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雪の中で

作者: 横山 美佳

はぁ・・・・




はぁ・・・・・



はぁ・・・・・・・・



はぁ・・・・



私は息を切らせて走っていた。

口から出る白い塊が自分の体を包む。

「急がなきゃ・・・。

 早くしないと・・・・!」



<4月19日>

私は高校に入学した。

女子高というわけでもなく

特別頭のいい学校でもない

いたって普通の学校だ。

そんな新しい学校生活の始まりの日のこと。


教室の端の席に

1人の男の子がいた。

その子がじっと

こちらを見ていることに

気が付いた。

「私を見てるの?」

そうジェスチャーしたが、

返事は返ってこなかった。

「不思議な子・・・」


――――――――――――――――――


無事、式が終わり夜になった。

私はベッドに入り

ようやく眠りに落ちる

というところ。

そんな時

携帯の着信音が鳴った。

「なによ、こんな時間に。」

公衆電話からだった。

「え?」

こんな時間に公衆電話から

誰が電話してくるだろう。

怪しむ気持ちもあったが

なんとなく出てみようと思った。

「はい、もしもし?」

『よかった。出てくれた。』

「あの、どちら様ですか?」

『あぁ、ごめん。俺、吉岡。

 お前、横山だよな?』

驚いた。

吉岡というのは

あの教室の端の男子ではないか。

「そうだけど・・・?」

『今からちょっといいか?』

「今すぐに話さなきゃいけないことなの?」

明日も学校があるのに

こんな時間に電話する必要があったのか。

正直あきれた。

『今じゃないとだめなんだ。

 俺の話を聞いてくれ。』

「もうこんな時間よ。

 明日だってどうせがっこうなん・・・・」

『俺さ、今からすごいこと言っていいか?』

声が震えていた。

「・・・なに?」

その時だった。

『ドッカーン!!ガラガラガラ・・・・

 ツー・・ツー・・・ザ・ツー・ザザ・・・ツザザ・・・・・・』

「吉岡君?吉岡君?!どうしたの??

 返事してよ!何があったの?!!」


――――――――――――――――――


翌朝、学校に吉岡君の姿はなかった。

教室がざわつく中

私は一人

吉岡君の事が

気になってしょうがなかった。

だが先生やほかの生徒たちは

そのあいている席を気にもとめていない。

まるで最初から

いなかったかのように。

名簿や出席簿に彼の名前はなかった。

私はそのことに気付いていない。


――――――――――――――――――


長い1日が終わった。

何もしていないのに

ものすごく疲れていた。

「今日は晩ご飯いらないわ。

 疲れたからもう寝る。おやすみなさい。」

家族にそれだけ告げて私はベッドに入った。

何もない天井を見上げる。

今日あったことを思い返していた。

吉岡君はどうなったのだろうか。

そしてなぜあのあいている席に

誰も気づかかったのか。

携帯が鳴った。

「メールか。」

何も疑わずに開いたその

メールの内容を見て息をのんだ。

見たこともないアドレス。

メールの内容はこうだ。


[横山へ] <4月20日>

驚くかもしれないが、

俺は死んだ。

昨夜、お前に電話をかけている途中で

電話ボックスに車が突っ込んできた。

生きていた時の記憶はない。

だが一つだけわかっていることがある。

俺はお前に何かを言おうとした。

何を言おうとしたのかは覚えていない。

それをお前に伝えない限り俺は死ねないんだ。

だから、俺の記憶探しを手伝ってくれないか。

協力してほしい。

返事待ってる。

            吉岡


昨夜のあの音はやはり

車の衝突音だったのだ。

信じられなかった。

彼はあの時私に

何を言おうとしたのか。

なによりこれを見て

驚かない方がおかしい。

死人からメールが届いたのだ。

どうしよう。

返信するか、それともこのメールを削除するか。

私は迷っているうちに眠りについた。


――――――――――――――――――


次の日の朝、もう1度履歴を見てみた。

あのメールがあった。

まだ怪しむ気持ちはあったが

私は思い切って返信してみた。


[吉岡君へ] <4月21日>

私にできるのかどうかわからないけど

手伝えるのなら手伝わせてください。


こうして

謎のクラスメイトとの

メールのやり取りが始まった。

いつも彼からメールが来るのは

夜の11時過ぎ。


[横山へ] <6月30日>

俺、何を言おうとしたんだろう?

なにか、俺に話しかけられたこととかあるか?


[吉岡君へ] <6月31日>

うーん・・・。

入学式の時に、私の方をずっと見ていたわ。

私に何か用?

って言ったんだけどそのままじっと見てた。

そのくらいしか・・・


      ・

      ・

      ・


[横山へ] <8月14日>

俺ほんとなにも覚えてねぇんだよな((+_+))


[吉岡君へ] <9月2日>

そんなこと言わないで!

少しずつ探っていけばきっと思い出せるよ。


      ・

      ・


[横山へ] <9月27日>

俺が初対面の横山に伝えたいこと・・・。


[吉岡君へ] <9月30日>

じゃぁ・・・・もっと・・こう・・・

初対面の女の子にでもいえること

といえば・・・・・・


      ・

      ・

      ・

       

[横山へ] <11月13日>

俺、何を思っていたんだろうなー?

俺がお前に一目惚れしちゃってたら面白いよなww


[吉岡君へ] <11月14日>

それはないでしょww

人目惚れなんてめったにあることじゃないしね。

でも、ほんとにそうだったら私なんて答えるだろ・・・?


[横山へ」 <11月15日>

はははははww

あまり本気にするなよ(笑)



――――――――――――――――――


こうして、私の姿見えない

彼との記憶探しは9か月に及んだ。

そんなある日、

彼からのメールが

11時前に届いた。

「え?まだ5時半よ?」

不思議に思いながらもメールを開いた。


[横山へ] <1月28日>

あの時、俺が言いたかったこと

分かったんだ!わかったんだよ!

最近、少しずつ記憶が戻りはめていたんだ。

記憶をなくしているのに

なぜお前の事だけ覚えていたのかも

何を言いたかったのかも

全てわかった!

久しぶりにお前に会いたい。

今すぐ学校の中庭に来てくれ!


「すぐ中庭に来てくれって・・・

 会えるのね!すぐ行かなきゃ。」

私はさっとコートを羽織り、

マフラーと手袋をして

外へ飛び出した。


――――――――――――――――――


外には雪が積もっていた。

そこまで深くはなかったが、

冬空の下の銀世界だった。


はぁ・・・・




はぁ・・・・・



はぁ・・・・・・・・



はぁ・・・・



私は息を切らせて走っていた。

口から出る白い塊が自分の体を包む。

「急がなきゃ・・・。

 早くしないと・・・・!」


――――――――――――――――――


私はそのまま5分ほど走り、

ようやく学校についた。

5分間がこんなにも短く感じたのは初めてだ。

「吉岡君!!どこにいるの?!!

 私来たわよ!!あなたにアイに・・・!」

辺りは静まり返っていた。

白色で覆われた中庭には誰もいなかった。

「どこにもいないじゃない。」

あたりをきょろきょろしているうちに

ふと下を見た。

「あっ・・・。」

雪の上に何かが書いてあった。

最初は信じられなかったが

信じるしかないほどに

そこから何かが伝わってきた。

不思議なくらいにあたたかい何かが。


  好きだ。恋をくれてありがとう。




2013年1月28日

横山美佳

車側の不注意により

交通事故にて死亡。

《メール》

履歴  吉岡祐  0件

    その他  995件


吉岡祐は16年前に

あの場所、あの電話ボックスのところで

交通事故のために亡くなったそうだ。

命日 1月28日。

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