第54話 リクト VS ベクター⑤
『もうここに来ている! 俺を殺した野郎が!』
ジョウイチの声が俺の頭の中で炸裂した。
お、おいおい……ジョウイチ、落ち着けよ。
誰が来るっていうんだよ、一体……。
そ、そういや、メイン料理勝負の勝敗はどうなったんだ?
『――一回戦、メイン料理勝負の勝敗を申し上げます!』
おっ、放送がきたか……!
俺は耳をそばだて、観客も波を打ったように静まり返った。
『グレゴリー校長はリクト・ロジェ選手の票を掲げ、ボルダー氏、バルドーン氏は棄権――』
俺は息をのみ込んだ。
『一回戦終了時点で1-0! リクト選手が1点先行とします!』
どおおおおおっ!
地響きのようなどよめきがスタジアム内を振動させた。
「なっ、何で僕の負けなんだ!」
ベクターの声が響いた。
「たった1点差だとは言え――負けとは納得がいかない!」
だがボルダー教頭とバルドーンは黙っている。
何を企んでいるのだろうか?
「ふう、まったく小賢しい者たちよ」
銀竜がボルダーたちを見やりながら、重々しく口を開いた。
「私は評決の結果なんぞに興味はない。しかしながらベクターよ、お前が負けた理由は明白だ」
「な、何だと?」
「まず、お前のチーズホイールソテーとキューブステーキは、チーズの味が混然一体となった、素晴らしい一品であった」
「で、ではなぜ僕がリクトなんぞに負けるのか!」
「チーズの味は素晴らしかった。しかしそのチーズにメインの牛肉が負けてしまっていた」
一歩たじろぐベクターに、銀竜はたたみかけるように声を張った。
「チーズと牛乳スープが絡んだしつこいステーキは食べれば食べるほど、単調になる――これに尽きる」
「あ、ぐうううっ!」
ベクターは音がなるくらい拳を強く握りしめ、俺を虎のような目で睨みつけた。
『リクト、ボルダーとバルドーンはベクターを勝たせたかったはずだ。しかしあの料理の弱点に気づいてしまった。美食家としての権威を守るために、評決の『棄権』を選択したというわけだ』
ジョウイチが俺の頭の中で説明してくれた。
一方、ボルダー教頭とバルドーンは目配せしてうなずいている――まだ何か企んでいるのか?
観客はため息をついた。
「な、なるほど。チーズが美味すぎてメインの牛肉の存在を消してしまったのか」
「ちっ、リクトが先行かよ」
「だが二回戦がある。一回戦と二回戦の合計点数ですべてが決まるぜ」
観客のざわめきが落ち着いたとき、観客席の最前列から声が飛んできた。
「おい、リクト!」
日本から来た料理人たち、そしてモモピーとやらのファンたちが俺に言った。
「か、完璧なたこ焼きだった。まさか異世界でたこ焼きが勝つとはよ……」
「誇らしいぜ、日本人として」
「つーか、何でお前、異世界でたこ焼き作ってんだよ。面白ぇヤツだな、アハハ」
日本人たちは俺を信頼し、どんどん応援し始めてくれているようだ。
俺が日本人におなじみのたこ焼きで勝ったからだろう。
だが――その瞬間!
「ううがああああああ……」
うめき声がベクター側の厨房から響いた。
ベクターは両膝をついて、うめいている。
『リクトッ! 下がれ!』
ジョウイチがまた怒鳴った。
ベクターは急にゆらりと立ち上がり、そして口を開いた。
『リクト、貴様……』
おっ、な、何だ?
ケンカでもやる気かよ?
『俺を……俺をよくもコケにしてくれたなああああ! ジョウイチ! リクト・ロジェ!』
こ、これはベクターの声じゃない!
腹までいやに響く鈍重な中年男の怒声だ!
ベクターの体からは、冷えるような闇色の瘴気が立ち昇っている。
彼の背後には――!
悪霊のようにドス黒く透明な、ヒゲ面の大男が立っていた。
寒々とした空気が俺の背筋に入り込み、空気が重くなる。
『お前ぇええええっ! 獄川王財!』
ジョウイチがベクターの背後に立っている、ヒゲ面悪霊に向かって叫んだ。
ヒゲ面悪霊も言葉を返す。
『久しぶりだな……。沢村丈一……』
『王財ッ! お前を探していたぞ。お前が俺をトラックでひき殺したんだ!』
お、おいおい……マジなのか。
再び背中がじわりと冷たくなった。
この悪霊が人間のとき、ジョウイチを殺した!
王財という悪霊が反響するような不気味な声を上げた。
『俺様はあんたが憎かったからなあ……。帝神レストランでは、俺が副料理長だった。ずっと、あんたの下で働かねばならなかった』
『だ、だが、俺をひき殺すことはないだろう!』
『誰かの下で命令されることなど、俺のプライドがゆるせなかった! 邪魔者は潰すのが俺の哲学だ』
『――思い出したぜ。さっきのチーズホイールソテーとキューブステーキ。お前の得意料理だったもんなぁ!』
『よく思い出せたな、沢村丈一よ!』
獄川王財の悪霊は楽しそうに声を響かせた。
『二回戦はリクトとあんたを潰し、俺様がこの異世界で頂点に君臨してやる!』
『そんなことはさせん! リクトは俺の未来だ。ランゼルフ王国料理界の未来だ!』
ジョウイチの叫ぶような声が、俺の頭の中で強く響く。
そのとき、放送が響いた――。
『じ、時間がありません! さあ、二回戦のデザート勝負を始めてください!』
ベクターはうつろな表情のまま、足を引きずるように厨房に向かった。
あいつ、悪霊の取り憑かれたまま、料理を作るのかよ!
『リクトッ。ベクターは王財に乗っ取られている』
ジョウイチの声がした。
どうやらそうらしいな。
『王財をなめたらヤバい! ヤツの実力は俺と同等レベルだ!』
ベクターはうつろな目のまま、調理を始めた。
するとベクターの厨房の真上から、段ボールの荷物が落ちてきた。
「――あ、あれは! 『異次元デパ地下』!」
あ、あいつも使えるのか?
いや、獄川王財の術なのか?
俺は「特製抹茶かき氷」――集大成……最終兵器デザートを作り上げることにした!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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