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運命ドミネイション  作者: 櫟 千一
3月14日
15/87

14話

「お帰り、レイセン」

 先にコフタロンに戻ってきていた稟堂が僕に言った第一声だった。

「ただいま」

「どうだったって、言わなくても分かるけど、レイセンは本当にこれで良かったの?」

「何が言いたいのさ」

 彼女の声を聞きながら、僕はヒタヒタと歩き出し、ベッドへと座り込んだ。

「結局、お母さんに止められて、浪人しても良いって許可が出たのに、レイセンはそれを振り払ってでもフリーターになりたかったの?」

「親に迷惑をかけてまで、僕は浪人したくなかったから。これで良いと思っているよ」

 苛立ち交じりに返事を返し、ブレザーを脱ぎ、ネクタイを外す。

「親って言うのは、生まれてから一番迷惑をかける人って、聞いたことがある」

 僕は、彼女の言葉の意味が分からなかった。

「何だよ。稟堂がフリーターになれって言ったんだろ。今さらフリーターにならずに、親の脛をかじって浪人しろって言うのか?」

 少し強めの口調で言う。彼女はちょっとだけビクッとしていた。

「そう言うわけじゃないけどさ。でも」

「でもってなんだよ。お前がフリーターになってくれた方が良いって言うからなったんだぞ。ここまで来て、違うなんて言うのか」

「レイセン、ちょっと」

「さっきから、何が言いたいのか、僕には分からないんだよ。僕は、誰を信じれば良いんだよ……」

 気が付くと稟堂の前でも、泣いていた。


「決定、かな」

 ボソリと小さな声で稟堂は呟いた。

「私、やっぱりレイセンで良かった。本当に良かった」

「……何がだよ」

 稟堂の答えになってない答えを聞き、僕は聞き返す。

「レイセンの運命に入って正解だった。こんなことになるなんて、思わなかったんだもん」

 何を言っているのか本気で分からない。

 一応、稟堂は運命を変える者と言うのは認めたが、僕の運命に入るって、何を言っているんだ?



「私は、レイセンの運命を変える者ってのは言ったよね。でも、それを、良い方にって言ってなかったよね」

「えっ、もしかして、お前は、悪い方に……?」

 今さらそんなことを暴露されても困るのはこっちだ。

「ごめんごめん。言い方が悪かったね。もちろん、良い方へと動かすために入ったからそこは安心して」

「一つ、聞いて良い?」

 袖で涙を拭い、稟堂に質問をする。


「運命に入るって、どういうことだ?」

「うまく言えないんだけどね。運命は変える以外にも入ったりも出来るの」

「本当に初めて聞いたぞ、そんなこと……」

 運命を変えると言うのは分かるが、入るって言うのはどう言うことなのだろうか。運命は人生と考えても良いのか?

「運命に入ったら、その運命の持ち主……って言い方も違和感があるけど、とにかくその運命の持ち主と、ある程度の接点がある人、要は先生とか友達には、私の存在は知れ渡る。でも運命の持ち主は私のことは知らない。だって、運命を変えられているからね」

「え? 何? 全然分からないんだけど?」

 彼女の説明を聞いてもどうもうまく理解できない。

「だーかーらー。んんっと、じゃあ、私との出会い、覚えてる?」

 稟堂との出会いと言えば、やはり僕の横にいきなり登場したときだろう。

「僕の席の横に、お前の机があって」

「違うよ。もっと前に会ってる」

 しばらく考えてみるが、思いつかない。やはりどんなに考えても会っていない。

「やっぱり会ってないよ。学校が最初の出会いだろ」

「私を認識したのはそのときが初めてだけどさ。それじゃあ、レイセンのポケットに入ってるコフタロンはいつ手に入れたの?」

 過去の情報を探る。このコントローラーは、自転車のカゴの中にあった。

 あの時点では、まだ稟堂と会っていない。



「はっ! まさか……!」

「そう、あの時。あんな真冬のものすごい寒い時期に、河原で昼寝してるレイセンとの初めてのコンタクトが私たちとの出会いだった。本当はあの時に会おうと思ってたけど、夢世界から話しかけた方が良いかなって思ってね」

 受験に落ちて、浪人も出来ない状況だった僕は逃げるようにあの河原へと向かった。そのときにコフタロンコントローラーを手に入れた。

「じゃあ、やっぱりあれは稟堂だったのか」

「そういうこと。まだ信じてなかったんだ」

 半笑いで、稟堂は言った。

「ってことは、あの日に、初めて僕の運命に入り込んだってこと?」

「そうそう。でも、レイセンのことは、もっと前から知ってたよ」

「いつぐらい?」

 問いかけに対して、目線を上に逸らし、唸っている。数秒後に口を開けた。

「レイセンが小学校一年生くらいの時かな?」

「え? つ、つまり、僕は十年以上前から稟堂に監視されていたのか?」

「言い方に違和感あるけど、つまりはそういうことかな」

 どうやって見ていたのかまでは分からないが、稟堂は僕のことを十年以上前から認識していたのだろうか。

「じゃ、じゃあ……今、何歳?」

「歳はレイセンと同じだよ」

「じゃあ、僕と稟堂は……七歳頃に、もう会っていたって言うこと……?」

「そんな感じだね。住んでいる世界は違ったけど、レイセンの存在、私は知ってたよ」

 開いた口が塞がらない。十年以上前からこいつは僕のことを知っていて、僕はつい一週間ほど前に知った。

 あまりにも理不尽すぎる。



「レイセン、七歳頃で何かピンと来ない?」

「七歳頃と言えば、僕が今、住んでいた町に引っ越したくらいだな」

「引っ越すちょっと前、思い出して」

 引越す少し前、何か大きなことはあっただろうか。記憶を掘り返すとすぐに思いついた。



「あっ」

「分かった?」

「……離婚、か」

 稟堂はニヤッと笑い、その通りだと言っている。

 僕の両親は、僕が、小学校に上がる直前に離婚をしている。原因は分かっていない。夜冬の機嫌が良いときに聞いてみたが、急に不機嫌になって話を変えられて、詳しくは分かっていない。

「あの頃は2000年かな? レイセンの運命が大きく変わる分岐点だったんだよ」

「分岐点?」

 ゲームじゃあるまいし。分岐点だなんて、そんなもの。

「あの時、レイセンがお父さん側に行っていたら、私はここにいなかった。予想だとあのまま順調に幼なじみと付き合って、一緒な高校へ行って、そのままレイセンの目標大学だった国立大学どころか、もっと上の東京の大学にも行けていたかもね」

「でも、今さらそんなこと言ったって、仕方ないだろ。もう、過去の話なんだから」

「うん。レイセンの言う通りだよ」

 

 

 過去への固執は、人の成長を止める。

 それは、僕が一番分かっている。


「難しいこと考えても仕方ない。そろそろ履歴書、買ってくるか」

「あっ、そう言えばいろいろあって忘れてたよ。じゃあ、行こう」

 僕と稟堂は、コフタロンから現実の世界へと跳んだ。




つづく

当時(2013年2月)13話と14話を約一時間で書きました。

もう半分もないくらいなので、一週間以内にこの話は終わります。

続編は今のところ考えてはいませんが、多分近いうちに書きます。


誤字訂正+追記しました。

3月29日

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