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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
2月25日
57/87

56話

 理学部棟の出入口に到着して、周りを見回す。辺りは雪が降っているだけで、誰もいない。

「ねえ、気付かない?」

「長生殿いたのかっ!?」

「違うよ。レイセンはあの長生殿って言う女が、当たり前のように二月二十五日にやって来たとか言ってたけど、私たちは三月二十五日の一時間前に戻ったはずなんだよ? 何で一時間後じゃなくて、一ヶ月後に戻っているんだって、何も思わなかったの?」

 気が動転していて全く気付かなかったが、稟堂に指摘されて初めて気付く。

 そうだ。僕たちは一ヶ月後に戻っている時点でおかしいんだ。

「もしかすると、一時間前にレイセンの家に入っていたのもあの長生殿って言う女かもしれないよ。あいつ、過去の中でしか生きられないって言っていたじゃない」

「……分かっていましたのね」

 理学部棟から長生殿は出てくる。

「わあっ!!」

「そんなに驚かなくても。ワタクシ、過去でしか生きていられない身ですが、二月二十五日のワタクシだけではありませんわ。二月二十六日にも二十七日にもワタクシはいます。だけど、全員一日をループしていますの。永遠に明日は来ませんわ。皆様方は、日を跨げば、そのまま自分自身の肉体を持って翌日になりますが、ワタクシは違いますわ。一日ごとにワタクシはいます。だけど、そのワタクシは、明日、昨日のワタクシ自身もみたことはもちろん、何をしているのかすらも知りませんわ。まだ見ぬ明日だなんてよく歌詞などにもございますが、ワタクシにとっては、過去すらも……」

「ちょ、ちょっと待て。何で明日には自分がいるって分かるんだ? 長生殿は今日から抜け出せないんだろう? それなら、そんな情報だって知っているわけないだろ」

 長生殿は下を向きながら笑っていた。

「自分自身で見たことはなくとも、なんとなーく、分かるものなのですよ。運命を変える者は、ヒミツも多いですからね。あと、輪廻さん、先ほどはワタクシもカッとなってしまい、大人げなかったですわね。本当に、ごめんなさい」

 笑ってはいたが、目は笑っていなかった。

 目に光がないと言うか、同じ日を繰り返している内に自分自身も分からなくなっていたりするのだろう。

「稟堂、一日くらいここにいても良いんじゃないか?」

「落ち着いてよ、こいつも運命を変えられるんだよ!? そんなヤツと一緒にいるだなんて……」

「だけど、僕には長生殿が悪いやつには見えないんだよ。本当に一日がループするのかも気になるだろ。もしかすると、僕たちだけ二十六日になるかもしれないだろ? それに、僕たちの本来の目的は二月二十五日からの脱出じゃなくて、一ヶ月後の一時間前の犯人探しだろ」

 稟堂は何か言いかけていたが、すぐに口を閉ざして長生殿の方へと向かった。

「あんた、レイセンに何かしたら、分かっているでしょうね? 容赦はしないから」

「分かっていますわ。ワタクシ、過去に戻って来られる人と話をしたのは久しかったので、嬉しくて。ワガママを言うなら、あなた方と一緒にここで暮らしていきたかったのですが、さすがに無理ですわね」

 理学部棟から中央図書館の方へと係る陸橋を渡りながら話していると、やはり長生殿はただ、毎日同じことの繰り返し、彼女の場合は本当に毎日を繰り返しているので、僕たちのような別の行動を取る人間が珍しいのだろう。

 しかし、データとは言え、精密に出来すぎている気もする。

 ひょっとして、本当に過去に……。



「こうして人と話をするのも久しぶりですわ。毎日同じ会話を聞くと言うのは拷問に近いですからね」

「近いじゃなくて、拷問だよ……ところでアンタ、さっきコフタロンコントローラー出していたけど、あんたも運命を変えられるの?」

「ええ。変えられますわ。イスタヴァが必要らしいですが、ワタクシの場合は日を跨ぐと一日がリセットされますので、イスタヴァなど不必要なのですわ。それに、運命を変えたところで他人の運命が多少変わるだけで、ワタクシは一切変わりはしません。ただ、シダネナジーが減るだけですわ。コフタロンコントローラーを最後に使ったのも、ワタクシの主観だと一体どれくらい前なのか、それすらも思い出せませませんわ」

