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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月10日
5/87

4話

これで一章である三月十日の話は終わりです。

文字数42、行数34の設定で21ページ分になります。


この辺はほぼ説明ばかりであまり面白くはないかもしれないですが、これから面白くなっていきます。

それにしても、話数が進むごとに文字数増えていってるなあ……

「コフタロンシステムヘようこそ。お名前をどうぞ」

稟堂りんどう 輪廻りんね! あと、イスタヴァ加入者もいるからイスタヴァルームに繋げて」

「リンドウ リンネ様ですね。一致しました。イスタヴァルームへご案内します」

 この程度じゃ、もう驚かない。ここに来るのは、三回目だからね。

「レイセン。イスタヴァルームで手続きとかするけど大丈夫?」

「う、うん」

 やはり、落ち着かない。何でこんな映画みたいなんだ。

 白で強調された部屋にはコフタロンコントローラーの中央スイッチを押したときと同じく、空中に浮かぶウィンドウしかない。

 こんな近未来的なものを、どうやって作ったのだろうか。運命とかなんとかって言っていたが。

 考えていると、いきなり場所が変わった。

 別の部屋に跳んだらしい。さっきの部屋と、あまり変わってない気もするが。


「ここで手続きを行って。手続きと言っても、ほとんどしゃべるだけで、書くのは最後だけだから、リラックスして大丈夫だよ」

「そう言われても、やっぱり落ち着かないな」

「すぐ慣れるから、安心して。じゃあ私、部屋の外で待っているから」

 そう言って稟堂はよく見ないと分からないような扉を開けて出て行った。

あんなところに出入口あったのかよ。



「お名前をどうぞ」

「またこんな感じのあれか。弓削ゆげ 玲泉れいせん!」

 二十秒ほど経って、また音声が流れてきた。

「お名前はマタコンナカンジノアレカユゲレイセン様でございますか?」

「違う違う! 日本中探してもそんな名前の人いないよ! やり直し! リセット!」

 まさか話した言葉全てを名前と認識するとは思わなかった。誰も思うわけがない。

「お名前をどうぞ」

「弓削玲泉!」

 しばらく経ってまた声が聞こえた。

「ユゲレイセン様でございますか?」

「そうです」

 肯定の返事をすると、数秒後にすぐに音声が流れてくる。

「誰がイスタヴァでございますか?」

 ここで稟堂の名前を言えば良いのだろうか。

稟堂りんどう 輪廻りんね

 それにしても稟堂 輪廻ってすごい名前だよな。稟堂という名字の時点ですごいけど、さらにそこで輪廻と言う名前を持ってくるあたり、親御さんのセンスを感じる。僕も、弓削と言う世間一般から見ると、珍しい名前だが、玲泉ってのは、輪廻並のすごさかもしれない。



