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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月30日
74/87

73話

「葉夏上さんに質問します。ここじゃちょっと恥ずかしいので、外で良いですか?」

「えっ? うん。良いよ」

 快諾した彼女は私の後ろに着いてきて、コンビニの外に出る。目の前にある道路には車が何台も通っている。

「あなたは二重人格ですよね?」

「な、何言ってるの? あたしはいつも通りだよ」

 彼女の一人称を聞き、自然と口元が上がってしまう。

「それじゃあ、聞かせてもらいます。お風呂に入っているとき、どうして私たちと体を洗わなかったのですか?」

「……恥ずかしいから」

「でも、恥ずかしいなら一緒にお風呂なんて入らないですよね? それでも、お風呂には入って、身体を洗うときだけ羞恥を感じるだなんて、おかしいですよ。これはあくまで私の仮説ですけど、ひょっとして、鏡を見ると葉夏上さんは人格が変わってしまうんじゃないのですか?」

 目を泳がせながら、葉夏上さんは必死に言葉を紡ごうとしていたが、私は目を離さず、彼女のことをジッと見ていた。そして、彼女は大きくため息を吐く。

「はあ……いつかは話さなきゃいけないと思っていたけど。でも、潮時かな。うん、そうだよ。輪廻ちゃんの言う通りだよ。あたしは鏡を見るともう一人の自分、名前は違うけど、彼女と入れ替わる。彼女の名は、まこも。あなた達がいつも気にしていた記憶の継続も、入れ替わった時点ではされているよ。入れ替わった間はあたしが鏡に映る方の葉夏上になる」

 驚いた。二重人格だとは思っていたが、ここまでだったとは。

「まこもの方はあたしよりこの世界を知っている。レイセンくんが……いや、この言葉はあたしじゃなくて、まこもに言ってもらった方が良いかも。ちょっと待っててね」

 葉夏上さんは店内のトイレへと駆けて行くが、すぐに戻ってくる。

「どう? 何か変わっている?」

 先程と同じ葉夏上さんがそこにはいる。少しだけ声音が強気であること以外、何も変わっていない。

「私はさっき話していたまこもだよ。輪廻ちゃんの名推理、面白かったよ。見破られることはないと思っていたけど、輪廻ちゃんもあっちの世界の人間だからな。見破られるのも頷けるな」

 あはははと笑っている彼女に私は本題を突き付ける。

「で、レイセンが何なんですか? この世界に何か大きな影響でも与えるんですか?」

「お、相変わらず鋭いな。その通り。レイセンくんが世界に与える影響は大きいよ。何てったって、運命の果てまで言っちゃった人物だからね。不幸な運命を背負ってるって言う割に、あんな場所行っちゃうんだ。幸運を通り過ぎて不幸になってたんじゃねえのかって話だよ」

 運命の果てまで行ったとは言っていたが、そこまで重要視されるのだろうか。

 ハイスクールではそのようなことは一切習わなかった。ユニバーシティでは、だけど、習ったのかもしれない。それでも、私は伝説程度に聞かされていたオカルトネタとしか思わなかったので、私はそこまで深く考えていなかった。

 だけど、葉夏上さんも久良持さんも長生殿までそのようなことを言っているのだ。運命の果てまで行ったと言うことは相当なことなのだろう。

「輪廻ちゃん気付かないの? 今後はレイセンくんが世界に及ぼす影響って言うのはとんでもないことになるってこと」

「え?」

「やーっぱり気付いてない。まー、単純に言ってしまうと、レイセンくんが大学生になるとするだろ? すると、レイセンくんが自分以外の人物も無意識に大学生に選出するの。その無意識の中には確実に私たちも入るだろうし、私たちは大学生になっちゃうわけよ。喜ばしいことだけど、私にとっちゃごめんだね。大学生じゃなくて、今のこの状態が好きだから、大学生になって習いたくもないこと学びに行くのはバカバカしいじゃん。お金と時間の無駄。私はレイセンくんと違って、学歴は欲しくないし。学歴以上の力を持っているわけだし。運命を変えられる力を持っている人物なんて、私が知っている限りでも、輪廻ちゃん、久良持さん、夜明だけだし。他にもいっぱいいると思うけどね」

