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7.

短め。

「私のこと、まだ疑っているんでしょう?だから、本当は監視できる位置に置いておきたいんじゃないの?」

「そんなの、君の後をつけさせればいいだけのことだよ。諜報に長けた連中なら、こちらにだっている。それに、そんなまどろっこしいことしなくても、なにか問題になるなら君の首を落とせばいい」

「本当に・・・そう?」


私の一言に、セアドラがすっと眼を細めた。笑みがかき消える。

目に見えない圧力が増して、空気が重くなった気がした。

耳の奥で跳ね回る鼓動がうるさい。もし、私の予想が間違ってたら。この男は、言葉通り私を殺すのかもしれない。震える手のひらを、きつく握り合わせた。


「何が言いたいのかな」

「もし、本当に殺せば済むって思ってるなら、私は今、生きてないよね、と思っただけ」

「ふうん。そう思うんだ」


セアドラの顔に、またしても薄い笑みが広がった。

緊張して強張った顔をしているであろう私に対し、彼はこの状況を楽しみ始めている。

くっそ。余裕だな!

内心で罵倒して、萎えそうな気力をかき集める。


「違うの?」

「念のため泳がせてたのかもしれないよ」

「たった一週間だけ?」

「十分じゃないかい?いつでも俺たちは君を殺せる。期間なんて、状況次第で幾らでも変わるだろう」

「私なら・・・だとしても食事なんかは与えない。ここは戦場でしょ?物資に余分があるとしても、無駄にしていいものじゃない。水さえ与えていれば、人は1,2週間くらい生きていられるもの。でも、一日二回も食事が出て、牢屋じゃなくて一応は部屋に入れられて、それなりに世話もしてくれた。貴方たちは、何らかの思惑があって私を生かした。それはつまり、私を監視しつつ保護しなければならない、ということ。そうでしょう?」


ほぼはったりだ。文化的に捕虜には手厚い国なのかもしれないし、物資も定期的に十分な量が運ばれていて、余裕があるのかもしれない。あくまでも、私のうろ覚えな知識とこれまでにうけた印象から、予想をつけて言ってみたに過ぎないのだから。

緊張と興奮で激しく脈打つ心臓を抑えながら、私はセアドラの顔を見つめた。


「ふうん。意外とよく見ているんだね。これはちょっと甘く見てたかな。聞かれたことはぺらぺら喋るし、嘘は下手そうだし、もうちょっと間抜けなのかと思ってた。うん、感心感心」

「・・・オホメイタダキドーモ」

「感心したから、教えてあげよう。八割正解。確かに俺たちは君にたいして幾つか思うところがある。出来れば手元にいてくれた方が簡単だとも思っている」


でもね、とセアドラは言葉を切り、そろそろ見慣れてきた人の悪い笑みを浮かべた。


「だからといって、君を絶対に保護したいわけじゃ、無い。そこまでの重要度は君にはない」

「・・・そう、ですか」


絞り出すように、何とか出した声は掠れて小さかった。

心臓が捻り潰されるみたいに痛かった。あまりの痛みに涙が出そう。心が痛む、とはよく言うけど、ここまで物理的にも痛く感じるものだと初めて知った。


「だから、君は意地を張らずに大人しく従った方がいい。死にたいのなら別だけど、俺はできれば殺さずに穏便に済ませたい」

「・・・・・・」


沈黙し、俯いた私の頭上から溜息が振ってきた。いつの間にか、セアドラは立ち上がってこちらを見下ろしていた。

なんの溜息だ。呆れか、苛立ちか。溜息を吐く気力すら、こっちは無いっていうのに。

足下に伸びるセアドラの影をつま先で踏みつけてやった。


「君の着眼点は意外と面白いし、鋭い。もっと間抜けな子だったら適当にあしらうつもりだったけど、そうじゃないようだし、少しはこちらも譲歩しよう。それでどう?」

「・・・定期的な休日と、衣食住の確保、それからお給料も」

「言うね」


くくっと猫が喉を慣らすみたいに笑われた。

気力を使い果たし、投げやりな気持ちになっていた私は、どうでもいいやと肩を竦めた。

結局、不利な立場にいるのは変わりないのだから、言うだけ言ってやろうと思ったまでのこと。意見が通るとは・・・・・・ちょっとしか期待してない。


「給料に関しては、俺からは何とも。後で隊長に聞いてみてあげるよ。休日と衣食住に関しては用意がある」

「全部、想定通りってことですか」

「そうでもない。君がここまで反論してくるとは思わなかった。思わぬ収穫で、俺としてはとても面白い」


そう言って、セアドラは私の顎を指先ですくい上げた。

驚いて目を見張る。思った以上の至近距離でセアドラの顔があった。咄嗟に引こうとして、顎をぐっと掴まれる。痛い。


「というわけで、今から君の上司は俺になったわけだけど。何か言うことは?」

「・・・・・・ヨロシクオネガイイタシマス」

「大変心のこもらない挨拶をありがとう。これからよろしく」


にやり、とセアドラが笑う。引きつり気味に私も笑みを返す。

顎を取られ、至近距離で見つめ合うという、ある意味色っぽい展開になりそうな場面だというのに、全くその気にならず、感じるのは不安ばかりだ。この男、全く信用できない。


かくして、私の短い虜囚生活は幕を閉じ、軍医助手としての不安に満ちあふれた新たな日々が始まったのだった。


やっとあらすじに追いついた!

一応、ここまでが序盤ということで。今後はさくさく進めたい・・・。

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