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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月10日
3/87

2話

 放課後、職員室に足を運んだ。

 三年六組の担任である高野橋たかのはし先生は言う。


「弓削。お前どうするんだ?」

「親とは、一応、話したのですが……」

「ご両親は、何と言っているんだ?」

 実は親とは何も話していない。先生の前だけでも、話したことにしておかなければ先生からも見放されそうで、怖かったから、嘘を吐いた。

「す、好きにしろ……と」

「そうか。お前はどうしたいんだ?」

 僕自身は、浪人をして、もう一度国立大学に挑戦したい。自分の気持ちくらいは先生に話しても良いだろう。

「僕としては、浪人して、また大学を目指したいと思っています」

「なら、そうするか?」

 簡単に言ってくるが、僕の家は母子家庭で、家にお金がない。予備校へ通う余裕もない。

「でも、予備校とか通うお金がないから……」

「じゃあ、お前はフリーターか?」

「それは……」

 言葉に詰まる。僕は何も言えない。改めて自分は大人に守られている子供なのだと実感した。

「今度、両親を呼んでじっくり話そう。先生も時間を見つける」

「はい。迷惑かけて、申し訳ございません……」

「気にするな。それが教師ってものだからな」



 高野橋先生に挨拶をして、職員室を出ると、織衣が待っていた。

「オツトメご苦労さん」

「……ああ。散々だった」

「少し聞いてた。言いたいことあるならさ。迷わずに言えよ。俺たち友達だろ?」

 僕は少し泣きそうになった。だが、友達の前で涙は見せられない。ただでさえ情けないところを見られていたのだ。

「うん。大丈夫。心配かけて、悪い」

 途中まで、織衣と一緒に帰った。でも、僕は迷惑をかけたくなかったので、用事があると言い、わざと遠回りをして織衣と別れた。昼ご飯を買おうか迷ったが、やめた。お金をあまり使わないでおこう。



「レイセンくん」

 背後から僕を呼ぶ声が聞こえた。この声は、横の席にいた女か。

「……何?」

「これからよろしくね!」

「……よろしく」

 気力のない返事を彼女に返す。やはり、稟堂とか言う女は察した。

「相変わらず元気ないね」

「お前に、分かるわけないだろ……! 行きたかった大学に落ちる辛さ! これからどうなるのか分からないんだぞ! フリーターになるかもしれないんだぞ! あれは僕にとって一世一代の大きな賭けだったんだ。それが、それが……」

 気が付くと僕は泣いていた。女の子の前で泣くなんて情けない。

 それでも涙は止まらなかった。



「想像以上にひどい運命……」

「運命? 訳分からないこと言うなよ!」

「私が、何であなたに、あのコフタロンをあげたと思う? あなたの運命を、変えてほしいからだよ」

 僕の、運命? 何を言っているのだろうか。運命なんて運で決まっているに決まっている。改変なんて出来るわけない。

「僕の運命?」

「そうだよ。レイセンの運命、面白いくらい不運なんだもん」

「……お前、それ本気で言ってんの?」

 バカバカしい。何が僕の運命は不運だ。そんなこと、あるわけない。そう思いたいが、彼女の言う通り、クラスで僕一人だけ受験に落ちている。不運以外の言葉で表すのなら、努力不足と言ったところだろうか。

