第55話 リクト VS ベクター⑥
俺は「特製抹茶かき氷」――集大成……最終兵器デザートを作り上げることにした!
しかしベクターと獄川王財は何を作る気だ?
ん? ベクターの背後をよく見ると、獄川王財の悪霊は引っ込んでしまっている。
ベクターの表情は険しいが、料理人の顔になっていた。
だが……!
「おい、ベクターの厨房! あれはなんだ……?」
観客たちは、ベクターが用意した円形の巨大なホットプレートを見やった。
するとベクターは道具箱から、穴の空いた四角い木箱を取り出した。
その中に、溶いた小麦粉を流しこみはじめた!
「あいつ、何やってんだ?」
「おお……っ! 見ろ、魔法か?」
ベクターが木箱を振り子のように揺らした。
すると溶いた小麦粉の液体が五本の線状になって、ホットプレートに飛び出した。
麺状となりじりじりと焼け、細い線の焼き物がたくさんできあがった!
それを手でまとめると、一つの麺の束ができた……!
「あれは何なんだ?」
俺は思わずジョウイチに聞いた。
『あれは俺たちの世界にある、【クナーファ】という菓子に使用される【カダイフ】だ!』
ジョウイチの声が頭の中に響いた。
『小麦粉や油、塩などを溶いた液体を麺状にしたものだ。あの食材を知っている日本人は、俺の生前時はほぼ存在しなかった!』
するとベクターは皿にバターを塗り、束にしたカダイフを乗せていく。
それを折り曲げ、アーモンドの粉を敷き、リンゴのスライスを乗せていく!
「と、特殊すぎる製法だ……!」
「あんな料理があるのか?」
観客が魅了され始めている。
俺も見ている場合じゃない。
「俺はかき氷用シロップを作る!」
抹茶を大さじ二杯、砂糖、水、練乳、塩を加え、鍋で煮る。
「何だ? あの色は?」
観客たちは俺を見て、再びどよめいた。
俺の作ったシロップはランゼルフ王国ではまず見られない、鮮やかすぎる緑色だからな。
「奇妙な緑色だ……」
「魔物のスライムみたいな色だな」
「あれがシロップだって? 正気かよ」
観客の驚きの声が聞こえるが、これが特製抹茶シロップだ!
一方、ベクターは淡々と作業をこなしていた。
今度はカダイフの束の上に、柿のスライスを乗せていく。
そしてまたアーモンドの粉を振りかける。
すると――!
『この手間を見たか、リクトよ! これが【獄川流麺のフルーツパイ】だ!』
ベクターの口から、王財の腹に響く太い声が発された。
あんた、まだ取り憑いてたのかよ!
「王財のおっさん! いつまでベクターに取り憑いてるんだ!」
『黙れっ!』
ベクターの体を借りた王財は怒鳴った。
『リクト、お前は単なる抹茶のかき氷か? ふん、俺にとっては珍しくもない。味も甘いだけで、何も面白みはないな』
ふふっ……王財、そいつは違うぜ!
俺は秘密の食材を取り出した。
俺が取り出したのは……芋だ。
観客はため息をついたようだ。
「なーんだ、芋かよ……」
「がっかりだな」
「甘藷(サツマイモ)だろ。俺の村でもよく食うぜ」
俺はニヤリと笑い、芋を切り刻んだ。
そのときようやく観客が「おやっ」と声を上げた。
芋の断面は、ルビーの原石を砕いたかのような赤紫色だったからだ!
アントシアニンが最も配合されている、色鮮やかな品種を選んだ。
『まっ、まさか? 紫芋はランゼルフ地方に存在せんぞ』
ベクターの口から王財の声が漏れ出る。
『異次元デパ地下で手に入れたのか? お前、それで何を――』
その通り、紫芋は異次元デパ地下でしか手に入らない代物だ!
俺は茹でた紫芋を裏ごしし、甘み――砂糖やバターを加えてペースト状に仕上げた。
そして俺が厨房の道具庫から取り出したのは、木と金属が一つになった道具だ。
銀色に光る筒の先には、小さな穴の空いた鉄の円盤が取り付けられていた。
そこに紫芋のペーストを入れ、俺は――。
大皿の周囲に、上から木の棒で力を込め押し込んだ。
「う、うおおっ?」
「な、なんだ?」
観客が声を上げる。
筒の先から赤紫色のペーストの無数の糸が、滝のように流れ落ちた。
皿の周囲はモンブランよりももっと細い――ペースト紫芋の糸が大量に装飾された!
『あ、あんな道具が……! 俺のカダイフの道具よりも特殊なものを使いおって……』
王財の声が低く響いた。
「ようし! 皆、頼む!」
するとアイリーンやレイチェル、ポレット、ミア、ニコルたちが客席の最前列から飛び出した。
ここから先は俺一人では難しい作業だ。
二回戦は助手の手伝いOKで良かったぜ。
彼女たちは道具庫から「手回し式かき氷器」と、冷蔵庫から四角く美しい氷を取り出した。
氷はまるでガラス細工のように、スタジアムの風景が透かして見えた。
触れただけで指先が震えるくらいの冷たさだ。
『そ、その氷は? 俺には分かるぞ。その氷がどんな強力なものか……』
王財の声が震えている。
俺は胸を張って答えた。
「とある山から作られた本物の天然氷だ!」
これは異次元デパ地下で手に入れた、日本の「栃木県――日光」で作られた天然氷――!
『あ、あの美しい透明度の氷は! 有名な日光の氷池の……』
王財はさすがに知っていたようだな。
『よっしゃ、これでいくぜ、リクト!』
俺の後ろでジョウイチの満足そうな声が聞こえた。
『な、生意気な……!』
ベクターはすさまじく醜悪な表情で、厨房の机に手をついてよろけた。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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