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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月14日
16/87

15話

「履歴書ってどこで売ってるの?」

「どこにでもあるよ。コンビニにもあるし」

「じゃあ、いつものコンビニ行く?」

 あのコンビニはこれから利用客ではなく店員になる。下見として行くのは良いかもしれないが、さすがに店員に顔を覚えられると何だか恥ずかしい。そんなことはないだろうが、絶対にないとは言えない。

「でもいつものコンビニで働こうとしているからそこで買うのも気が引けるって言うか」

「じゃあ、どこで買うの?」

「どこにでも売っているってなると、買い場所がね。百円ショップにないかな」

 稟堂は無反応だったので横を見てみると、疑問の視線を送っている。

「何それ?」

「その店にある商品全部百円なんだよ。例外もあるけど」

「百円って……肉まん一個分!?」

 肉まんで計算するとは驚いた。

「肉まんは百十円だろ。あの時はたまたまセールで百円だっただけ」

「じゃあ、その店にあるものは、肉まん一個分の価値はあるものばかりなの?」

「ワンコインだぞ。たかが知れてるよ」

「じゃあ、行かなくて良いの?」

「今回は履歴書とペンだから別に良いよ。行こう」

 百円ショップまで歩くことにした。



 僕の記憶が正しいなら、一番近いところは今いるコンビニから徒歩三十分ほどのところにある大型ショッピングセンター、オゾンの中にある店だ。

「ちょっとだけ歩くけど、大丈夫か?」

「コフタロンに頼りっぱなしだと、確かに足腰が弱りそうだもんね。じゃあ、歩こっか」

 あまりこの辺の地理には詳しくないが、大通りを通って歩けば、着くはずだ。

「レイセン、ほら」

 彼女の指さす方を見るとコンビニがあった。

「コンビニだね」

「入らない? ちょっと、トイレしたくなっちゃった」

「じゃあ、ちょっと入るか」

 コンビニと言う時点で気付くべきだった。しかし、遅かった。

 入店し、歓迎の言葉が聞こえてくると同時にポップな入店音が響き渡る。

 それと同時に肉まんに向かって歩いて行く稟堂。



「ね、レイセン」

「肉まんはダメだ。早くトイレして来いよ」

「え~……」

 トボトボとトイレへと向かうが、何度かこっちを見ていた。

 稟堂がこっちを見るたびに僕はジッと稟堂を睨んだ。

 稟堂がトイレに入るのを確認すると、雑誌コーナーで雑誌を読むことにした。

 しかし、雑誌を取った途端に稟堂がトイレから出てきた。


「ねー? どうしても肉まんダメ?」

「ダメだダメだ。今は履歴書買う分のお金しかないんだから」

「でも、レイセンの財布に三千円あったよね?」

 どこで見たのか知らないが、僕は考えるより先に言い訳を言う。

「あ、あれは今日の晩ご飯とか明日の朝ごはんを考えて」

「でも、通帳にもお金あるから良いじゃん! 私、ここ初めて入ったんだから!」

「肉まんの美味しさは分かるけど、今買ってあとで後悔したくないだろ?」

「今、肉まんを食べられるなら後悔なんてない! 肉まんを噛み締める瞬間を後悔するわけないじゃん!」

 コンビニ内で肉まんの愛を語られても困るので、仕方なく肉まんを買うことにした。



「すいません。肉まんを一個お願いします」

「待って!」

 稟堂が大きな声を上げて、店員も少し驚いていた。

「ピザまんとかカレーまんってあるけど、肉まん以外にもあるの?」

「知らなかったのか。あんまんと肉まんが有名だけど、ピザまんも美味しいよ」

「じゃあ、肉まん、ピザまん、カレーマン二個ずつください」

「いやいや、さっきの僕のお金がないって話、聞いてた?」

「え……っと、お会計六百六十円になります」

 知らないうちに会計されていた。

 後ろに人も並んでいるので、断ることも出来ずに結局流されるままに肉まん、ピザまん、カレーまんを二個ずつ買うことになった。

「まあ、この際だから昼ご飯にするか」

 自分にそう言い聞かせて、肉まんの代金を払った後に、飲み物も一緒に買った。

 コンビニを出てからどこで食べるか考える。



「コンビニの前で食べると、行儀が悪いから、別の場所で食べよう」

「どこ?」

「ほら、そこにフライドチキンの店あるだろ? あそこの裏に公園があるはずだから」

 僕の指さす方にはメガネをかけた老人がトレードマークの店がある。その奥には公園がある。

「じゃあ早く行こう!」

「おい、待てよ、危ないぞ!」

「レイセン! 早く早く!」

 稟堂は嬉しそうに道路を横断する。運良く車も赤信号で停止していた。

 急いで横断してフライドチキンの店を横切って公園へ。



「レイセン! 早く早く!」

「さっきからそれしか言ってないな……」

 ベンチに笑顔で座っている稟堂の横に座る。僕は、一番上にあったまんじゅうを稟堂に渡す。袋に入っているので具は分からない。

「あれ? これ黄色いよ?」

「ああ、気にしなくて良いよ。白いのは、肉まんとか、あんまんだけだから。それはピザまんか、カレーまんだよ」

「黄色い肉まんも良いね! いただきます!」

 稟堂は大きく口を開けて黄色いまんじゅうにかぶりついた。

 そして、また動きが止まり、肉まんを初めて食べたときと同じく、ポロポロと涙を流し始めた。

「おいひい……」

「もしかしてお前、新しい肉まん食うたびに泣くの?」