 しばらくするとまた声が聞こえてくる。

「イスタヴァは『リンドウ リンネ』様ですね」

「そうです」

 急に機械が何もしゃべらなくなった。壊れたのか? 二分ほど待つと空から白紙と鉛筆が落ちてきた。

「そちらの方に、ユゲレイセン様の氏名をフルネームで、イスタヴァ名もフルネームでお書きください。書き終わったら、もう一度話しかけてください」

 思えば、リンドウって、どんな字を書くんだろうか。カタカナで良いかな。リンネだけ漢字で書いても仕方ないよな。カタカナで良いか。僕の名前は……漢字で良いよな。

「おーい! 書けたよ!」

 叫んだ瞬間、上から鎌鼬かまいたちのようなものが落ちてきて、僕の指をかすった。切り傷が出来て、少しだけ血が溢れる。

 溢れた血は紙に一滴落ちた。

 直後、紙と鉛筆が消えた。もちろん驚いた。驚かないやつなんていないだろう。

 ポケットに入れてあったコフタロンコントローラーが音を出した。

 手に取ってみるとウィンドウが勝手に表示された。

「弓削 玲泉様。ご契約ありがとうございます。リンドウリンネ様と良いイスタヴァになってください」

 と表示されていた。何だこりゃ。



 出入口から稟堂が出てきた。

「契約ありがとう。これで私はあなた、レイセンのイスタヴァになったわ。よろしくね」

 イスタヴァになったって、何を言っているのか理解できない。

「これから、レイセンのより良い運命を作っていこうね」

「じゃあもしかして、これから一緒に暮らすとか泊まるとか今に分かるとか言ってたのって」

「これのこと」

 驚いた。こいつは一切説明しなかったから気付かなかった。いや、気付けるはずがない。何だよそれ。フリーター、いや浮浪者になって良い未来が待っているだって? バカなことを言うな。悪い未来しか見えない。



「ちょっと、悪い冗談は、やめてくれよ。僕は家を追い出されたんだよ? と言うよりも君が僕を追い出したんだけどさ。え? これからどうなるの?」

「そうだね。とりあえずバイトでも探す?」

「確かに、働かなきゃいけないけどさ。何だよ、その他人事みたいな言い方は」

 僕はちょっと怒り気味で言う。稟堂は僕の目を真っ直ぐと見ている。

「今の言い方については謝る。ごめんなさい。でも、私は、レイセンの未来を決める者だから」

 冷静になって考えると、確かに稟堂は、運命を変える力がある。

 クラスで僕の横には誰もいなかったのに、こいつがいたことをどう説明する?

 咄嗟に出た記憶障害説。それは、きっとありえない。

 僕は正常だ。精神的に参っていたのは事実だが、記憶障害を起こすまではいっていない。

 言うなれば、僕の隣の席に、誰もいないと言う記憶を持っているのは、世界中で、いや宇宙規模で言っても良い。僕と稟堂の二人だ。



 しかし、今回はこのようなどうでも良いことで運命が変わったが、もし仮に、人の死なない運命に変えてしまったら?

 そう言えば、このコントローラーを初めて手に入れたとき、僕は川に落ちそうになって、コフタロンシステムを使って、運命を変えたとか言っていたな。

 死の運命を変えたってことは、本当は死んでいたのだろうか。泳げないから、川に溺れて溺死していたのだろうか。いや、あんな寒い時期に川に落ちれば、凍死する。


 もしも、仮にあの時、僕がコントローラーを握らなかったら、僕はもうこの世からいなくなっていたのか?


