第53話 リクト VS ベクター④
このたこ焼きを、ランゼルフ王国の人々に披露するときがきた!
『――では、次にリクト・ロジェの料理を審査していただきましょう!』
魔導放送がかかったが、俺は急いで声を発した。
「その審査の前に一工夫させていただきます」
俺は竹の皮に包んだまん丸なたこ焼きを、オーブントースターに入れた。
二分再加熱っ……たこ焼き内部の温度をもう一度押し上げた。
冷めつつあったたこ焼きが再生――!
俺は爪楊枝と、一人分八つのたこ焼きを審査員の前に配膳した。
「再加熱だと? そんな程度で驚きはせんぞ」
ボルダー教頭が憎まれ口をたたく。
そして机の上の、たこ焼きを見て顔をしかめた。
「上にかかっているのは『ショウユ』というソースか? 白いのはマヨネーズ?」
「とにかく食べてみないと始まらぬ」
バルドーンが、たこ焼きをためらいなく口に放り込んだ!
「ん? ほっ、ほほっ! 熱い!」
ふふっ……熱々のたこ焼きだ。
彼の頬の中で、熱い生地が弾けたはず。
「こ、これは? この味わいは何だ? 甘い? しょっぱい? いや、酸っぱい?」
バルドーンが覚悟を決めたように机を叩き、叫ぶ。
「美味い――!」
観客がざわめいた。
「マ、マジなのか」
「あの奇妙な球体の食い物が美味いって?」
「早く、あのたこ焼きとやらの正体を教えてくれよ!」
観客は立ち上がって俺のたこ焼きに注目し始めた。
「酸味のあるソース、マヨネーズのまろやかさ、中からあふれ出るトロリとした生地のうまみ……タコの歯ごたえ」
銀竜も唸った。
「か、完璧だ……! この球体の中に味の黄金比率が詰め込められている……」
そしてしばらくたこ焼きを見つめ、声を張り上げた。
「これは『食べる完璧なクリームシチュー』だ!」
さすが銀竜、面白い例えだな。
しかし乳製品は一切入ってないぜ。
俺はニヤリと笑ったが、ベクターは顔を真っ青にして立ち尽くしている。
「こ、このソースの味わいは何なんだ?」
ボルダー教頭が悔しそうに、もう一度爪楊枝をつまむ。
ひょいひょいといっぺんに二個も口に入れた。
「このソースはほのかに果物や胡椒の味がするぞ! ビネガーのようなものか? い、いや違う……。リクト! 何なんだ、これはっ」
「それは『たこ焼き用ソース』です!」
俺は説明した。
「トマトやタマネギ、香辛料を発酵させ熟成させたソース! 今回はデミグラスソースや蜂蜜、ショウユも加えています」
「青のりと紅色のショウガ、そして上にかかっているカツオブシという食材も良い味ですね」
グレゴリー校長はホッとしたように、眉をゆるませてうなずいた。
無理もない。
俺が負けると、ベクターたちにグレゴリー料理アカデミーを支配されちまうからな。
「もともとたこ焼きがもっている複雑な味わいに、この三つのアイテムが軽さを加えています!」
「き、奇跡的な味わいだ……! この中のタコの淡泊なうまみが、この料理をより一層高みへと上昇させている」
バルドーンは物凄い勢いで、たこ焼きを口の中に入れ始めた。
たこ焼きが多少冷めてきたので、食べやすくなっているんだろう。
「ち、ち、ちっきしょおおおおーっ!」
ボルダー教頭も悔しさを押し潰すように、バクバクとたこ焼きを頬張り始めた。
「こ、この世の中にこんな奇妙な食い物が存在するとはああっ! しかも何なんだ? この軽さ、食べやすさは?」
たこ焼きは食事とも軽食とも言える、スナック料理の完成型だ。
腹にたまらないのでバクバクいけてしまうのは、当然のことだぜ。
「この食後の幸福感はなんなんだ? そうか――これが『満足』というものか」
千八百歳の銀竜は目を丸くしている。
ベクターといえば痛そうになるくらい拳を握りしめて、震えている。
『さあ、メイン料理の審査結果の時間です! 審査員の皆さん、票をあげてください!』
来たか……!
ここで票をかせがなければならないが、問題はボルダー教頭とバルドーンだ。
一回目の勝負だ、ベクター!
グレゴリー校長は素早く俺の票をあげてくれた。
一方のボルダー教頭とバルドーンだが……?
顔を見合わせて何やら相談している。
あ、あいつらっ、何を企んでやがる?
ボルダー教頭の声が聞こえてきた。
「バルドーン殿、正直、ベクター坊っちゃんの料理は……」
「む……」
「しかしローバルフォード家の息子を負けさせるわけにはいかんですぜ」
「つい『たこ焼き』とやらをほめ過ぎたな……。取るべき手段は一つだ」
「ええ」
ボルダー教頭がニヤリと笑い、声を上げた。
「私、ボルダーとリシャール・バルドーン氏の評決は、以下の通りです!」
な、何いいっ?
二人とも札を……札を掲げていない!
「第一回戦――メイン料理の評決は、私とリシャール氏は『棄権いたします!」
な、何だと?
俺は驚いて声を上げそうになった。
一方、観客は静まり返り、困惑して顔を見合わせるばかりだ。
おや?
そのとき――。
『近づいてくる……。ヤツが近くにいる。気をつけろ、リクト!』
ジョウイチの声が俺の頭の中で響く。
ジョウイチ、どうしたんだよ?
『もうここに来ている! 俺を殺した野郎が!』
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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