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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月11日
6/87

5話

 翌朝、僕と稟堂は学校へ向かう。制服もかばんもいつの間にか取り寄せていた。無意識かと思ったが、今朝、僕より早く起きた稟堂が、取り寄せたらしい。僕のコフタロンコントローラーなのに、イスタヴァである彼女も操作をできるらしい。

 学校に着くと、みんなから注目を浴びた。



「ゆ、弓削、お前、どうしたんだよ」

 最初に話しかけてきたのは織衣だった。

「お前ら、何? もしかして、もうそう言う関係になっちまったのか?」

「いやいや、誤解しないでよ。偶然会っただけだから」

「それでも、そんなに仲良くやってくるか? 昨日の夜、あの後に何かあったのか?」

 横にいた稟堂が僕の前に出てきて、説明を始めた。

「私と弓削くんは同じ」

「あああああっ! 昨日の夜なあ! 親とケンカしてさ! それで、その悩みを今朝、偶然、校門前で会った稟堂に話していてさ! それで、仲良く見えちまったのかもしれないな! あはははは」

 何とか騙したつもりだが、もし仮に同じ部屋で寝たというのがバレたら、面倒なことになる。

 僕は小声で彼女に言う。

「いいか稟堂。僕たちがコフタロンで寝泊まりしていることは、絶対に誰にも言うなよ。て言うか、何普通に、一緒な部屋で寝たことをバラそうとしているんだよ!」

「いや、別にそんなつもりはなかったけど」

 稟堂は僕の目を見ながら話している。誠意を感じるが、どう考えても同じ部屋で寝泊まりしようとしたとしか思えない。

「それじゃあ、私と弓削くんは同じって続きは、何を言おうとしたんだよ!」

「私と弓削くんは同じ通学路って」

 これは完全に僕の勘違いだ。すごく恥ずかしい。

「もしかして私と弓削くんはコフタロンで寝泊まりしてるって言うと思ったの? 勘違いも甚だしいよ」

「ごめん」

予鈴が鳴った。この日は卒業式の日程を話して終わった。



 その後、担任である高野橋先生に呼ばれた。

「弓削、親御さんと話はしたか?」

「一応しました」

「どうなったんだ?」

「やっぱり予備校に行くお金もないので、アルバイトしながら家で勉強することにして、また大学を目指します」

 担任の前ではお茶を濁す。フリーターになるなんて言うと、何を言われるか分からないからだ。

 母親があそこまで豹変したのだ。先生も恐ろしいことになりそうだ。

「宅浪か。お前、出来るのか?」

「出来るのか、とは?」

 宅浪とは何なのか分からないが、今はそれよりも出来るのかと言う意味がよく分からない。金銭的な意味なのだろうか。

「宅浪って、家で勉強するんだろ? お前、誘惑にすぐ負けそうだからな」

「確かにそうですが、僕はどうしても大学に行きたいんです。予備校に行けないのならその宅浪とやらしか、ないじゃないですか!」

 僕は先生に強く言ってしまった。熱が入りすぎると、本当に宅浪とやらを実行しそうだ。

「確かに、そうだな。お前の人生だから、もう何も言わん。本当に、それで良いんだな?」

「男に二言はありません。僕は浪人して、大学に行きます」

「大学に行くって簡単に言うけどよお。どれだけレベル高いか、分かってるのか、お前?」

高野橋先生ではない英語の教師が割り込んできた。

「お前、弓削だっけ?」

 軽くうなずくと、英語教師は成績簿を見始めた。

「えーっと、弓削は、ん? 英語の成績悪いなぁ。こんなので大学、しかも国立行くって、お前大学舐めてんのか?」

 いきなり顔を近づけながら言ってきた。教師の口からは、コーヒーとタバコが混じったような、嫌な臭いがした。

「舐めてるだなんて、そんな」

「誰も言わないなら俺が言ってやるよ。お前が大学に行けるなら、世の中の人間ほとんどバカって言っても良いんだよ。成績も平凡、いやそれ以下のお前が一年の浪人で、しかも宅浪で大学だって? 世の中をバカにしすぎだ。お前が思っている以上に、運命ってものは残酷なんだよ。毎日、ヘラヘラしているお前が、大学とか絶対無理! 恨むなよ? 俺は、お前のためを思って言っているんだぞ? 受けるだけ無駄だ」



「その辺にしておけ。お前は未来の可能性を潰しているのと同じだぞ」

 担任が割って入ってきた。メンタルの弱い僕だから、無意識に泣いていたのかもしれない。大学を目指していないと分かっていても、辛かった。

「弓削、ちょっと時間あるか?」

 僕は首を縦に振る。

「ちょっと来い」

 僕は担任の手にひかれ、職員室を出た。職員室前にある玄関へと続く長い廊下を先生と歩く。

「悪いな弓削。あんなこと言われて辛かっただろ。靴、履きかえて来い。場所を変えて話そう」

「はい。ありがとうございます」

 僕は、しゃべった瞬間に気付いた。僕は泣いていた。きっと、号泣だろう。鼻水も出ているかもしれない。

 靴を履きかえ、涙を拭う。ブレザーの裾が汚れた。

 先生たちの車が停まっている場所へ向かう。


「おーい! 弓削! こっちだ!」

 先生の車はドイツ製の黄色くて丸いデザインの車だった。

 僕が、自動車免許を取ったら、乗ろうと思っていた車だ。

「おう。乗ってくれ。狭いけど俺の愛車だ」

「実は、僕も免許取ったら、この車に乗ろうと思ってたんですよ」

「はははは。弓削はおもしろいな。コイツに乗ろうって人は少ないぞ。見た目がダサいとかそんなことばかり言われてるからな」

 初めてそのような情報を聞いた。僕はデザインも気に入っている分、少しショックだった。

「僕は良いデザインだと思いますよ。このユニークなデザイン、とても素晴らしいと思います」

「そんなこと言ってくれるのは、お前だけだよ。腹減っただろ? 俺が奢ってやるよ」

「そんな。別に大丈夫ですよ。先生は午後の授業とかあるんじゃないですか?」

「午後からはすることなくて退屈だったんだよ。生徒がそんな心配しなくても良いよ。食いたいものはあるか?」

 僕は先生の優しさと、自分の惨めさにまた泣いてしまった。

「弓削は本当に涙もろいな。受験失敗したからって気にすんな。お前はまた大学受験するんだろ? あんなやつの言うことなんか気にしなくても良いさ。努力したやつが成功するんだからな」

 僕はただ何も言わず、涙を流していた。先生がここまで僕のことを思ってくれていたなんて、知らなかった。

 嘘を吐いたことに罪悪感を感じ、余計に泣いてしまった。

「こんな時は美味いものでも食って寝りゃ元気になるさ。先生のオススメのラーメン屋に連れて行ってやる。美味すぎて驚くぜ」

 先生と僕を乗せた黄色のユニークデザインの車は、学校を出た。



つづく

誤字訂正+追記しました。

3月27日

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