「ど、どうしてそんなこと分かるんですか!?」

 驚きが隠せず彼女に質問する。

「私は輪廻ちゃんと違ってね、運命を変えるとかそんなのは興味ないんだ。ただ、こっちの世界に来られただけで十分なんだ。ちまきの運命を彼女と一緒に細々と変えて暮らせればそれで良い。輪廻ちゃんたちと初めて会ったときは敵意剥き出しだったけど、あんときゃ悪かったよ。私もレイセンくんのこと、気にはなってたんだよ。あんな面白い人、あっちの世界にいなかったじゃない?」

 後頭部を掻きながら笑っている彼女を見ても、完全に私に敵意はないとは言い切れないので、何も言わなかった。

「聞きたかったことはそれだけ?」

「それじゃ、もう一つ聞かせてください。レイセンについてどう思っていますか?」

「レイセンくん? 最初はかっこいいと思ったよ。最初はね。でも、結構複雑な家庭事情って知ってからちまきの方がね、やめておこうって言うもんだからさ。距離を取るようにはしてたよ。輪廻ちゃんが言いたいのは、レイセンくんのこと、好きかどうかってことだろう? ハッキリ言わせてもらうと、恋愛面では好きじゃないよ。でも、友達や人としてって面から見ると、好きだよ。彼は優しいからね。お人好し過ぎて不幸に陥っているかもしんないけど、彼は良い人だよ」

 彼女がレイセンに対して好意を抱いていないと分かった瞬間に肩の荷が下りたように安心した。

 もし仮に、レイセンのことが好きだなんて抜かしていたら、私は一体どうなっていただろうか。

「輪廻ちゃんがこんなこと言うなんて珍しいけど、何かあった……から聞いてんだよね。その何かについては聞かないよ。とにかく、頑張ってね」

 私の横を通り過ぎて、葉夏上さんは、店内で笑顔で話している夜明と久良持さんの元へと向かっていった。

 笑顔だった久良持さんの元に葉夏上さんが到着すると、その笑顔を絶やさず、座るように催促していた。ここは私も戻るべきなのだろうか。

 視線に気付いたのか、私も店内に入るように促している。しぶしぶ入っていくと、久良持さんは話しかけてくる。

「何話してたの?」

「まあ、その、いろいろですよ。女の子の話って言いますかね」

「なんだいなんだい? 気になるじゃないか。私にも教えてくれないかい?」

 結局、また店外へと連れて行かれる。



「わざと外に出しましたね?」

「あの場で聞くのはまずいと思ってさ。何となく想像はつくよ。ちまきちゃんにレイセンくんのことを聞いていたんだろう? 私には聞かなくて良いのかい?」

 ニヤニヤしている久良持さんに聞いてみようかと思ったが、もし仮にレイセンのことが好きだと言われたら、私はどうなるだろうか。自分を制御出来るだろうか。

 しかし、どうせ明日には過去に戻るんだ。聞いておいて、殺してしまったとしても、過去に戻ってしまうのだ。それなら、聞いておいても良いかもしれない。

「レイセンのこと、好きですか?」

「うん、好きだよ」

 頭に血がのぼるが、それを抑える。ひょっとすると、友達としてと言う意味かもしれない。

「あんな面白い人はいないからね。ああ、勘違いしないでね。私は愛してるって意味じゃないよ。もし好きになっていたとしても、輪廻ちゃんには敵わないことは分かっているし、諦めているよ。輪廻ちゃんがレイセンくんに対して抱いている想いもそうだし、レイセンくんが輪廻ちゃんに抱いている想いも同じだからね。やっぱり両想いってのには敵わないよ。あははは」

「わ、私はそんな……」

「いやあ、でも輪廻ちゃん、私が好きって言ったとき、顔が一瞬変わってたからね。やっぱりレイセンくんのこと本気で好きなんだなって。何があるのかは分からないけど、頑張りな」