 さりげなくすごいことを言っていた。やはり、相当この過去の二月二十五日に一人で……。


 中央図書館には行かず、階段を下りて、大学名が書かれた石や、自転車置き場などがある場所へと向かった。

 そしてふと思い出す。

 稟堂と出会う前、僕はこの近くにある橋の上から落ちて、溺死しそうになった。


「稟堂と長生殿さんにちょっとお願いがあるんだけど、良い?」

「ワタクシのことは長生殿で結構ですわよ。ワタクシはさん付けするのがクセになっておりますゆえ、レイサンさんや輪廻さんと呼んでしまいますが、その辺りはご了承くださいませ」

「ありがとう。それで、僕が稟堂と出会う前、橋の上から僕、落ちて川に落ちそうだったんだよ。だけど、落ちる瞬間だよ。そのときにコフタロンへ移動して、死ぬことはなかった。もう一度その橋へ行っても良いか? 大学からかなり近いからさ」

 稟堂も長生殿も快く承諾してくれたので、橋へと向かった。



 橋へとやってきた。

 大学前にあった石と同じくらいの大きさの石があり、夕霧大橋と掘られている。

 坂道になっている橋を上り、半分程進んだところで立ち止まる。

「ここで落ちそうになりましたの?」

「うん、だけど、突然コフタロンに移動したんだよ。コフタロンの中で僕の名前を言うと、いきなり家の前に移動してさ」

「……あのさ、確かに何も言わなかった私も悪いけど、あれは私がやったんだよ。何も言わないからレイセンも気付いているものだと思っていたけど、もしかして今の今まで私以外の誰かがやってたと思ったの?」

 稟堂がやったと言う確証はなかった。

 だからこそ、ここに来て稟堂自身の声でその言葉を聞きたかったのだ。

「ありがとう、僕、稟堂がいなかったら今頃、死んでいたんだよな。本当に、ありがとう」

 あのときの僕は、どうせもう浪人も出来なくて、就職しようにもあの時期からだと不可能だった。選択肢はフリーターしかなかった。

 だから、死ぬしかないと思っていたから、死んでも良かったと思っていた。


 だけど、今は違う。

 稟堂以外にも、久良持さんや葉夏上さんとも会えた。

 僅かだが、夜冬とも仲を取り戻せそうになっている。

 しかし、僕は戻るつもりは毛頭ない。

 稟堂に言われた通り、僕はフリーターになり、世界を変えていくことを決意した。

 世界を変えると言うのは言いすぎだが、僕自身の運命を変えていくんだ。


「レイセンさん、それっていつの話ですの?」

「大学の合格発表があった日の数日後だよ。三月九日だったかな」

「三月九日……今年は閏年ですので、二十九日もございますから、十三日後ですね。レイセンさんは何故こんなところにいらっしゃったのですか?」

 受験失敗して、とにかく家にいたくなかったから、だなんて言いたくない。

 だけど、言わないわけにもいかない。

 当分受験の話はすることはないと思っていたのに、こんなところでまた話すとは思いもしなかった。

「……長生殿は二月二十五日をループしているから、分からないだろうけど、僕、今日あった受験に落ちるんだ。完全に僕の勉強不足だけど、それで、家にいたくないから、とにかく、山へと向かってた」

「こんな雪の中ですか!!? 死ぬ気だったのですか!!」



 驚きを隠せていない長生殿の言葉でハッとする。

 僕は、どうして山へ向かっていたのだ。こんなに雪も積もっていて、しかも自転車で。

 融雪装置があったり、ある程度の除雪はされていたものの、普通に考えれば、あんな雪の日に山なんて行くわけがない。当時の記憶が思い出せない。

 僕はどう言う理由で山へ向かったのだ。無意識のうちに死のうとしていたのか?