 でも、それも悪くなかったかもしれない。どうせ、フリーターになる未来しか選択肢はなかったのだから。僕の運命を変えたのは、何か意味があるのだろうか。

 ただ単に、大学受験に失敗して、お金もなくて、浪人ができなくて、家庭崩壊寸前だったから、と言う理由で選ばれたのだろうか。


「レイセン? ごめん。そんなに落ち込むなんて、思わなかった」

「え? ああ。ごめん。何でもないよ。そうだな。もう、どう足掻いても仕方ないもんな。バイトを探そう!」

「良かった。その気になってくれて」

 稟堂は両手を合わせて、笑顔で喜んでいる。

「こうなりゃ、もう、開き直るしかないもんな。一緒に僕の運命を変えていこう。これからよろしく」

「うん。よろしくね。じゃあ戻ろうか」

「ああ」

 僕たちはイスタヴァルームから一度現実に戻り、求人情報誌を持って再度、コフタロンへ戻った。



「とにかくバイト探しだ。まずは求人情報誌から」

「求人情報誌ってそんなに良いバイト載ってるの?」

「見なきゃ分からないけど、長期で続けられる場所の方が良いよな。時給の高い場所で」

 パラパラとめくっていると、稟堂はとある求人を目に止めて、僕に話しかけてきた。

「それなら、ほら、これは? 時給九百円」

「おお、高いな! でも、これ深夜のバイトだろ。僕、まだ一応高校生だからさ。卒業後に電話してみるしかなさそうだ」

「それまでに、残っていると思う?」

「微妙だな」

 僕たちは、夜遅くまでバイトを探し続けた。

 しかし、学校もあるので、ひとまず寝ることにした。バイト探しは、明日、学校が終わったら、街中で探すことになった。

 寝る場所はと言うと、自分の家ではなく、コフタロンシステムの中だ。

「思ったんだけどさ。こいつに頼めば、部屋くらい何とかなるんじゃないの?」

「あの時は、イスタヴァがいなかったから何もならなかったけど、今回はいけるかもしれない。お願いしてみて」


「あの、ちょっと良い?」

 天井に向かって叫んでみる。

「何でしょうか」

 すぐにどこかから声が聞こえてきた。

「部屋って用意できる? ベッドとか、トイレとかある部屋」

「シダネナジーを少々使いますが、可能ではございます」

 曖昧な言い方をしてくる。もう少し具体的に言ってほしいが、具体的に言ったところで僕には理解できないだろう。

「少々ってどれくらい?」

「僅かです。現在の状態だと可能になっています」

「じゃあ、二つ分用意して」

 肯定の返事が聞こえた後、僕と稟堂は跳ばされた。

 すぐに部屋に着いた。これは疑似ワープ的なものなのだと解釈しているが、実際はどうなのか分からない。それにしても、これからここが僕の部屋、いや家になるのか。整理整頓しなくちゃ。

 見渡すと、かなり綺麗な部屋だ。ベッドもあるし、机もあるし、冷暖房のようなものまである。何故二つずつ、ベッドに限ってはセミダブルが一つあるのかは疑問だが。しかし、相変わらず白が強調されたシンプルなデザインだ。白がメインと言うか、ほぼ白しかないから汚れが目立ちそうだな。



「で、何でお前が同じ部屋にいるわけ?」

 僕の横には、違う部屋に飛ばされたはずの稟堂がいた。

「知らないよ。勝手に決められたんだから」

「おい! どうなってんのこれ!」

 僕は天井に向かって叫んだ。

「イスタヴァと、ご一緒でないといけませんので。お部屋二つは無意味と判断され、勝手にお一つにさせていただきました」

「あんたらの独断じゃ困るよ!」

「私は、別に構わないけど」

 意外なところからの返事。こう言うのは、たいてい

「えー? 何で私があんたみたい受験失敗したクズと一緒な部屋で寝なくちゃいけないのお? 嫌だなあ」

 とか言うのに、そっちからあっさり承諾するとか、まるで僕が、稟堂と一緒に暮らすのが嫌みたいじゃないか。いや、別に嫌じゃないが、気まずい。

「レイセンは、嫌なの?」

 甘えた声で言いやがって。ならこっちもズバッと言ってやる!

「僕も、構わないけど」

 やっぱり僕には、勇気なんかありません。でも仕方ないよね。イスタヴァとなった以上は一緒にいなきゃならないならね。可愛い女の子と一つ屋根の下。

 


 いや、この場合は屋根じゃなくてシステム、つまり、ここって一体どこなんだろう。

「なあ。稟堂。一つ聞いていいか」

「何? 分かる範囲で答えるけど」

「僕たちが、今いるこの部屋、いや、それどころか、コフタロンシステムって、どこに存在するものなの? 現実ではなさそうだけど」

 稟堂は微笑みながら僕の質問に答えてくれた。

「なかなか面白い質問するね。このコフタロンシステムや、コフタロンルームは、無数にある運命の間に、存在しているの」

「ごめん、全然分からない」

 想像以上に複雑なことを話してきた。運命の間って何なんだ。

「理解力ないなあ。運命だよ運命。ディスティニーの中にあるの」

「だってさ、運命の中にあるとか、簡単に言うけど、無数にある運命の間って何だよ。運命って姿形がないものだろ?」

「レイセンの脳がそう解釈しているだけだよ。運命は、実在する。姿形もあるし、簡単に変更もできる。良い方にも悪い方にもね。レイセンは、運命なんて運で決まっているとか、思っていそうだけど、単純なの。すぐに変わる。誰かが動かせば、誰かの運命が変わる。取って外して、自分の都合の良いものに、変更出来るのが、運命だよ」