 私の肩を叩いて、再度店内に入って行こうとする久良持さんを見つめていると、いきなり立ち止まる。

「自分の気持ち、ちゃんと伝えた方が良いよ。思っているだけじゃ、想いは伝わらないからね。頑張ってね」

 まるで私の置かれている状況を知っているかのように話す彼女に少しだけ恐怖を感じるが、すぐに恐怖を勇気に変換する。


 必ず、レイセンに告白しよう。



 店内に戻ると、久良持さんたちは身支度をしていた。

「さ、時間も時間だからそろそろ行くよ。輪廻ちゃんたちはまだいるのかい?」

「どうする?」

「わたしはどちらでも良いぞ。輪廻の行く場所に着いて行くからな」

「あははは。完全に輪廻ちゃんの腰巾着じゃないか。そこが夜明の良いところでもあるけどな!」

 わしゃわしゃと夜明の長い髪を撫でている葉夏上さんと夜明はまるで姉妹のようだった。

「私たちもこの辺りを散歩しています。もしかすると、もう一人の私に会えるかもしれないですからね」

「そっか。じゃあ、私は先に行かせてもらうよ。じゃあね」

 足早に店内から出ていく久良持さんを見送っていると、葉夏上さんもすぐにいなくなったので、私たちもコンビニから出て、川原へと向かった。



「こんなところで何するんだ?」

「別に何もしないよ」

「何でこんなところに来たんだよ」

「あのままコフタロンにいても面白くないでしょ」

「だからと言って川原に来ても面白くはないだろ……」


 川原の土手に二人で座っていたが、特に何かするわけでもなく、時間が流れるのを待った。

 過ぎいく車や走っていく人々を見ても、面白さのカケラもない。つまらないと言う感情だけが渦巻く。

 レイセンがいない今、何をしても無気力になっているのも事実だ。


「なあ、いつまでこんなところにいるんだ? そろそろ寒いんだけど」

 夜明はゆらゆらと揺らしてくるが、無視して流れつづける川を見ていた。

「輪廻、お前まで参っていても仕方ないだろ。時間を戻すんだろ? それなら、今落ち込んでいても仕方がないって。もっと前向きに考えようぜ。時間が戻るって言うことは、過去を変えられるってことだぞ? お前は今、地球上の誰もが出来ないことをしようとしているんだぞ。ひょっとして、他人のことを考えているのか? もしそうならば、そんなこと気にしなくても良い。今、この地球上で過去に戻ることが出来るのはお前だけなんだ。輪廻の好きな方向に変えれば良いんだ。何も恐れることはない。大丈夫だ」

 勝手に私が落ち込んでいると思って、ずっとペラペラ話し続けている夜明に返事を変えそうとしたとき、世界が停止する。


「……長生殿だね」

「その通りでございますわ。少し早いですが、準備が整いましたの。ですから、輪廻さんをお呼びしたんですわ」

 こちらを向いて笑顔を見せている夜明は完全に停止している。

「輪廻さん、覚悟はよろしいですか? 今からすることは、運命を変えると言う話じゃないですわ。過去を変えるのですよ。レイセンさんを助けないと、あなただけじゃなく、我々にも影響することを忘れないでくださいね。もとはと言えば、全てはあなたに責任があるのですよ? もう一人の輪廻さんは、指紋声紋掌紋全てあなたと同じですから、あなたがやったと言ってもおかしくはないのですよ!? 聞いておりますの?」

「お説教は良いよ。早く過去に戻して。レイセンを、必ず助けるから。だから、心配しないで」

 夜明の言っていたこの地球上で過去に戻れるのは私だけという言葉を聞いて、すぐに右手を握りこぶしに変える。

「必ず、助け出す。レイセンを、救う」

「分かりましたわ。それじゃ、準備はよろしいですか?」

 首を縦に動かすと、長生殿は両手を広げると、すぐに両腕を交差させる。

 するとどうだろうか。世界が巻き戻されていくではないか。

「輪廻さん、驚いておりますわね?」

「こ、こんな光景見せられれば、誰でも驚くよ……」

「そろそろですわ。では、頑張ってくださいね。応援しておりますわ」



 目の前の光景は川原ではなく、山になっている。

「あれ? どこ、ここ? レイセンは?」

 向こう岸を見てみると、レイセンがこの寒空の下、昼寝をしていた。つまり、この時点で私とレイセンはまだ出会っていないのだろう。

 あのときは夢世界のレイセンに話しかけた。

 それなら、次は、直接話しかけてみよう。



つづく

お久しぶりです。ここ最近本当に忙しくて更新できなかったです。リア充的な忙しさではないとだけ……。

それにしても、本当にこの話のネタ切れ感が否めないです。

この過去編を終わらせたら、もう終わらせようと思っています。

本来はこんな恋愛観丸出しの話にする予定じゃなかったのですけどね……ww

10月までには終わらせたいですが、終わらせられるかどうか……。


次の更新も決まってはいません。今回のように遅れるかもしれません。

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