「じゃあ、何で私が、レイセンの学校にいると思う? どう説明する?」

「うぐ……」

 確かに何も言えない。核心を突きやがった。



「ね? これで信じた?」

「ま、待てよ。僕の記憶障害説もあるだろ」

「往生際が悪いなあ。じゃあコフタロン出してよ。運命を少しだけ変えてあげるから」

「コフタロンって、あのコントローラー? あれ、家にあるんだけど」

 彼女は、世界が終わると知ったときのような顔をしていた。

「何してんの! 大学落ちて当たり前だよ! あんな大事なものを置いてくるなんて!」

「大学とそれは関係ないだろ……」

「とにかく! 急いでレイセンの家に行くよ!」

 彼女は僕の家を知っているのかと思ったが、僕の家と全くの逆方向へと進みだした。

「おい! 待てよ! 僕の家こっちだよ!」

 彼女は派手にずっこけた。



 僕の家に着いたと同時に思う。高校生活で初めて女の子を家に連れてきた。

「ずっと見てたけど、相変わらず普通の家だね」

 ずっと見てたとは、どういう意味なのか聞こうと思ったが、今は女の子を家に初めて入れることで気分が高揚していた。

「まあね。あがってよ」

「言わなくてもそうする。お邪魔します」

「勝手に漁らないでよ。今、お茶用意するから」

 僕は一階にある居間へ、彼女は僕の部屋がある二階へ向かった。

 それにしても、さっきまで泣いていたのがウソのようだ。今はクラス一と言っても良いくらいの可愛い女の子と一つ屋根の下。妄想が膨らんでしまう。


 お茶を持って部屋に向かうと、彼女は僕の部屋を荒らしていた。

「ちょっとやめてよ。僕の部屋をむやみに散らかさないでよ」

「本当にどこやったのよ! バカバカバカ!」

 稟堂は半泣きになってコフタロンを探している。

「どこって、ここにあるじゃないか」

 僕は机の上に置いてあったコフ何とかを持って彼女に渡す。

「あっ、こんなところに……」

 顔を真っ赤にしながら、咳払いをして、彼女は言う。


「えっと! このコフタロンはね、運命を変える機械ってのは、分かっているよね?」

「まぁ、正直信じられないけど」

「じゃあ、今から運命を変えるからね! えーっと……」

 彼女はコフタロンとやらをいじくり回している。そんなに操作が難しいものを僕にくれたのか。確かに、やたらと不親切だとは思ったが。

「はい、じゃあこれ持って」

 そう言って彼女は僕にコントローラーを渡す。僕が持つと同時に、音が鳴る。

「何これ。エラー? シダネナジーが足りません……あ。そうか。レイセンは、今の現状に満足してないもんね。不安で仕方ないでしょ?」

「まあ。そう言われるとそうだね」

 少しイラッと来たが、僕は平静を装った。



「じゃあ、今、決めて。フリーターになるか、予備校に行くか」



 何でお前に僕の人生を、運命を決められなきゃいけないんだよ。と、思ったが、もう何をするにしても手遅れだ。

 それも悪くないかもしれない。

 どうにでもなって、構わない。

 予備校には通いたいけど、金銭的に、絶対無理だ。それなら、僕はフリーターにでも、何にでもなってやる。別に死ぬわけじゃない。それなら、もう一度賭けてみよう。このイカれている僕の運命を、変えてやろうじゃないか。



「僕、フリーターになるよ。予備校は、通えないし」

「私としても、そっちの方がありがたい」

 何故彼女にとって都合の良いものになるのだろうか。

「何で?」

「まあ、今に分かるから。とにかく、まずはシダネナジーを溜めよう」

「ちょっと待って。何で僕がそのシダ……を知ってることで話が進んでいるの? そんな古生代に生えてそうな草の名前のもの、僕、知らないよ?」

 彼女は大きくため息を吐いてから言った。

「レイセンさ、本当にこれをもらって、何をしてたわけ? まあ、見ていたけど何もしてなかったね」

「本当、お前口悪いな。イライラする」


 彼女はお茶を一口すすって説明を始めた。

「まずシダネナジーから説明するね。シダネナジーは言わばレイセンの心の思い、もっと言うなら嬉しいとか楽しいとかのポジティブな感情だね。この思いが強ければ強いほど運命を簡単に、自分の都合に合わせて変えられる。お分かり?」

「それは分かったけどさ。その心の思いって言うのは具体的にどんなものなの?」

「レイセンの心なんだから、自分に聞いてよ。自分のことは自分が一番分かっているんでしょ? レイセンの嬉しいときと、私の嬉しいときって多少は違うでしょ?」

 彼女は再度、お茶を飲んでいる。気に入ったのだろうか。

「それもそうだな」



「シダネナジーは、運命を変えたりすると、少しだけなくなる。シダネナジーのゲージは、この左のタッチパネルでも分かるし、ウィンドウを開いたときにも表示される。このゲージがなくなった時、多分、死に最も近いときだと思う。今現在、ゲージゼロの人間は、私は見てない」

「えっ? 僕以外にも、運命を変えられるやつらがいるの?」

 僕以外にも運命を変えられるやつがいるのなら、その連中も僕と同じような境遇なのだろうか。

「もちろん。レイセンだけが、特別扱いだと思った? と言うか、私が変えられたんだから他にも変えられる人がいるって気付かない?」

「いや、お前がこのコントローラーの開発者だと思っていたから」

「と言うことは、私が運命を変えられる者だって、認めるんだ?」

 嬉しそうな顔をしながら聞いてくる。

「現に、運命を変えているからな。正直、半信半疑だけど、今は信じるよ」

「うん。そうして。今に分かると思うから。他に、聞きたいことはある?」

「今は特にないな。何か聞きたくなったら、また聞くよ。このコフタロンとやらは、やけに不親切だからな」

 僕は少しだけこのコントローラーをバカにした。彼女は僕を睨んでいる。

「今、何て……?」

「ふ、不親切なコントローラーだって……。何だよ急に」

 口調がお怒りだ。まずい。怒らせてしまっただろうか。

「ふんっ。別に良いけど。私、帰るから」

「ちょっと待って。運命を変えるってのはどうなるのさ! 説明して終わりかよ」

「あ、それだったね。じゃあまず……って! シダネナジーがないから変えられないんじゃないの! バカ!」

 やはり先程の言葉が引き金だったのか、不機嫌だった。



「もう帰るからっ! じゃあね!」

 彼女は玄関まで一段飛ばしで階段を下りて行き、靴を履いている。

「あ、ちょっと待ってよ」

「今度は何!?」

「どうせならさ、一緒に昼ごはん食べようよ」

 咄嗟にそのような言葉が出てしまった。だが、もっと稟堂 輪廻について知りたい。

「……何で?」

「えっと、僕の、僕のフリーター確定記念ってことでさ? どうかな?」

 少し驚いていた。そしてため息をついてこう言った。

「しょうがないなあ。でも、全額奢りだからね!」

 そこまで考えていなかった。まあ、良いか。可愛い子に奢るのは、悪くないことだもんな。



つづく

誤字訂正+追記しました。

3月27日

誤字訂正 5/26

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