戸田(へだ)から来た少女
「あの、その…」
少女の表情は少しこわ張って見える。声は少し甘味を含んだ、声優さんにも重なるキュートな感じだ。
…こういう時は男子の自分から挨拶すべきなんだろうなぁ。ちょっと恥ずかしいけれども…
少女の目をちゃんと見て
「こんにちは。鈴木要です。…もしかして前にどこかで会ったかな?」
「あっ、あの梅原加代です。こんにちは。…会うのは今日が初めてで…」
少女は向けられた視線を恥じるようにうつむき加減で答えた。
由美が助け舟を出して、
「梅原さん、戸田から転校してきたんだよ。戸田に友達いる?」
「戸田?」
要の暮らす静岡県沼津市は、伊豆半島の西の付け根に位置し、南北に長い。
戸田は同じ市内だけれども、南の端っこで、要が住む沼津城周辺からはだいぶ離れている。
公共交通機関で行くのは不便なところである。
遠足やドライブで訪れたぐらいだが、必死に記憶を辿ってみた。
…おととし戸田に行った。あの時は、食事した店に水槽があって大きなカニを見たなぁ。
たしかタカアシガニという名前だったかな。
タカアシガニ?
そういえば、タカアシガニの甲羅で作ったという仮面、あいつ持ってきてたな。
あれっ、まさか…章太か。