。後日なにかをしたり、道具を買いに行く行為は面倒なのでなるべく除外。
D,オマケ。その行為を行った後、なにかノートに書いた①~③に深みを出す学びを得ること。
さぁ、考えよう…。考えよう…なにが自分に残されているのか…?
正信は深く目をつむり、眉間にしわを寄せて瞑想モードに入った。