 僕の言葉を無視して話し続けた。


「中にチーズ入ってて美味しい! すごい! ピザまんってこれ?」

「ああ、チーズ入ってるならピザまんだよ。そんなに美味かったか?」

「もちろん! 肉まんしか知らなかったのに、こんなの食べられたんだよ? もう革命だよこれ!」

「言いすぎだろ……」

 泣きながら勢いよく口の中へピザまんを突っ込む。

「レイセン! 次のまんを!」

「じゃあ、これで」

 袋の左端にあったまんじゅうを渡す。

 ガサガサと音を立てながら開く。



「これは、またピザまん?」

「カレーまんも黄色いからな。とにかく食ってみろよ」

「じゃあ、いっただっきまーす!」

 相変わらず大きな一口だ。

 どうせ、また泣くんだろ。

 かぶりついたまま動かない。

 カレーまんを口にくっ付けたまま口以外、微動だにしない。


「り、稟堂?」

 視線をあさっての方向へ向けて、一筋の涙が彼女の頬を通り、顎からポトリと落ちた。

からい……」

からい? こう言うのってたいてい甘口だろ?」

「れ、れいひぇん……の、のひもの……」

 あまりの辛さに舌が回らないらしく、上手く言えてなかったが、飲み物をくれと言っているのが通じたので、すぐに紙パック飲料のコーヒー牛乳を彼女に渡す。

 ゴクゴクと勢いよく飲んだ後に

「うーん! 辛い! この辛さ、すごく良い! 最っ高!」

 そう言って、一口かじったカレーまんをまた食べ始めた。

 しかし、彼女の口には相当辛いらしく、何度もコーヒー牛乳を飲んでいた。



「じゃあ、これが最後の肉まんだよ」

 袋から開けた後、嬉しそうにかぶりつく。

「うーん。やっぱり肉まんが一番最高だね」

「そんなに好きなのか?」

「もちろんだよ! 私の大好物になった!」

「それは良かった」

 僕も、袋からまんじゅうを取り出して袋を開封した。黄色いのでピザまんかカレーまんだろう。

 一口かじってみると、カレーの味がした。

「辛くないの?」

「別に辛くないよ」

 直後、舌の上に強烈な痛みが来た。味覚が痛覚に変わった瞬間だった。



「か、辛っ!?」

「そ、そうでしょ? 甘口じゃないよこれ!」

「ちょ……ぼふにも、のひもの……」

 あまりの辛さにろれつが回らない。

 しかし、稟堂は自分が体験したことなのですぐに察して、飲み物をくれた。

 ゴクゴクと勢いよく、なるべく舌に液体を当てて飲み続ける。


「な、何だよこの辛さ……。びっくりしたぞ」

「でも、美味しいでしょ?」

「美味しいけどさ。これはいくらなんでも辛すぎじゃないか?」

 辛いのが苦手な人が食べると下手すると意識が飛ぶだろ、こんな辛いもの。

「それが、ウリなんでしょ」

「そうとは思えんけどな」

 残りのカレーまんを、飲み物を飲みつつ完食した。

 その後、ピザまん、肉まんと食べたが、肉まんは稟堂が「半分で良いからくれ」と言うので、肉まんだけ半分にした。



「じゃ、帰ろうか」

「そうだな……って、まだ本来の目的である履歴書を買ってないだろ!」

「忘れていたなんて口が裂けても言えない……」

「……言ってるじゃん」

 僕のツッコミを聞いた後、一瞬だけ間を開けて稟堂は話し始めた。

「と、ところで! ここからオゾンってところまで、どれくらいなの?」

「もうすぐだよ。十分も歩けば着くよ」

「じゃあ、行こっか」

 オゾンまで歩くが、コンビニを見つけるとまた入ろうと言われかねないので、裏道を通って行くことにした。

 道路の下を通り、小学校を通り過ぎると分かれ道になる。右に曲がると駅、左に曲がるとオゾンなので左へと曲がる。

 その後、小さな川を渡り、しばらく歩くとオゾンショッピングセンターが見えてくる。



「何あれ」

「目的地のオゾンだよ」

「あの中に履歴書があるの?」

「あの中の百円ショップにだけどな」

 歩くと、思ったより時間がかかった。コンビニに入らないためと思えば、仕方ないが。

 オゾンの正面にある噴水の横には学生がたむろっている。昔から何も変わらない。店内に入り、エスカレーターを使って二階へ。

 ゲームセンターを横切ろうとしたとき稟堂が声をあげた。


「レイセン! 何あれ!」

「何って、ゲームセンターだよ」

「行きたい!」

 彼女の瞳は輝きに満ちている。ゲームセンターに行ったことないのだろうか。

「ダメ」

「良いじゃん良いじゃん!」

 必死に輝いている瞳を僕に向けてくる。視線を合わせずに僕は否定の言葉を入れる。

「ダメなもんはダメだ。お前のわがままに付き合ってたら、履歴書買うだけでも何時間かかるんだよ」

「じゃあ、約束して。働いて、給料が入ったら、肉まん買い占めるかゲームセンターに来て遊ぶか」

 ゲームセンターはいくらお金が飛ぶか分からない。だが、肉まんは精々五つが限界だろう。それなら、肉まんにした方が良い。

「肉まんで良い」

「本当に!?」

「ゲームセンターは、いくら金と時間があっても足りないからな」

 言ったそばから、誰かが景品を取ったらしく、店員がベルを鳴らしている。見に行こうとする稟堂の手を引っ張って目的地へと向かった。




つづく

ゲームセンターで景品を取った人は、ワードで書いていた冴えない主人公の話の主人公が取ったことにしてあります。

いつかその話もここであげると思います。


誤字、訂正しました 4/7

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