恋に堕ちました
私がハドルド・ウェルド伯爵と結婚して御年10年目である。
ハドルド伯爵といえば様々な花々を渡り飛ぶ蝶として昔から有名な男。
物腰柔らかく誰に対しても優しい美丈夫とくれば周囲の女もほっとかない。
そんな女たちを制してこの私、メルディアナ元伯爵令嬢が手中にしたのは簡単なこと。
元々婚約者だったから。
結婚する前から彼からは「君とは約束の通り結婚するがそれだけだ。君を夫人として尊重するが愛することはできない」「君は君で好きなように生きてくれ」と言われている。
もちろん私は旦那様が大好きだ。
昔から一目あった時からこの人一筋と決めている。
だから結婚する前から何度も何度も好きだのなんだの告げてきた。
だけど旦那様には届くことはなかった。
多くの女性と戯れる旦那様をもう何年も見てきている。
女性に対して嫉妬で気が狂いそうにもなっても、ちっぽけなプライドが許さなかっけれど…
そして私はついに決意した。
初恋というものは叶わないもの。
いつまでも追いかけていても幸せにはなれない。
レッツ新たな恋!
この節目に私は変わろう思い立ったのです。
けど旦那様へのこの思いが尽きることはないだろうと思いながらも友人に誘われて訪れたとある婚活パーティーにて私は出逢ってしまったのです。
漆黒の髪に金の瞳、すらりとした体格に一人冷静に周囲を眺めるその姿にキューンと来てしまったのです。
接してみたら性格はまさに旦那様とは正反対。
話しかけても冷たい視線がかえってくるだけ。
帰るころには私は彼にメロメロに落とされてしまった。
離れがたくしている私に彼の付添いで来ていたコーエン子爵が苦笑しながら私に話しかけてきた。
「無理だと思ってきたけど、まさかルディガウスをあなたが気にいるとは思いませんでしたよ」
彼ことルディガウスはコーエン子爵から挨拶を促されるがそっぽ向いたままこちらを見ようともしない。
…いい。
いつかその瞳をこちらに向けていただきたい。
「その、夫人がよろしければまたルディとお会いしていただいても…」
そうコーエン子爵が言った瞬間に私はその手を握りうなづいたのはいうまでもない。
その日を境に私はルディに会いに行った。
通いづめだ。
世にある男性に貢ぐ女性の気持ちを理解してしまう私であった。
こうも通い続けると初めは全く私に興味がないといった風情だったルディが、私に少しだけ興味を抱いてくれたのです。
「ああもうルディたら、天邪鬼さん」
今日は私の手作りのおやつを持参したらそっぽを向いて食べてくれなかったのにしょんぼりして片づけようとするとしぶしぶ重い腰を上げて食べてくれたのだ。
そんな私たちの関係をコーエン子爵は微笑ましくいつも見ている。
ルディはコーエン子爵の友人であり、子爵家に身を寄せているためその関係で私とコーエン子爵も友人となった。
「おや、夫人も参加されていたのですね」
奇遇にもあるパーティーにてコーエン子爵も参加していた。
「コーエン様も参加されていたのですね。」
そういってきょろきょろしてしまう私に子爵は苦笑いだ。
「もちろんルディは留守番ですよ」
「わかってますよ」
今日のパーティーではルディの参加は許されていない。残念なことに…
「そんなに残念がらなくても毎日会っているじゃないですか」
「もうずっとそばにいたいのです。そうじゃないと忘れられてしまいますわ。コーエン様のようにいつも一緒にいられたらいいのに」
最近やっとお膝に乗ってくれるようになった(もうお気づきでしょうが)猫のルディガウスに忘れられるなんて耐えがたい。
「そんなに悲しまないでくださいよ。うちはいつでも歓迎していますから。しかしルディのお嫁さんを探しに行ったパーティーでまさか夫人を捕まえるとは…ルディもなかなか」
「もう私のハートを鷲掴みですよ」
そういって笑いあう私を見つめる視線にこの時私は気が付いていませんでした。