第51話 リクト VS ベクター②
俺とベクターの料理勝負が始まった。
今回の料理勝負は「自由課題」!
ただし審査は二回で、前半はメイン料理、後半はデザートを作ることになっている。
俺が調理を始めようとしているとき――料理勝負スタジアムは騒然となった。
「な、なんだありゃ?」
「おい、ベクターの厨房を見てみろ! 何だ、あの塊は?」
「で、でけえ」
ベクターはニヤリと笑い、係員数人が抱えて持ってきた円形の塊を指さして叫んだ。
「これこそが『ブエスタル・ディネス』です! ブエスタル地方で作られる、王国最大の巨大ハードチーズ!」
あ、あれがチーズだと? まるで馬車の車輪だ!
直径が約五十センチ、高さが約二十五センチ……バカでけぇチーズだぜ!
俺がジョウイチからダウンロードした知識のなかでは、「パルミジャーノ・レッジャーノ」というチーズとほぼ一緒らしい。
「そいつをどうするんだ?」
俺が聞くとベクターはフッと息をつき、勢いよくスプーンとナイフをチーズに突き刺した!
な、何だとっ? せっかくのチーズに何を――?
「こうするんですよ!」
ブエスタル・ディネスチーズの中心を、スプーンとナイフでくり抜き始めた!
ナイフとスプーンでチーズを掘り、やがて皿のような形状のくぼみができた……!
ベクターは勝ち誇ったように、ちらりと俺のほうを見やった。
「そういう君も、どうせわけの分からない食い物を出してくるんでしょう?」
俺は笑みを浮かべ、異次元デパ地下に出してもらった「たこ焼き器」を取り出した。
「な、何いっ?」
ベクターは目を丸くし、一歩たじろいだように見えた。
「な、何です? その不気味な鉄板は?」
たこ焼き器の形状を見て驚いているな。
この特製たこ焼き器は二十四個の丸いくぼみがある、たこ焼き専用の鉄板だ!
こんな奇妙な鉄製品はランゼルフ地方にはないからな、驚くのも無理ないぜ。
「そ、そんなもの、料理に使えるわけがないでしょう!」
ベクターは汗を指でぬぐい、声を張り上げた。
「見て驚け! こうやって使うんだよ」
俺は用意していた布を丸め、それに木の棒を差し込んだ。
それをまた布で被せて輪ゴムでとめる。打楽器のティンパニのバチ……マレットに少し似た、先端が球体の棒だ。
「な、何だ? 何をしているんだ?」
ベクターはよろけ、厨房から鉄のボウルを落としてしまった。
俺はその先の球体部分に菜種油、ごま油をなじませ、一つ一つのくぼみに塗り始めた。
油が光り、鉄板がじわじわと熱を帯びてくる。
次第に観客が騒然となっていた。
「た、確かにその球体なら、くぼみにまんべんなく油を塗れるが……意味が分からなすぎる!」
ベクターはそうぼやきつつ、手首で流れ落ちる汗をぬぐった。
「くそっ! ぼ、僕の料理を続ける!」
ベクターはたくさんの野菜や魚介類を炒め始めた。
ブロッコリー、カリフラワー、カニ、剥きアサリ、そして海のミルク――牡蠣!
そしてそのまま、さっきくり抜いた巨大チーズの中にその野菜や魚介類を――。
ベクターは叫んだ。
「うまみがたっぷり詰まったこの炒め物を、チーズの車輪の中へ!」
う、うおっ?
ベクターはくり抜いたチーズの中に、熱々の野菜や魚介類を投入し始めた。
うーむ……。
「チーズに熱い食い物を合わせたらどうなる? ……いや、考えている場合じゃねえな」
俺も具材を鉄板の穴の中に入れ始めた。
青のり、天かす、紅ショウガ……!
このランゼルフ地方では絶対に手に入れられない、異次元デパ地下から取り寄せた貴重な食材だ!
「き、奇妙なものばかり用意して……気をてらったものばかりじゃないか!」
ベクターは吐き捨てるように声を荒げた。
「そもそも、その奇妙な鉄板で何をしようというんですか?」
「気になるか? 見てみろっ! これがたこ焼きだああっ!」
俺は卵と水で溶いた小麦粉を、一つ一つの穴の中に流し込み始めた。
油と粉が焼かれる香ばしい匂いが周囲に広がる。シュウ、という油がはぜる音が周囲に細かく響いた。
そして、生地が柔らかく焼き固められつつあるところで、靴屋にもらった「千枚通し」で回転させる。そして切った新鮮なタコを丁寧に一つ一つ、落としていく。
さあ、世にも奇妙な球体の食い物ができてきたぜっ!
「おいおいおいっ! 見ろ、リクトの料理を」
「ぶ、不気味な調理法だ……!」
「あんな料理がこの世にあるわけがない! 奇妙すぎる……」
観客たちは困惑している。一方――。
「巨大チーズの器の料理と、俺らがよく知ってるたこ焼きの勝負かよ……」
最前列の特別席で見ていた、あの日本人のラーメン屋たちの声が聞こえた。
「こいつは混沌としてきたな。さすが異世界だぜ」
「だが、たかがたこ焼きで勝てるのかよ?」
勝てる? 当たり前だっ! このたこ焼きは、日本で生まれた最高の庶民派料理だからなっ!
俺がくるくるとたこ焼きをつくっている間、ベクターは炒め物とチーズを茹で汁であえはじめた。
「ふ……ふふっ」
ベクターはフォークを両手に持っている。
「君の不気味な粉料理も結構だが、僕の料理は最高級、最重量の豪華料理ですよっ!」
皿の代わりの溶けたチーズが、熱を持った熱々の炒め物にどんどん絡んでいく!
チーズが糸を引きとろけ、食材を包み込んでしまいそうだ。
ま、まさか! あの巨大チーズがそのまま器なのか?
「これこそが『チーズホイールソテー』です!」
ベクターは軽い手つきで、炒め物の上にパセリを散らす。
「大貴族や王族でも滅多に食されない、超高級料理です! しかしまだ秘密がありますよ」
チーズホイールソテーだとおっ?
それにまだ秘密がある?
俺が思わず、「秘密って何だ?」と声を上げようとしたときだった。
(リクトッ! 上空を見ろ。危険を感じたら避難しろ!)
ジョウイチの声が急に頭の中でこだました。
ん……?
そのとき、上空で耳をつんざくような鳴き声が聞こえた。
「な、なにいいいっ?」
俺は上空を見上げたとき、めまいがしたかと思った。
スタジアムに差し込んでいた太陽光が、頭上で突然ふさがれた。
まるで飛行船のような陰がゆっくりと空を滑ってくる!
巨大翼竜――! シルバードラゴンだとおおおっ?
まさに龍獄の谷スタジアムの上空に、銀のうろこをきらめかせながら巨大な翼竜が舞い降りようとしていた。
体長三十メートルほどはあるぞ!
「う、うわあああ!」
俺は声を上げた。
シルバードラゴンは接近し――スタジアム上空の透明な魔防壁を破壊して突き破った!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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