38話
今回もちまき目線の話にしました。次回からは玲泉目線に戻します。
目を開けると時計の針は十二で重なろうとしていた。少しばかり眠りすぎてしまったようだ。
布団から起き上がり、カーテンを開けると珍しく晴天だったこともあり、気持ちの良い目覚めだった。
すぐに四畳半の狭い部屋の出入口を出て顔を洗い、歯を磨いていると、ふと昨日見た別の運命のことを思い出す。あの運命でもあたしの家族は崩壊していた。正確には母親が壊したのだ。
あたしは何も悪くない。むしろ被害者だ。出て行って正解だとは思っているが、もうあの実家には戻りたくはない。
死んでしまったお父さんへの愛する気持ちはもうあの人にはないのだろう。
歯を磨き終え、別の運命のことを忘れようともう一度顔を洗う。冷水が顔を刺激する。
今日は特に用事があるわけでもないが、こんなに良い天気だ。散歩でも行ってみようと思い、寝間着から私服へと着替える。自分の着用している下着もボロボロになってきているが、今は気にすることもなく着替えた。
階段を下りて玄関口に向かうと、玲泉くんと輪廻ちゃんがいた。
「こんにちは、葉夏上さん」
「玲泉くんに輪廻ちゃん……どうしたの、こんなところで」
「特に用もないので、ただここにいるだけですけど」
「そうなんだ。じゃ、あたしちょっと用事があるから、またね」
特にこれと言った用事もないが、その場でお茶を濁らせる。別の運命で見たあの神社へ行ってみようと、頭の隅では考えていた。あの神社に行ったことはもしかすると何か関係があるかもしれない。関係がなかったとしても、ちょうどいい散歩道になるだろう。
別の運命で辿ってきた道通り、駅の方へとひたすらに歩く。三十分もすると駅が見えてくる。駅構内を通り、鼓舞門前を通らずに東口の自転車置き場横を通りながらあの神社へと向かう。道は記憶しているが、駅周辺の地理は疎い。だが、迷ったら大通りへ出てしまえば解決だ。
中央郵便局も歩道橋も交番も通り過ぎ、三影大橋の横断歩道を渡る。この川沿いの道をひたすらに進めば、別の運命で見たあの神社に着く。何かあるわけでもないってのは分かっている。でも、動かずにはいられなかった。
神社が見えてきた頃、前から車が一台こちらに向かって走ってきているのが見えたので、すぐ端へと移動すると、後ろから聞き覚えのある声がする。振り向くと、久良持アパートの住人の皆さんがいた。
「……みんな、何してるの?」
「あ、いや、あの、その、レイセンくんがさ」
「違います! 稟堂が行こうって言うので!」
「え!? あ、えっと、久良持さんが行こうって」
其々必死に言い訳をした後、口々に言い争っているが、その光景を見て笑ってしまった。
「プっ……! あはははは! みんな、着いてきていたの?」
「勝手につ後を着けるのは罪悪感もありましたけど、稟堂と久良持さんが面白そうだって……」
「あー! レイセンくん人のせいにするんだー!!」
こんなことならみんなで散歩をした方が楽しかったかもしれない。家族のことを考えずにみんなと一緒に歩いた方が断然楽しいだろう。なんてバカなことをしていたのだろう。
「ちまきちゃん、この後何か用事はあるのかい?」
「いえ、何もないです。ここの神社、別の運命で見たので、何かあるかもしれないなと思って来てみただけです。やっぱり、何もなかったですよ。あははは……」
無理矢理笑ってみせるが、先ほどのように心の底からは笑えていない。
「そうでもないんじゃない?」
「えっ?」
久良持さんの視線の先にはあたしの母親と母親の愛人がいた。
つづく