「やめなよ。昔ことなんてもう思い出さない方が良いよ。特にこんな辛いことは……」

 昔ことと言うが、僕たちは今過去にいるので、未来の出来事になってしまうのだが、今はそんな細かいことを気にしている場合ではない。

「……多分、大学に落ちたから、最後にと思って大学を見ておきたかったんだと思う。それで、結局行く勇気がなくて、ワザと通り過ぎて、山に向かって自転車を漕いでいたんだ」


 自分のことは自分が一番分かっている。この答えであっていると思う。

 大学に行く勇気がないと言うのは、言葉の通りだ。大学に不合格だったから、大学側が僕を拒否したと言っても良い。その拒否している場所に自分から行くことに勇気を見出せなかったんだ。


「もう良いよ、話さなくて。レイセンだって辛いでしょ」

 会話を終わらせた僕たちの下に川が流れていると言うこともあり、凍てつく風が吹き付けている。

 こう言う場所の道は、非常に凍りやすい。しかも今は二月の終わりと言えど、真冬に近い。毎日氷点下近くまで気温は下がっているし、山麓なので雪だって駅や横町よりも降っている。

「そろそろ戻りましょうか。寒さもバカになりませんわ」

「戻るって、そう言えば長生殿はどこで暮らしているんだ?」

「どうせ一日がリセットされますのでどこにでもいますわよ。ホテルに宿泊してる場合が多いですが、民家に泊まることだってございますわ。翌日にはワタクシの記憶が消えておりますからね」

 しれっと犯罪をしていると言っているが、聞かなかったことにする。

「どうする? 僕たちのコフタロンに連れて行く?」

「だけど、この時点だと私とレイセンはまだ会っていないし、イスタヴァ契約だって結んでいないからコフタロンに行けたとしてもまた契約し直さないといけないかもしれない。あれ、そうなると二重契約になって……? いや、二重契約だなんて条項にはないし、いや、でもこれはデータとは言え過去だし、いや、うん?」

 真剣に考えている稟堂に僕は助け舟を出す。

「今は二月二十五日なんだから、僕はまだ勘当されていないよ。普通に家に帰れば良いだけの話だろ」

「でも、レイセンのお母さんには何て言うの? いきなり女の子を連れて行っちゃうの?」

「良いよ。どうせ過去とは言ってもデータなんだし、どうにかなるだろ。寒いし、早く家に行こうぜ」



 夕方になり、より一層寒さが厳しくなってきたので、十キロ近く離れた家に戻る。

 自転車でも一時間以上かかるのに対して、このジャンプ機能を使えば一秒もかからない。目の前の光景は、夕霧大橋から家の前になる。

「何だか違和感があるな。僕の家なのに、僕の家じゃないみたいだ」

 家の中に初めて入れた女の子は稟堂だが、長生殿も追加される。ちなみに、久良持さんは玄関から入っていないので論外とする。

「うーん、やっぱりレイセンさんの家は良いですわね。何度も家に入っていますが、レイセンさんは記憶がありませんよね」

「どうして僕の家に?」

「レイセンさんには、何度も駅でも試験会場でも会っていますわ。何度会っても、毎回反応が同じで、必死に参考書を読んで、話しかけないでくれとワタクシを冷たく突き放していましたわ。その冷酷なレイセンさんがワタクシを実家に招待するだなんて、やっぱり生きていると何が起きるか分かりませんわね!」

 長生殿はニコニコしながら家の中へと入っていく。



 稟堂と長生殿は二階へ上がり、僕は一階へお茶を汲みに行った。

 いつか似たような光景を見た気がする。

 熱いお茶を入れて二階へ向かうと、稟堂は布団の中でマンガを読み、長生殿は布団の中に入り、温まっていた。シングルベットなのに、二人も入ると窮屈だろう。

「ストーブくらい点けろよ。寒いだろ」

 僕の部屋は四畳半しかないので点火の遅いストーブでも、数分で室内温度は三十度近くになる。

 部屋で暖まりつつ、本来の僕なら明日に向けて勉強をしているはずだが、試験を受けていないので僕は勉強もせずにイスに座って、彼女達二人の様子を見る。

 僕のベットに女の子二人が寝転がっていること自体がもう信じられないが、これは現実だ。データの中とは言え、実際に起きていることに等しいのだ。

「長生殿に聞きたいんだけどさ。零時になった瞬間に記憶は消えるのか?」

「それはありませんわ。と、言いたいですが、ワタクシもこれは異例の事態ですから。レイセンさんたちはそのまま二十六日になるのか、はたまたワタクシと同じく、二月二十五日を繰り返すのか。それは零時にならないと分かりませんわ。今はとにかく暖を取らせていただきますわ」

