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少女が取り出したもの
「何かわからないこととかあったら、気軽に聞いてくれたら」
要は信頼の応えたいようと気持ちを強くして言った。
「うん、ありがとう」
加代と名乗る少女の表情は少し和んだようだった。
「そうだ、これ」
加代がスカートのポケットから何かを取り出して要の前で示す。
それは、やや小さめの青いみかん。
「えっ?」
要もそしてそばにいた由美も驚いた。
「章太郎君がね、要君はみかんが好きだから、みかんをあげたら喜ぶって」
加代は少し恥じらいを見せた。
要はみかんが大好きだった。三島の将棋教室では、休憩によくみかんを食べていたし、
「俺、みかん好きなんだ〜」
と話していたから、章太郎には要のみかん好きは知られていたはずだ。それを覚えていて、気を利かしてくれたんだろう。
青いみかんを食べるのは今年初めてだ。
少女の手に収まる青いみかんは見るからにつややかだった。それを受け取って
「ありがとう〜」
要の顔に思わず微笑みが浮かんだ。