ごぼうかかりちょうとしげーの森
「あぁっ! もうっ! ヒドい目にあったなぁ……」
一人でブツブツと毒づいているごぼうさんの名は、ごぼうかかりちょう。
ごぼうかかりちょうは今、病院にいました。……入院患者として。
先日、ごぼうかかりちょうのごぼうのようにそそり立ったイチモツは、お腹を空かせたシゲーによってガブリと食べられてしまったのです。そのせいでごぼうよりも長かったごぼうかかりちょうのライトセーバーは、今やシラコ程の大きさとなっていました。
まったくなさけない姿だ。いっそのこと全部ちょん切ってメスになりたいくらいです。
「ピエーピエッピエェ!!」
シゲーはわかっているのかわかっていないのかベッドの横の棚にハナクソをなすりつけまくっています。
すっかりハナクソ塚ができてしまいました。クフフ……あいかわらず汚いけど可愛い野郎だぜ///
しばらくシゲーを観察していると、シゲーはハナクソ塚を作ることにあきたのか、ハナクソ塚のハナクソをもりもり食べはじめました。
「こらこら、シゲー。やめなさい。ハナクソは一応うんこなんだよ、鼻のね」
ごぼうかかりちょうがぺしぺしとシゲーをたたくと、シゲーは目を細めて口をあけ、のどちんこをいじりはじめました。
「ピェェェッ! ピェーッ!」
のどちんこをいじくりたおしてムセたシゲーはゲロを吐いてしまいました。
大量のハナクソがリバース!! ごぼうかかりちょうもつられてゲロってしまいそうです。
そして、臭いが熱狂だったため封印の鎖を解き放ってしまいました。
「おろろろろろ~~」
2人で仲良くゲリラ的なゲロをしていると誰かがやってきました。
「まったく……。君ってヤツは何て無用心なんだ」
「げるまんげるまん……」
ぴょーにとデンジセイジンです。ガーゼで全身をおおわれているデンジセイジンの体を、ぴょーにが支えている。
「あ……ぴょーにさん」
「やぁ、具合はどうだい係長……って、ヒドい臭いがするなぁ」
実は、ごぼうかかりちょうとデンジセイジンは同室なのです。
ちなみにデンジセイジンは、UFOに乗ってハシャいでいたらうっかり隕石に激突して、上空15000mの所から地上に墜落してしまったらしいです。
「げるまんげるまんっ!!」
いきなりデンジセイジンがわきにかかえているUFOにどつきはじめました。
人間にもわかる言葉でセリフを訳すと『このポンコツクレイジーUFOめ! お前のせいなんだからな!! ぶっ壊してやる!』です。
しかし、なぐりすぎて手がパンパンにはれあがってしまいました。デンジセイジンはちょっぴりおバカなのでした。
「おいおい……また入院期間が延びるよ……」
呆れたように言うぴょーにだったが、あいにく彼はお人好しだったので、お見舞いのリンゴをデンジセイジンに食べさせてあげました。
……その光景を、だまって見つめるシゲー。
「ピェェッピェェッ!!」
シゲーはごぼうかかりちょうの肩をゆすると、とれたてほやほやのハナクソをわたしました。
「ん? なんだシゲー」
「ピェェェ……」
シゲーは最大限に目をかっぴらかせ、ダイヤモンドよりも輝かしく目をうるませた。
「あぁ、そうだな、ハナクソばっちいもんな」
ぺいっとごぼうかかりちょうはゴミ箱に投げ入れました。おそろしいほどのフラグクラッシャーっぷりです。
シゲーはショボーンとしながらごぼうかかりちょうを見つめたが、ごぼうかかりちょうはぴょーにを見ていました。
「そういえば君の会社、今大変らしいよ」
ぴょーにはリンゴをもりもり食べながら言いました。
ごぼうかかりちょうはゴミを廃棄する会社につとめています。この世界では高給な仕事です。
「……えっ? いったい何があったんだ?」
「どうやら赤字になるほどの大量のゴミがたまっているみたいだ。噂で聞いた話だがシゲーの住んでいる森にゴミを捨ててるそうだ。燃やさずにね」
ごぼうかかりちょうの背中にツツゥ――っと冷や汗が流れました。
