プロローグ
初投稿です。
プロローグ
突然、目の前で赤が弾けた。
それが何か、何故そうなったか、理解が追いつくよりも早く全身余す所なく・・・それこそ、馬鹿みたいにぽかんと開けていた口の中にまで弾けた赤が降りかかって、酷い臭いと一瞬の熱とべたつく感触が感覚の全てを覆い尽くす。
頭のどこかが異常事態、と叫んでいる。
なのに、意識の大部分は現状を全く受け止めようとせず、何が起きているのか状況を理解出来ない。
降り掛かった液体は熱いような気がしたのに、体は瞬時に冷えて震える。
そうか、気温が低いんだ、とどうでもいいことばかりが頭に浮かぶ。
口の中が、酷い味。
歯医者で奥歯を引っこ抜いた時のよう。
ぬるく、塩辛い、粘つくような何かが舌に絡みつく。吐き出したい。
欲求のまま、素直に体は動いた。
けほっと吐き出したのは__赤い、何か。
なにか?そう、血だ。
血を、吐いた。
唾液混じりのそれは、どうしてかひどく動きの鈍い体のせいで上手に吐き出せず、ぬるりと顎にこびり付く。
・・・気持ちが、悪い。
血。でも、自分のじゃない。
血を吐くような怪我はしていないし、そんな重病も患ってない。
それじゃあ、誰の?
誰の、と思ったとき、私の目がようやく機能して、視覚情報を脳に伝えてきた。
目の前にある、見知らぬ誰かの体。
ぴくりとも動かないその体も、全身が真っ赤に染まっている。
ぬらぬらとした、赤。合間から除く対照的に白いものは・・・骨?
脳が動き出す。無意識の記憶を勝手に辿り出す。
ああ、そうだ。
この人が倒れる瞬間を、自分は見ていたじゃないか。
噴き出す血を浴びながら。
____そう、全身に血を浴びて。
状況に、理解が追いついた。
次の瞬間。
「ひ、あ・・・いやあああぁぁぁぁぁあっ!?」
悲鳴が、喉をついて溢れだした。
「ぅあ、や、だ、なに、なん、え、なん、でっ!?なんでぇぇっ!?」
呂律が回らない。
頭の奥がぐるぐると回っているみたいでまともに考えられない。
吐きたい。叫びたい。気持ち悪い。怖い。逃げたい。意味が分からない!
パニックになってる、と意識のどこかは冷静に判断しているのに、体が震えて、喉は勝手に嗚咽を漏らし、涙腺が壊れたみたいにぼたぼたと涙が溢れてくる。
「なんだ!?なんでガキがいる!?どこから来た、お前!!」
ひどく長いように感じていたが、血を浴びてから悲鳴を上げるまで、そう時間は掛かっていなかったんだろう。倒れた誰かの後ろから、血まみれの剣を手にした男が目を見張ってこちらを見ていた。
その手が自分に向かって伸びるのを見て、硬直していた体がようやく動いた。
「や、あっ!やだ、やめて触らないでっ!!」
「このっ!抵抗するな!」
残念なことに腰が抜けていたので、ごろりと転がって手足をばたつかせるのが精一杯だったのだけれど、がむしゃらに動かした手か足のどちらかが男に当たったらしい。
そしてそれが良くなかった。
「大人しくしろ!殺すぞ!?」
怒気の籠もった声で怒鳴られ、容赦なく頬を叩かれた。
叩く、などと生やさしいものではなく、平手が張られた瞬間、体がふっと浮いて地面に叩き付けられる。
脳震盪を起こしたように頭がくらくらして立ち上がれない。
地面に這いつくばって呻いていると、髪がぎゅっと引かれて顔を無理矢理上げさせられた。
「この辺じゃ見ない顔だ。おまけに女か。おい、なんで戦場にいる?」
「や、ぁ、いた・・・痛い、やだぁ・・・」
「ちっ」
痛い、やだ、と譫言のように呟くことしか出来ないでいると、舌打ちと共に髪をパッと離された。
どさっと落とされ、再び頭を衝撃が襲う。
ひどい、乱暴だ。無力な女になんて仕打ち。
口の中に砂が入る。血と混ざって酷い味だ。
全身どこもかしこも痛い。特に頭が割れるようにいたい。
おまけにこの男、怖いし乱暴だし。
感情も感覚も、入り乱れすぎてぐちゃぐちゃで、何が一番辛いのかも分からない。
・・・・・・もう、嫌だ。
そう思ったのを最後に、ぶつん、と意識を失った。