 言い終えると布団の中へと潜りだす。稟堂は気にせずにマンガを読んで小声で笑っていた。



 しばらくすることもなかったので、参考書を見ながら試験に出た場所を覚えている限りマークしていると、夜冬が帰ってくる。

「ただいま。玲泉帰っているか?」

 一階から夜冬が僕を呼んでいたので自室から出て、夜冬に顔を見せに行く。

「どうだったんだ? 試験」

「ま、まあまあかな。合格出来るか不安だけど」

「してもらわないと困るんだけどな。それより、腹減っただろ? 今日はカツ丼だぞ。たくさん食って、明日の試験に備えて暖かくして寝ろよ」

 スーパーの袋の中にはたまごとカツがあった。

 夜冬の作るカツ丼は簡素なものだが、僕は嫌いではない。

「あの、やふ……お母さんには悪いけど、部屋で食べて良いかな? 少しでも悪あがきをしておきたいからさ。作ったら、呼んでよ。自分で持っていくから」

「ああ。少し寂しいけど、仕方ないか。それに、メシくらい持って行ってやるよ」

 一瞬で頭の中で言い訳を考える。どうする、何を話す。

 とにかく話をしよう。無言が続くわけにはいかない。

「え? あ、良いよ。気分転換として、少しくらいの運動もしておきたいからさ。だから、出来たら呼んでよ。取りに行くから」

 アドリブでここまで言えるようになったとは、僕自身も少し驚いている。

「……分かった。今日は腕によりをかけて作るからな。玲泉は勉強してろよ。明日も、頑張れよ」

 夜冬はスーパーの袋を提げて、居間へと戻って行った。

 同時に僕は罪悪感を受け止めながら階段を上り、自室へ戻る。



 扉を開けると、マンガから目を逸らすことなく、僕に向かって稟堂は尋ねてくる。

「何か言ってた?」

「別に。明日も試験頑張れってことくらいしか言ってなかったよ。それはそうと、お腹空いていないか? カツ丼を作っているらしいんだけど、僕、食欲ないから稟堂たちで食べろよ」

「そんな、家に宿泊させてもらって、食べ物まで戴くだなんて、ワタクシにはそんなことできませんわっ!!」

 よく言うよ、平気で無銭宿泊していたくせにと呟くと、顔を真っ赤にして僕のことを叩いていたが、すぐにやめて布団に隠れる。照れ隠しだろうか。

「玲泉、ちょっと良いか?」

 部屋の前に夜冬がいたのだ。よく気づけたものだ。

 扉を開けて、部屋の前にいる夜冬に、部屋が見られないように素早く出る。

「な、何? どうかしたの? ご飯なら取りに行くって」

「いや、その、玲泉、大学、受かりそうなのか?」

 実際の運命ではこんなこと聞かれただろうか。全く覚えていない。

「どうしたの? いきなり」

「……今日の玲泉、いつもと違ってトゲがないと言うか、丸くなったって言うか、とにかくいつもと違うから、もしかして、大学に受からないくらい難しかったから、諦めているんじゃないかと思ってな。大丈夫なら良いんだ。邪魔して、悪かったな」


 トボトボと階段を下りて行く夜冬を見送ると、僕は再度部屋に入る。

 布団が不自然に膨らんでいる光景を見て、思わず吹き出してしまうが、すぐに机に置かれている分厚い赤い本に目を通す。

 もしも、このまま僕たちだけ二月二十六日へ移動したら、そのときは、もう一度試験を受けてみようか。

 どうせ一日目を受けていないのだから、落ちることは確実なのだ。チャンスだと思って、もう一度受けよう。

 下から夜冬の声が聞こえたので、僕は一階へ戻り、カツ丼と惣菜パンを持って二階へと戻る。

「玲泉。あんまり、無理するなよ」

 背後から聞こえた夜冬の声に、何と返せば良いのか分からず、僕は生返事だけをして、部屋に戻った。



「こ、これがレイセンのお母さんが作ったカツ丼……!! すごい!! 何もない!!」

 カツを溶きたまごで閉じただけの本当にシンプルなものだ。

 タマネギもネギも一切入っていない。傍から見れば、手抜きだとか思われそうだが、昔からこのカツ丼しか食べていないので、僕にとってはこれが一般のカツ丼だ。

「あの、レイセンさんの家は、ひょっとして貧困と言うものになるのですか?」

「まあ、そうなるね。うち、片親だから一般の家庭よりも裕福ではないよ。だからこそ、大学も学費の安い国立にしたんだよ。結局落ちた、いや、今は過去だから落ちると言うべきかな?」

