第47話 沢村丈一の冒険①【ジョウイチ視点①】
ここは霊界――。
霊界の太陽がまぶしく光り輝き、神殿のステンドグラスに虹色の模様を落としていた。
「お前の前世の少年――リクトの様子はどうじゃ?」
コックコートの身を包んだ、目の前の幼い少女の大天使は言った。
リクトは今、異世界のベッドでぐっすり寝ている。
連日の勉強や料理勝負でヘトヘトなんだろう。
その合間をぬい、俺――沢村丈一は霊体のまま霊界の料理の大天使に会うことになった。
「よくやってるんじゃないですかね。だが、リクトは俺から見たらまだヒヨッ子も同然ですぜ」
「手厳しいのう!」
「そんなことより、相談ってなんです?」
「今度リクトは、ベクターとの料理勝負があるだろう。日程は……ふむ」
料理の大天使は、霊界のスマホを確認しながら言った。
「あれを『龍獄の谷スタジアム』で行って欲しいのだ」
「はあああ?」
りゅ、龍獄の谷?
正気か、この大天使。ランゼルフ王国最大の渓谷だぞ。
確かにでかい古代のスタジアムはあるらしいが、魔物の巣窟で有名な場所だ。
「なんであんな危険地帯で……?」
「あそこはランゼルフ王国の料理の故郷! 古代エンジェミア料理アカデミーがあった場所だ」
「あ、ああ……そうらしいですね」
古代エンジェミア料理アカデミーとは、ランゼルフ王国に伝説として伝わる、古代の料理アカデミーだ。
伝記が作られるような料理人を百名以上も輩出した。
「私は料理の大天使として、ランゼルフ王国と日本の料理の次元を上昇させなくてはいかん!」
「は、はあ」
「そこでだ。龍獄の谷にランゼルフ王国の国民と日本の観客を同時に招いて、開催しろ!」
「はあああ? む、無茶ですぜ、そりゃ」
日本人にとっちゃ、ランゼルフ王国は夢物語の異世界だ。
日本の観客がどうやって異世界に行くんだよ。
って、俺は死んで異世界――ランゼルフ王国に行ったけど……。
「しかしですね、俺は主催者じゃないんで。主催者はグレゴリー校長……つまり俺の生前の妻と、ローバルフォード家ですぜ」
「私たち料理大霊界が働きかけをする。それは心配するな」
「本気ですか? 具体的にどうすれば良いんで?」
「お前、日本に戻って、部下たちにこの話をせよ……ほいっ、瞬間移動魔法じゃ!」
「はおえええええ?」
◇ ◇ ◇
俺は抗う暇もなく、日本に霊体ごと飛ばされてしまった。
あの大天使……強引すぎねえか?
「えーっと、ここは? おう、日本人がいるいる」
俺は現代の日本に戻ってきてしまった。
日本語のざわめきや制服姿の女子高生たちの声が、俺の耳に入ってきた。
ここは東京か?
おお、振り返ると俺の勤めていた帝神ホテルがある。
壁は古くなっているが、相変わらず荘厳な雰囲気をただよわせている超一流ホテルだ。
「……なんだ? ありゃ」
東のほうには異様にでかいタワーが立っている。
東京タワーじゃねえよな。
『あれが東京スカイツリーじゃ。近くの【浅草駅】付近に人を集めよ』
大天使の声が耳元で聞こえた。
あれがスカイツリーか……噂は聞いているが。
俺はブツブツ言いながら、帝神ホテルに入っていった。
「おっ? 内装はきれいになっているが、基本的には変わらねえな」
玄関ロビーにはきらめく黄金色のシャンデリア。
花が咲いたような美人の受付嬢。
俺が勤めていた頃とあまり変わらねえぜ。
「おや、あいつは……」
警備員の町川陽介か? 老けたなあ……。
だが、顔の雰囲気自体はそんなに変わってない。
おっと、感慨にふけっている場合じゃないぜ。
「おい! 悪いが、しばらく体を貸してくれ、町川」
「ん? 声が聞こえたな」
中年になっていた町川は、キョロキョロと周囲を見回している。
そうか、俺は霊体だから姿が見えないわけか。
「あらよっと」
俺は町川の体の中に入った。
ま、あまり気持ちの良いもんじゃねえが、仕事だ。しょうがねえ。
これで町川の体を乗っ取ることができた――俺はこの世界で人間として行動できるというわけだ。
さて……と。
帝神レストランの厨房に行ってみるか。
◇ ◇ ◇
二階にある帝神レストランも、内装はかなりきれいになっているが、ほとんど変化はない。
昼前だからそんなに客はいねえようだ。
厨房に行くと、ヒゲを生やしたシェフが暇そうにスマホをいじっていた。
こいつは三田村浩二だ。
はあ、こいつも中年になってやがる。
俺が総料理長だったとき、三田村は三十代前半で若く、そうとう鍛えてやった。
「おい、三田村」
「……ん?」
「俺だ」
「なーんだ、町川さんじゃないの。ダメだよ、警備員が厨房に入ってきちゃあ」
「バカ、俺だ。沢村だ。沢村丈一だ」
「……は? 何言ってんだよ、町川さん。沢村って……死んじまった総料理長のことかい」
三田村は苦笑し、ヒゲをいじった。
「さあ、昼からはレストランは戦場になる。忙しくなるぜ。持ち場に戻ってくれ」
しょうがねえなあ、こいつは。全然、俺がお前の師匠だってことが分かんねえみたいだな。
よし、この手を使うか。
「お前の得意料理はスペイン料理! トマトとチーズを入れたスペイン風オムレツ。そしてパエーヤ・コン・ラペ……鮟鱇入りパエリアだ」
「……な、なんでそれを? 町川さん。俺の修行時代の得意料理だぜ?」
「修業時代にゃ、お前が鍋を真っ黒こげにしたことを、俺がかばってやったよな。ソースを爆発させて、ボヤになって一緒に社長に謝りにいった」
「あ、あ……ウ、ウソだろ」
さすがに三田村は俺を見て、ブルブル震えている。
あの社長への謝罪は、俺と三田村、そして当時の社長以外知らないことだ。
俺はたたみかけた。
「俺は町川の体を借りてるけど、沢村丈一なんだ。時間ねえから、早く信じろ。お前の好物はヒラメの縁側のキムチ。御徒町で一緒に食ったっけな」
「せ、先生っ……! 沢村先生っ……」
三田村は目頭を押さえた。
肩を震わせ、頬に涙が光っている。
「本当に先生なんですか? し、信じられません」
「泣くんじゃねえ、まったく」
「あんときはお世話に……。俺は副料理長になれましたっ!」
「立派になりやがったな。で、お前に頼みがあるんだ」
「え?」
「異世界でとある料理勝負がある。それを日本国民に伝えてくれねえか」
「異世界? 料理勝負?」
「しゃあねえ……。説明するか……」
俺は不思議そうな顔の三田村に説明してやった。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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