恋に堕ちました5
最近やたらに視線を感じる。
それも一人じゃない。複数の人間からみられている。
そちらに視線をやれば誰もがさっと顔をそむける。
鈍くはないつもりなので理由は分かっているつもりだ。
メルディアナ様のことだろう。
今社交界では俺と彼女のゴシップににぎわっていることは同僚や周囲から聞いてはいるが不躾な視線は不愉快に感じた。
「おー噂の張本人の御出勤だ」「メルディアナ様とはどうなんだ??」と長い付き合いになる同僚たちは気にせず聞いてくるが、単なる友人だと言い張るしかない。
そんな俺は彼と遭遇してしまうことになる。
回廊で前を歩く方が持っていた書類を落としたため拾い上げると皆様のご察しの通り、メルディアナ様の御夫君のハドルド様でした。
彼とは同じ騎士団所属であるが伯爵である彼は上位貴族が多い第1騎士団所属であり、第3騎士団所属である俺は時折顔を合わせる程度の面識である。
だが今はなぜか会うことが怖かった。
なぜかと言えばもっとも突き刺さる視線を投げてくるのが彼だからだ。
だといのになぜここまで運が悪いのか…書類を拾った拍子に胸にしまっていたあの写真を落としたのだ。
拾いかえしてくれたのはもちろんハドルド様だ。
拾った拍子に写真を見てしまった彼は少し目を見開いてゆっくりと俺に見た。
俺よりも背の高い彼から見下ろされる。威圧感は半端ない。
あの優しげな方から受けるダメージがなかなかのものだ。
黙っていた彼が口を開いた。
「君は妻と仲がいいらしいね」
「ええ、最近親しくさせていただいています」
痛い痛い冷たい視線が痛い!
「何でも妻の恋人とも親しいときいたが、一応どのような方か聞いても?妻も部屋に写真を飾っていてね…初めは私も君の方だとおもっていたんだけど、ね」
表面上穏やかに微笑んでいらっしゃるが目が笑っていない…
何か激しくこの方は勘違いされている。
今見た写真に写っていますが、人ではなく猫ですが…
何しているんですか!
部屋に写真を飾るなんて…今頃我が家でルゥともふもふと戯れているだろう彼女を思った。
しかし、彼はメルディアナ様に関心がないはずでは?
「今日も妻が君の家に出かけたと聞いたんだ。妻は昔から自分の心のままにふるまうから迷惑ならば迷惑だと言ってもらってもいい。聞くかどうかは分からないけどね」
「いえ、メルディアナ様がいるとルゥも喜んでいますし…」
「ルゥ…?それが名前か」
「ハドルド様が気にされることではないですよ。本当に」
「まさか私が気にしているわけないだろう?君には申し訳にとも思っているよ。妻のせいでいわれのない中傷を受けているみたいだからね」
「俺はかまいませんが、俺が口出すことではないのですが一度メルディアナ様と話し合ってみてはいかがですか?」
気にしていないと言ってもそんなわけがあるかと思う俺である。
「まぁ心に留めておくこととするよ。書類を拾ってありがとう。ではまた
そのまま彼は去って行ったがほんの数分の出来事とはいえどっと疲れが生じた俺であった。
出来れば俺はまともな夫婦関係を気づきたいと強く思った日であった。