 胸が痛い。あまり大学の話はしたくない。

「まあ、温かいうちに食べなよ。たまごとカツだけだけど、すごい美味しいよ」

 稟堂と長生殿は僕の箸を使って半分ずつ食べていた。

 と言うか、僕だと嫌がっていたのに、長生殿だと同じ箸を使っても良いのかよ。こいつ、もしかしてそっちの気があるのか?

 そのようなことはすぐに頭の奥へと放り投げ、机に向かって思い出せる限りの問題をチェックし、解いていく。

 もう一度試験が出来るだなんて、夢のような話だが、僕はもう受からない。

 何にしてもこの過去も、同じ運命をたどるのだろう。

 それでも、僕はペンを動かし続け、頭を働かせ続けた。



「レイセン、もうすぐ零時だよ」

 稟堂がベットから出てきて、僕の横に立って知らせてくる。本棚にある時計を見てみると、零時五分前だった。

「二十五日のままか、それとも二十六日になるのか、見ものだな」

「ワタクシは、確実に二十五日に残りますわ。だけど、レイセンさんや輪廻さんがどうなるのか、ワタクシもこのようなことが経験したことがございませんので。久々に緊張していますわ」

 長生殿は自分の胸に手を当てて目を閉じて深呼吸している。

 零時まであと数秒と言うとき、全員で時計を見ていた。まるで、年明けの瞬間を見ているようだ。


 今まさに長針と短針が重なろうとしたとき、目の前の光景がゆがみ始める。

「な、何だこれっ!?」

「空間が、歪んでいる……?! 何で!」

「あなた方もですか。どうやら、二月二十五日から出ることは、不可能なようですわね」

 歪みが治まると、すぐに部屋を出て一階にあるデジタルクロックを見に行く。



 デジタルクロックは二月二十五日零時二分十二秒と表示されていた。



「嘘……だろ」

「嘘ではございませんわ。これが、現実ですわ。あなた方もワタクシと同じループに巻き込まれたようでございますわね。覚悟を決めて、一緒にこの二月二十五日で暮らしましょう、レイセンさん」

「ふ、ふざけるな! 僕は絶対に二月二十五日から出る!! 絶対に三月二十五日に戻るぞ!!」

 居間の前で叫んでいると、夜冬が部屋から出てくる。瞬時に長生殿はジャンプしていなくなる。

「どうしたんだよ、こんな夜中に……今日は試験だろ? 早く寝ろよ」

「……寝ると、また試験がやってくる。永遠に終わらない試験が、来てしまうんだ」

「大丈夫か? 勉強のしすぎじゃないのか? とにかく、もう寝ろよ。明日、頑張れよ。お母さんも応援しているからな。ふああ」

 大きな欠伸をしながら、夜冬は自室へと戻って行った。

 僕も二階へ戻り、布団で号泣する。

「ふ、ふざけるなよ。僕も、何でこんな目に合わなきゃいけないんだよ……くそっ!!」

「レイセン、とにかく今日は寝ようよ。起きたら、三月二十五日に戻る方法を探そう。絶対にあるはずだよ。だって、ここは本当の過去じゃなくて、データの中なんだから。大丈夫、きっと帰られるよ」

 泣いている僕の背中にそっと抱き着きながら稟堂は話してくる。

 それでも涙は止まらなくて、しばらく声を殺して泣いていたが、気がつけば、泣き疲れて眠っていた。




つづく

書いていて思いましたが、二月二十五日編に入るってのは本当はおかしいんですよね。

実は、プロットとして考えていたのをそのまま使っちゃったので、三月二十五日の一時間後ではなく、二月二十五日に戻ってしまっています。

前回の話で訂正しようか迷いましたが、これはこれで謎になりそうなので、そのままにします。


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