シゲーは話がわからないのかデンジセイジンのケツをひたすら舌でなめまくっています。もちろんデンジセイジンはかなり迷惑そうに中指を立たせて威嚇をしていますが。
「シ……シゲーの森に!?」
シゲーの森とは、空気も景色もキレイな所なのです。あいにく世界遺産だとかそんなたいそうなものには認定されていないが、それでも凄く凄く価値のあるものだとごぼうかかりちょうは思っています。
そんなキレイなものを汚してはならない、とごぼうかかりちょうは思った。だが、たかだか一社員である彼にはどうすることもできません。
「どうしようシゲー……って、オイ!!」
悩むごぼうかかりちょうなどつゆしらず、シゲーはティッシュをポイポイ引き抜いて遊んでいました。資源のムダ使いです。
「とにかく一刻も早く森へ行こう、シゲー!」
「ピエェー?」
「あ、私も一緒に行かせてくれ!」
「本当かい? 社員の君が同行してくれると助かるよ」
ぴょーにはぺちぺちシゲーをたたいてごぼうかかりちょうの方へ連れて行きました。
「あっ……でも大丈夫かい? 確か君は股間をくいちぎられていたんじゃ……」
「それなら大丈夫!! もう生えてきたから!!」
「げるまんげるまん……(お前化け物だな)」
そんなこんなでシゲー、ごぼうかかりちょう、ぴょーには森にやってきました。デンジセイジンは動くたびに関節がきしむ(本人談)ので、お留守番です。
ぴょーにの聞いた噂は本当だった。すでに生ゴミから燃えないゴミ、危険物までこんもりと森をうめつくしていたのです!
「これは……ひどいな」
「シゲー、大丈夫か?」
ごぼうかかりちょうが心配しているのにもかかわらず、シゲーは不法投棄されたゴミ山をあさりはじめました。
「ピェェ、ピェェェェ!!」
何かを探しているのか、一心不乱にあさるシゲー。何を探しているのかは知らないが、ごぼうかかりちょうとぴょーにもあさってみることにしました。
エロ本の束、にせ札、ハゲたカツラ、りゅーりゅのアフロ、汚いビスクドール……とにかく次々とくだらないガラクタが出てきました。
「ちょっと……シゲー、君は一体何を探しているんだ!」
ごぼうかかりちょうが今にも折れそうな腰をたたきながら叫びます。
「ピェェェェ……」
「なに? 大切なモノだって?」
「その大切なモノが何なのか教えてくれたら手伝えるんだけど……」
だが、シゲーは首を横にブンブン振った。どうしても教えられないらしい。
どうしたものかと困りあぐねていると、どこからかエンジンのような音が聞こえてきました。なんと、ゴミをたんまりと積んだトラックがやってきたのです!
スガガガガガ!!
地響きとともにたくさんのゴミの雨が降ってきました。
「ピェェェーー!」
「いって! いててっ! いてぇ!」
「うわぁっ! 白身がボロボロになるぅぅっ!!」
3人(?)はゴミのなだれにのみこまれていった。ちなみにごぼうかかりちょうのフランクフルトはすぐに伸びるがその分もろいので、ちょん切れてゴミと同化した。
ごぼうかかりちょうはゴミの山からニョキッと頭を出した。トラックはまだ傍にいた。
「なんで……なんでこの森にゴミを捨てるんだよぉ!?」
ごぼうかかりちょうはそう叫びました。
するとトラックの窓から危なっかしいドライバーの称号を得たおっちゃんが顔を出しました。
「グボエッ! グボエッ! (おい、ごぼう野郎! 死にたくなけりゃそこをどけ!)」
おっちゃんはよだれをまき散らしながら言いました。
「いやだ!! ゴミを捨てるな!!」
「グボェ……(よく見たらお前、ゴボウ廃棄物取扱会社の社員か?)」
おっちゃんはよだれをたらしながら運転をやめ、トラックからおりて3体のもとにやってきた。
「グボボボェ……(お互い大変だなぁ。働かされるのはいつも俺たち下っ端だ)」
確かに、肉体労働しているのは下っ端ばかりだ。上の人たちはいつもごぼうをかじりながら会議に見せかけたお下劣トークをしているだけ……。
