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ということで、花恋がボーカルに決まった……つもりだったが、予想通りというかお約束というか、集まった超人達は自分たちも歌いたいなどと騒ぎ立ててしまった。
あの手この手で言いくるめようとしたが、この歩く唯我独尊らがそう易々と折れてくれるはずもなく、結局、5人がそれぞれ1曲ずつ歌うことで話は終了。まとまったのか分からないが、話の一段落とはなった。
しかし、超人達はここで驚くべきことを口にした。なんと、月乃、黎、星美、小雪のそれぞれが、それぞれ自分で歌を作るのだと言う。なんでも、自分で作った方が歌いやすいからだとか。
いやいや、こいつらさすがに舐めすぎているだろ。曲作りというものは、そうそう容易いものではない。よしんば作詞作曲したとしても、しょせんは素人。そこからそれぞれのパート部分の譜面を書かなきゃならんし、何より時間がない。いくらなんでも無理だろう。俺は、確信に近い予想を立てていた―――。
「――はずだったんだけどなぁ……」
今、俺の目の前では、リハーサルが行われている。文化祭は明日。あれからほんの2、3日しか経っていないはずなのに、なんとそれぞれ本当に曲を作って来やがった。しかも、それぞれのパートの譜面付き。その合わせが今まさに行われているのだが……まるでプロの音楽祭に迷い込んだのかと思うほど、完成度が高すぎる。
……改めて実感したが、こいつらの広く深い才能にはおそれいる。ていうか、そろそろ人間かどうか疑った方がいいのかもしれない。お前ら絶対、未来から来た人型ロボットだろ。こいつらに何かお願いすれば、なんでも叶えてくれる気すらしてくる。もしかして、俺を幸せにするために来たのか? あいにくだが、お前らのおかげで疲れることの方が多いぞ人型ロボット達よ。
「……す、凄いですね……」
花恋は、完全に圧倒されていた。あまりの才能の差に絶望したのか、目が点になってる。
「……花恋。気にすんな。こいつらが異常なだけだ」
「は、はぁ……」
心ここにあらずといったところか。生返事をした花恋は、ただ演奏する月乃達を凝視していた。
「……明日さ、好きな歌を歌っていいってよ」
「え?」
「月乃達が言ってたんだよ。ある程度なら、即興で合わせられるって。だから、自分で歌いたいように歌えってさ」
「そ、そうですか……」
まったくもってふざけている。その場で即興だと? 出来るわけないだろうが!!
……と、普通ならキレるところかもしれない。しかしながら、相手は奴ら。たぶん、普通に出来るんだろうなぁ。何と言うか、その才能のごく一部を平等に人々に分け与えれば、人類皆平和になる気がする。
その時、ふと花恋が呟いた。
「……正直に言えば、まだ恐いんですよ」
「……明日がか?」
「はい。私がみんなが見つめるステージに立つなんて、これまで考えもしませんでしたし。その時のことを思うだけで、足が震えちゃいます」
花恋は、恥ずかしそうに笑っていた。いや、表情こそ笑顔ではあるが、余裕がないのかもしれない。まあ、ここまでさせといて何だが、高校の時の俺なら無理だったかもしれん。でも……。
「……それでいいんじゃないか?」
「……え?」
花恋は、視線を俺に向けた。
「俺さ、今の年になって色々思うことがあるんだよ。あの時ああやっとけば良かったとか、こうすれば良かったとか。そん中でいつも思い当たるのは、結局は自分のせいだったってことなんだよな。
一歩踏み出せばやれてたはずなのに、躊躇して、迷って、自分で言い訳作って、体面気にして、何もしなかっただけなんだよ」
「……」
「これが後悔って言うんだろうな。でも、いくら後悔したところで、一度過ぎ去った時間は戻らないんだよ。足を踏み出さない間にも、時間は進んでいく。それは時には無情に感じるんだよな。
……でも、俺思うんだよ。そこが、思い出と後悔の境界線なんじゃないかってさ」
「思い出と後悔の、境界線……」
「ほんのわすがな差なんだよな。足を踏み出すか、それとも引くか……。それが、後で思い出か後悔かに分かれるんだよ。
だからさ、それでいいんだよ。ビビりながらでも、震えながらでも、一歩踏み出す花恋の明日は、きっと思い出になる。これから先、生きていく中で、いつまでも色褪せることのない記憶になる。思い出したらこそばゆくて、どこかあったかいものになるんだよ」
「……」
花恋は、黙って俺の話を聞いていた。俺には、こんなことしか言えない。こうして、言葉を贈ることしか出来ない。もしこの言葉で少しでも花恋の力になれるなら、俺にとっては、上出来だろう。
「……楠原さん。クサいこと言いますね」
花恋は、クスクス笑いながら呟いた。
「……それは言わないでくれよ。恥ずかしくて泣きたくなる」
彼女は、更に笑う。でもその顔からは、硬さが取れていた。
「ありがとうございます。少しだけ、やれそうな気がしました」
「……そうか」
「あと、なんであの人達が楠原さんに付いていくのかも、分かった気がしました」
「なんだよそれ」
「フフフ……」
意味深な笑みを浮かべる花恋。これはあれか? 学生にいいようにいじられているのか? もっと頑張れよ、俺……。
「……とにかく、明日は楽しもうぜ」
「はい……!」
誤魔化すように発した俺の言葉に、花恋は満面の笑みで返事を返した。
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その日の夜。喫茶店に集まった我らが神レベル即興バンドの面々を前に、俺は最後の言葉を送った。
「さて……明日は本番というわけだが……」
「何よ晴司。改まっちゃって……」
怪しむような視線を俺に向ける月乃。別に何かしようというわけじゃないんだが……。
「いや、さすがのお前らもどこどなく緊張してるかと思ってだな……」
「アタシ達がそういう風に見える?」
平然と黎は語る。
「大丈夫ですよ先輩。練習通りするだけですから」
星美も笑顔でそう言う。
「晴司さんこそ、明日遅刻しちゃだめですよ?」
小雪は不敵な笑みを浮かべていた。
「……すまん。俺の考え過ぎだった」
コイツらを常人基準で考えていた俺がバカだった。緊張のきの字も感じられない。鋼の魂。東京ドーム級の肝っ玉。可愛げもなし。
「ともかく。明日は頼んだぞ」
「言われるまでもないわ」
「ああ。やってやるよ……!」
月乃と黎はお互いを見合わせ、力強く答える。
……陽子先輩に、感謝しよう。月乃と黎は、いい意味で昔の関係に戻ったのかもしれない。ギスギスして、お互いが分からなくなってしまっていた距離感ってのを、取り戻したのかもしれない。口調こそ変わらない。態度も変わらない。ただ、ほんの僅かに聞こえていた軋みは、いつの間にか消えているように思えた。
(……さて。明日はどうなることやら……)
見上げた天井では、明かりが煌々と室内を照らす。それは希望の光なのか……。
(ま、なんとかなるだろ……)
こいつらに対しては、無条件の信頼を置いている。よくも悪くも、こいつらは超人だ。きっと俺の不安なんて軽く一蹴してしまう程、成功させてくれることだろう。




