アリという少年
アリは、要よりやや背が高く、肌は褐色の肌で、少しやせていて、柔らかそうな髪、優しさを感じさせる目元を持っている。インドネシアは広大で民族構成も複雑だが、中国人や韓国人とは違う、東南アジア風の顔立ちとはこういう顔立ちなのかとも要には思われる。
数年前からアリの母親が沼津市内の病院で働いていて、昨年アリとその父親(夫)を呼び寄せたそうだ。
転校してきた当初日本語が分からず、クラスにもなじめないで難儀したみたいだが、同じクラスだった達也がクラスの輪に入れるようにいろいろ気にかけていたらしい。親切心というか、ある種の男気が達也にはあった。そんな事もあって、アリは達也とよく遊んでいたから、要は自然とアリとも仲良くなった。
アリと知り合ってからインドネシアのことを話す機会があるが、苗字を持たない人が多いというのは驚きだった。アリは、名前だけでアリと名乗っていた。
アリも達也と同じように、要をカナブンと呼んで、カナメはアリと呼んでいるので、ある時、達也から、
「カナブンとアリ、昆虫シリーズだな」
と達也がいうので、
「タックンも昆虫名、名乗れよ~」
と要が返すと、
「じゃあ、タツノオトシゴだ」
「昆虫じゃないぞ、それ」
という二人のやり取りを聞いて、アリも笑顔を浮かべたのであった。
要は自分の机の上のランドセルを背負うとアリと達也の方も見ながら、
「あとで。昼ご飯食べたら行くよ」
「ウン、オレハ達也トイッショ二ユク」
達也は無言で手を挙げた。
要は由美と加代が待ってるであろう昇降口へ向かった。
 