しがないトラックの運ちゃんは、疲れたように笑った。
「ふむ……。確かに、役職の位と労働量は比例すべきだと思うね……」
ぴょーにもむむぅっと眉間にシワをよせる。
「うぅ……。おっちゃんは上に従ってゴミを捨ててるだけだもんね……怒鳴って悪かったよ」
「グボエェ……オロロロ……ガボエッ!(あぁ……わかればいいんだ……あばよっ!)」
トラックはわざとらしい蛇行運転でかっとばしながら去っていった。
ぴょーにはふぅっと息を吐いて目ン玉をぐるりと回した。
「さて、これからどうする? こんな量のゴミを俺たちで処理するなんて不可能だ」
シゲーたちの目の前に広がるゴミ山の高さはざっと死菊ちゃん4444体分ぐらいである。
「ピェェェッ。ピェッ。ピ~エ~ッ」
途方に暮れる2体の横で、シゲーが妙なうめき声をあげながらゴミ遊びをしていた。
空き缶、ダンボール、カツラ、さびた金属……。いろいろなものを使って、ゴミのおうちを作っていた。ゴミで出来ているとはいえ、材料が豊富なため、意外にしっかりしている。
「なかなか見事な出来じゃないか……」
さらに驚いたことに、そのゴミ製ハウスの中に、いつのまにか子猫が寝ていた。
「ピェーッ! ピェェーッ!」
「え? 今までこの子猫を探してたって? ゴミで押しつぶされて死んでないか心配だったのか!」
「教えてくれればよかったのに……」
自分の力で助けたかったの! とばかりにシゲーはうなずいた。
ゴミハウスは色々なモノでバランスよく組み立てられていて、なかなか頑丈そうだ。雨風をしのぐことなどたやすいだろう。
「そうだ!! ゴミを有効活用したらどうかな??」
たった1日でシゲーの森は驚くほど変わった。
森の中には小さな小さなゴミの街ができていた。三角屋根のかわいらしいお家にゴミでできた楽器のお店、街の住民はもちろん森の動物たちだ。
「ふぅ……疲れたけど充実した1日だったなぁ」
ごぼうかかりちょうはネクタイを解きながら一息ついた。グビッとビールでも飲みたいところだが、残念ながら禁酒中だ。
「お疲れ様! きっとおっちゃん驚くだろうな、ハハハ」
ぴょーにはさわやかなシケメンスマイルを見事にキメた。
「ピェッ! ピェェー!」
子猫とたわむれているシゲーはこのうえなく幸せそうだ。
「ミィミィミィ!!」
かわいい子猫も幸せそうに鳴いている。
「よし、それじゃあ日も暮れたことだし、一旦帰ろうか!」
そう言って3体は充実感に包まれたまま、帰っていったのだった。
そして次の日。3体はまた、森に行ったのだった。……が。
そこに、ゴミの街はなかった。正確に言うなら、昨日確かにあったはずのゴミが姿を消していた。そして確かに居た筈の動物たちも姿を消していた。
「……なんで? なんでだよ!?」
ごぼうかかりちょうはぺたんとその場に座りこんだ。シゲーは目の前の光景が信じられないのか、ピェェ、ピェェと鳴いて辺りをグルグルと見わたし続けている。ぴょーにも探し回っていた。
……信じられない3体のもとに、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。おっちゃんのトラックだ。
「グボェッ! グボェッ!(どうだ、スッキリしただろ?)」
おっちゃんはすかすかしい顔で言葉をつづけた。要約するとこうである。
『昨日、お前たちに会ってからさ……やっぱり、ここにゴミを捨てるのはよくないと思って、上の人に訴えたんだよ。そしたら、ここにあったモノを全部処理してくれたんだ!』
上の人たちは、昨日の深夜から今朝までに、大型ショベルカーですべてのゴミを持っていってしまったのだという。……中に、動物たちがいることも知らないで。
ごぼうかかりちょうは体から力が抜け、頭の中が真っ白になった。
小さな森に、シゲーの鳴き声が響きわたった――。




