第50話 リクト VS ベクター①
俺はベクターとの対決のために、龍獄の谷スタジアムまでやって来た。
俺への罵声が聞こえる中で、一筋の明るい声が響いた。
「リクトッ! そろそろ試合時間よ、気合入れましょう!」
俺の気落ちしそうな胸にアイリーンの声が響く。
ちっきしょう、ベクターの野郎、卑怯なマネしやがって……!
控え室にいた俺、アイリーン、レイチェル、ポレット、ミア、ニコルは円陣を組んだ。
「絶対にベクターに勝って、グレゴリー料理アカデミーを守るぜ!」
俺は拳を白くなるまで握り締め、声を上げていた。
拳はギチリと音を立てていた。
◇ ◇ ◇
スタジアムの中央には、太陽光を反射し鈍色に冷たく光る厨房が左右に二つ用意されていた。
剣士の刃のようにギラついている。
まさしく戦場だ!
すでに右の厨房では、ベクター・ローバルフォードが腕組みをして待っていた。
「逃げずに来ましたね。奴隷君!」
「うるせえ! ニュースにひでえウソを書きやがって!」
「あれれ? 君、ニュースを読んじゃったのですか。いやぁ、バレましたぁ?」
ベクターは高笑いしている。
ベチャ!
俺の頭に生ぬるい衝撃を感じた。
柑橘類の芳香が漂う。
足元に落ちたのは――ミカンだっ!
そして頭上をリンゴ、梨が飛んでいった。
ば、売店で売ってるフルーツじゃねえか!
あ、あぶねえっ!
客席の奴らが俺に向かってものを投げてるのか?
あいつら、新聞や端末情報のウソに騙されやがって!
「あははは! リクト君、災難だなあ!」
ベクターが手を叩いて笑っている。
そのとき!
(リクト! ベクターに近づきすぎるな! 危険だ、ベクターの中のヤツに取り憑かれるぞ!)
ジョ、ジョウイチ……?
どうしたっていうんだ?
ジョウイチの焦りを含んだ声が、俺の頭の中で大きく響いた。
――中のヤツって?
(何か嫌な予感がする……ヤツの内部から異様な狂気を感じる……!)
狂気だって?
「いやぁ、最高に面白いショーですよ、リクト君!」
ベクターはまだゲラゲラ笑っている。
こいつ……ぜってぇ負かしてやるぞ。
そんなことより――。
中央には審査員席がある。
誰が審査員なんだ?
「な、なにいいいっ?」
俺は審査員席を見て目を丸くした。
左にはグレゴリー校長、真ん中は闇の晩餐の主催者、リシャール・バルドーン。
そして……最も右に座っていたのは!
「ボ、ボルダー教頭!」
お、俺がランゼルフ料理アカデミーで掃除人をやっていたとき、俺をこき使っていた悪魔――!
そして俺がこの世で最も恐れていた男!
ランゼルフ料理アカデミーの教頭だ!
「久しぶりだな、リクトよ」
ボルダー教頭のふくよかな顔が揺れた。
「今日はお前の料理を潰しに来た!」
「教頭! な、なんであんたが……」
「俺は闇の晩餐の会員でもある。そして我がボルダー家は、ローバルフォード家と提携しているんだよ!」
ボルダー教頭は俺を鬼のような形相で見やった。
「お前のおかげで私ら親子の評判は地に落ちた! ランゼルフ料理アカデミーの入学希望者も半数になってしまった」
「それは息子とあんたの実力不足だろ」
「黙れ! 奴隷が!」
ボルダー教頭は机を両手で叩いた。
机がひしゃげるかと思った。
「俺の批評で、貴様をぺしゃんこに潰してやる……。今回は『自由課題』だそうだが、またあの寿司とかいう得体の知れない食い物を出すのはやめてくれよ」
隣のバルドーンはクスクス笑っている。
「ボルダー君、少年がおびえているぞ。それくらいにしたらどうだ」
「バルドーン殿、一緒に料理界の頂点に君臨しましょうや。私もあと一か月後には新しいエンジェミア料理アカデミーの教頭就任が決まっておるんで」
な、なんだと!
ボルダー教頭がエンジェミアの教頭に就任だと――!
「おしゃべりはそこまでですよ、リクト君」
ベクターは笑いながら声を上げた。
『これより、リクト・ロジェとベクター・ローバルフォードの料理勝負を開催します!』
最新の魔導放送がかかった。
よく響きやがるぜ。
『課題は【自由】! まずはメイン料理を作ってもらう。審査を受けたあと、今度はデザートを作っていただき、二回目の審査を行う。その合計点数で勝負を競う!』
そして放送が続いた。
『一回目の審査では助手の手助けを禁ずる! 自分の腕のみで勝負していただく』
勝負は二回、一回目の勝負はアイリーンの力は借りられないってわけか……!
だが――俺はこの日のために、最高の準備をしてきた。
最強の超庶民派料理――「たこ焼き」を作るためだ!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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