6/10
沼津のみかん
全国的なみかんの産地として知られているのは、生産量の順から、和歌山県、愛媛県、静岡県の三県であるが、静岡県内で特にみかんの栽培が盛んなのは、県の西部の浜松市の三ケ日地区と要が住む沼津市だ。
市内の西浦地区周辺には、みかん畑が広がっており、西浦みかん或いは寿太郎みかんという名称で県外にも出荷している。西浦地区ばかりでなく、市内の海沿いの様々なところで小さなみかん畑をみることができた。
要はみかんの木を見るのが好きだったが、みかん畑を見るのは、いっそう好きだった。
初夏には香しい花が咲き、やがて実をつけ、秋になって青みががったみかんの実がだんだん黄色く色づいていく。
四季に応じたそんな光景を見に、海沿いの西浦地区に親や祖父に連れて行ってもらうこともあった。
取ったばかりの新鮮なみかんを味わう、こんなこと、できるのが、沼津の良さだぞ
という父の隆がよく口にする言葉が要の胸にはある。沼津のみかんは、要にとって、親しみの対象であり、一種の地元の誇りとも言えた。