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ハッピーエンドの法則  作者: yuki
1/3

act 1

登場人物


浜崎はまさき 乃亜のあ   (20) 実家、喫茶店の手伝いをしている

近藤こんどう 鉄哉てつや  (23) 広告代理店勤務 営業課

木田 琉香 (きだ るか)    (20) 乃亜の親友、乃亜の実家でアルバイトをしている



琉香は休憩の時間だけに許されるミックスジュースを口の中に勢いよく流し込み、喉を鳴らし、乃亜をみた――。

「ね、本当に、本当なの?」

琉香は、先ほど言い放った乃亜の言葉が、まだ信じられないとでも言う様に、身を乗り出した。

オレンジジュースを呑気に飲む乃亜は、あっけらかんと又、同じ言葉を繰り返した。

「本当よ。この子は私一人で育てるの。誰にも文句は言わせない」

宿ったばかりの命を、早くも愛しそうに撫で、微笑んだ。

琉香は開いた口が塞がらない。そもそもこんな話、乃亜の親にバレでもしたら、大変な事になってしまう。

「何で? 何で一人なの? 鉄は? この間言いにいくって――」

「てっちゃんはもう関係ないよ。だって別れたもの」

あまりにも驚いた所為で、琉香は声が出なかった。大きく広げた口は、まるで金魚みたく、

ぱくぱくと閉じたり開いたりとしている。そうなる事が分かっていた乃亜は、やはり呑気にオレンジジュースを飲んでいる。


本当は、喜んで欲しかった。

琉香みたいに驚いて、でもその後に、産んでくれと言われる事を望んでいた。

好きだったから――。

けれどそれも先週までの話。乃亜は、もう二度と顔もみたくない男ランキングのNo1に鉄哉の名前を刻んである。

たった一言を聞いたばかりに……。



その日は、おめでたい話をするには、最高の天気だった。

春の風は頬を撫で、晴天だけれど、けっして暑くなく……。

乃亜はお気に入りの服を着て、誕生日に鉄哉から貰った指輪を大事そうにはめて。

バックに入れたのは、まだ赤ちゃんの形さえ分からないが、確かに実在している写真。

どんな言葉で言おうか、前の晩からずっと悩んでいた。赤ちゃんが出来たの。そう直球で言ってしまおうか?

それとも少し焦らして、おめでたい事があったの。当ててみて? なんて言ってみたり……。


けれど、待ち合わせ場所に着いた鉄哉の表情は、明らかに機嫌が悪そうで、それでもこの事を言えば、

きっと喜んでくれる。そう思っていた。だが、実際、こんな時、ドキドキと胸を鳴らすもので……。

だから確かに、ちょっとうっとうしかったのかもしれない。

けれど、まさかあんな言葉が自分にかかってくるとは、思いもしなかった。


聞いた瞬間、目の前が真っ暗になっていくのが分かった。

躊躇もなく、自分に背をむけるその姿に、惜しくもないように、振り返らなかったその背中に、

悔しくて、辛くて、切なくて、一気に頬に涙が伝った。

嗚咽が震えた。一緒に体まで震えた。

たった今さっきまで、幸せの絶頂だった自分が、崖から突き落とされた様に真っ暗だった。

信じられなくて、信じたくなくて、止めようと思っても、後から後から勝手に涙が溢れた。

とうとう立っていられなくなって、両膝を付いた。たまらなくて顔を覆った。

信じたくなくて、現実から逃げてしまいたかった。


春の風が、さっきまで暖かかったのに、気がつくと、冷たく自分を包んでいる様な気がした。

ぼったりと顔が腫れた乃亜は、今更必死に涙を拭った。

さっきまで泣いていた顔が、もう強い母親の顔へと変わっていた。

父親に愛してもらえなくても、母親である自分が、その倍愛してあげればいい。

二人分の、三人分の愛情を、自分が注いであげる。そう心から思った。

この子は自分が守る――――。乃亜はそう心に決めた。






あの話から一週間後の今日、鉄哉は、今更になって乃亜を探しまわっていた。

仕事が片ついたからでもなければ、今は休憩中、だと言う訳でもなかった。

仕事が出来るからこそ、その負担は増えていったし、それはまだ現在進行中で、はっきり

言えば、こうして街の中を必死に走り回っている場合ではない。

最近は取引先からの連絡用とほぼなりつつあった携帯を、何度もさわり、発信をしているのも

全部乃亜に連絡を、逢って話をしなければならないと思っているからだった。


「今更、もう遅いわよっ。どうして話をちゃんと聞いてあげなかったの?」

幼馴染である琉香から朝っぱらから呼び出しをくらい、乃亜の時の様に不機嫌オーラを満開で

逢った後、すぐに平手が飛んできた。


引っ叩かれた直後、全く状況が読めず、ただ、思いつくことを言えば、一種間前に別れを一方的に

切り出した乃亜との事だろうと察しがついた。

後悔していない訳じゃなかった。

乃亜とは、もう3年もになっていた。結婚するなら、乃亜だと思っていたし、自分が何故あんな事を口走ってしまったのかと、もう幾度となく思っていた。しかし仕事が詰まっている自分の事を、もっと考えて欲しいとも思っていたのだが、

今になってよくよく考えてみると、なんの事はない。乃亜は一番に自分を優先してくれていた。


逢えなくても、愚痴を言わず、ただ許してくれていたし、逢えた時は、その分全力で甘えてくれた。


琉香から引っ叩かれた瞬間、どっとそんな思いが押し寄せてきた。

何も言えない自分に、琉香は更に追い討ちをかけた。


「乃亜、赤ちゃんが居るの。父親、誰か分かるでしょ?」

めまぐるしい感情は、一気に体の中を駆け巡り、あの日の乃亜の様子を、もう一度自分の中に

思い出させた。

鉄哉は思わず口を覆った。

「乃亜、一人で産んで、一人で育てるって言ってる。親に反対されたら、地元から離れて、どこかに行っちゃうってっ――」

刹那、琉香の視界が、ぐにゃりと歪んだ。

何度琉香が説得しても、乃亜の決心は変わらなかった。もし、親に反対されたら、何処か別の街に行って、そこで生きていく。

そう言ったのだ。

「鉄の所為でっ――。アンタの所為で乃亜がっ――」

頬に涙を伝わせながら、込み上げてきた怒りを、そのままバックに込め、勢いよく振り切った。

チャックの部分が鉄哉の頬でこすれ、切れた。

しゃがみこんだまま、立ち上がれず、泣き崩れている琉香をそのままに、

気付いた時には、鉄哉の足は、駆け出していた。






……To Be Continued…



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