恋に堕ちました6
最近の旦那様はおかしい。
何か言いたげにこちらを見ていることが多かったり、なぜか私に話しかけてくることがある。
それはたわいのない話だったりするのだが前の旦那様ならしなかったこと。前の私なら一喜一憂したものだろうが今の私はそうではない。
ルゥがいるのだ。
柔らかい絨毯にだらしなく寝そべりながらその柔らかな黒髪を優しく梳く、なんてぜいたくな時間の使い方だろうか。
そのやわらかい肉球を存分に味わう…あのころとは大違いだ。
旦那様のためにと自分を磨き、あの人の後ろを追った日々…もうあのころに戻る気はおきはしない。
「ああ、もうルゥ、ずっと私と一緒にいてくださいね。愛していますから」
ルゥの耳元にそうささやけばルゥからは尻尾を一度私の手首に巻きつけるだけ。
その優しいふれあいに私はもうキュンキュンしてしまうのです。
「もうあなたから離れられないわ」
そんなラブラブな私たちを見て羨ましいのか、コーエン様は頭を抱えてうなだれていた。
別れを惜しみながら家に帰宅すれば旦那様は珍しく帰宅されていた。
「あら、帰られていたんですね」
そういう私に旦那様は冷たく一瞥した。
「まさか君より早く帰ってくることになるとは思わなかったよ」
「しょうがないじゃないですか。恋人との別れを惜しむとこのような時間になってしまうんです。旦那様ならよくお解りになるんじゃないですか?」
そう言い返せば黙り込む旦那様。私はいつもやきもきしながら旦那様の帰りを待っていたものだ。
今日は帰ってきてくれるのだろうか?私のことを覚えていてくれているだろうかと…
昔の感情を思い起こしていた私は次の旦那様の言葉によってかき消されることとなる。
「私は…できることならば君とやり直したいと思っている」
まさか急にそんなことを切り出されるなんて思わなかった。
使用人もいない応接間は静寂に包まれた。
旦那様はどうしてこのようなことをいまさら言い出すのだろうか?
「結婚して10年…それだけじゃない結婚する前から私は旦那様をお慕いしてまいりました。なのに今更ではございませんか?何で今になってそんなこと言えるの!」
「……」
「私に恋人ができたから?ずっと追いかけまわしてきた女が違う男のところに行ったら惜しくなったの?」
「そうじゃない!そうじゃないんだ!!」
必死に違うと叫ぶ旦那様に私の心は冷えていくばかりだ。
私は応接間を飛び出し自室に逃げ込んだ。
旦那様は追ってはこなかった。
動悸を抑えながらベッドに突っ伏す私はまだ冷静な判断ができなかった。
10年以上慕ってきた旦那様への気持ちがすぐに消えるわけがない。けれどなんで今になってそんなことを言うのだろう。
それならば10年以上旦那様を好きだった昔の私がかわいそうではないか!
明日になればまたルゥに会える。
今はもう何も考えたくはない。
私は強く目をつぶると高まる感情を抑えこんだ。