 運命は実在する? そんなこと、信じられるわけがない。仮にあったとしても、僕たち一般人は動かしようがない。稟堂のような運命を変えられるやつならまだしも。

「えっと、つまり、稟堂には、運命が見えているの?」

「ほとんどは見えないけどね。そこで重要になってくるのがシダネナジーだよ。シダネナジーの説明、覚えてる?」

「確か、心の思いが重要とかってあれでしょ?」

「それ。レイセンは今、多分人生で、一番ドン底にいると思う。本来ならシダネナジーは半分以上あるのに、レイセン、半分以下なんだもん。すぐに分かるよ」

 確かに気分は沈んでいる。受験失敗と言うのが、大きなダメージになったと思う。と言うか、それしか大きなダメージがない。



「運命を変更するって分かる? レイセンが今、手に持ってるそのコフタロンコントローラー、それで運命を変えるんだよ。その時に運命の形が見えてくるよ」

「タンマ。話がずれてきている。僕が聞きたいのは運命云々じゃなくて、存在している場所だよ。分かる?」

「だから、それが、運命の中に」

 また同じことを言ってくる。運命の中ってのが曖昧すぎる。

「運命の中にって何だよ! あれか? 宇宙で言う惑星の集まりが太陽系とか何とか系で、それがさらに集まって出来ているのが銀河系で、銀河が集まって出来ているのが銀河団とかそう言うものなのか?」

「良い答え! 運命って言うのは、生命の数だけあって、そして大きさもバラバラ。もしかしてレイセン、宇宙マニア?」

「マニアってわけじゃないけど、好きだよ」

 やっぱり老若男女問わず宇宙にはロマンがあるからね。みんな好きだと思う。

「じゃあ聞くけど宇宙のボイド分かる?」

「ああ、ボイドね。宇宙に限らず物体に含まれる空洞のことだろ。要は何もない部分だな」

「このコフタロンシステムは、そのボイドの中にあると言っても良いかな」

 ボイドの中にこのコフタロンシステムがあるのだろうか。想像がしにくい。

「何もない部分にポツンと浮いているの?」

「宇宙にあるのかは定かじゃないけど、私はそう聞かされている」

 こいつがボイドと言う単語を知っていたことに驚いた。結構、マニアックな部類に僕は入ると思っていたからだ。受験勉強のために生物の勉強をしているときに出てきて以来で、まさか日常会話で使うとも思わなかった。

「もう寝ようよ。明日、学校に行けば、もう卒業式まで行かなくても、良いんだから」

「そうだな、寝るか。と言うか、ベッド一つしかないよ?」

「一緒に寝たいのなら、私は構わないけど」



 寝たくないと言えば嘘になる。クラスで一番可愛いと言っても良い。正直、うちの学校に可愛い子しかいなかった。文化祭のとき、それは嫌と言うほど分かった。

 他校の生徒から、うちの生徒が、何人もナンパされていたし、学校掲示板のような場所では、女子の可愛さなら、うちの高校が頂点に立つと言われていたくらいだ。

 でも、僕は話しかける勇気とか、あらゆるものが不足していて、結局、三年間ほとんど女子との関わりがなかった。

 そんな僕が今、クラスで一番可愛い女子と、一緒な布団で寝ようとしている。 これは、これだけは、断ってはいけない気がする。

「良いよ、僕は下で寝る」

 こんなところであまのじゃくになってしまう自分が、恥ずかしくて、惨めだと痛感する。


「わ、私は一緒に寝たいな」

「で、でも。僕みたいやつと一緒で、良いの?」

 僕の言葉に、稟堂は頬を赤らめて肯定している。本当に良いのだろうか。

「私は良い。ううん。レイセンと一緒が良い」

「本当に、言ってるの?」

「……本当だよ」

 と言う妄想をしていた。僕は今、地べたで寝ています。寒い。そして痛い。

 ちなみに妄想の部分は「一緒に寝たいのなら私は構わないけど」から。

 あの後「じゃあ私ベッドね。あんたは地べた。決まり。おやすみ」と言って終わりました。

 これじゃ本当に僕がシモベみたいじゃないか・・・




つづく

誤字訂正+追記しました。

3月27日

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