第44話 レイチェル VS テオドーラ④
グレゴリー校長が札を掲げたのは――レイチェルとテオドーラ……!
両者の札だった!
「で、では、私も」
エミリア先生は咳払いしつつ、机の札に手を伸ばした。
その手は緊張で小刻みに震えていたが、力強く札を掴んだ。
――観客たちはエミリア先生の掲げた札を見て、嘆息した。
「ああっ!」
「うーん……」
「そうかあ……」
エミリア先生が挙げたのも、レイチェルとテオドーラの札だったのだ。
となると、2対2の同点ということになる。
つ、つまり勝敗を決するのはドレック先生かよ!
「――ふむ」
ドレック先生は両腕を組み、札を前にして目を閉じていた。
レイチェルも俺も、肩に力が入る。
やがてドレック先生は瞑想から解放された僧のごとく、目を見開いた。
「これだ!」
ドレック先生の結論に、観客たちがどよめいた。
――レイチェルは膝から崩れ落ちた。
ドレック先生が掲げたのは、テオドーラの札だった……。
『この料理勝負、テオドーラ・バウスネルンの勝利です! ブルークラスとホワイトクラスの決着は、リクト・ロジェ VS ベクター・ローバルフォードの勝負に持ち越されました!』
正式な結果の放送がかかると、観客は海に波が打ち寄せるごとくざわめいた。
「……レイチェルのアクアパッツァは、ホイップクリームが重かった」
ドレック先生はレイチェルを見やり、淡々と口を開いた。
レイチェルは拳が白くなるまで握りしめていた。
悔しさのあまり、歪んだ表情で唇を噛みしめていた。
「味も見た目も良かったが、繊細な魚とロブスターの味がホイップクリームによって、舌触りがもたついたのだ」
「レイチェル……てめぇ」
テオドーラは拳を鳴らし、レイチェルに近づいた。
レイチェルはすぐにテオドーラを睨みつけ、立ち上がった。
おいおい……ケンカするんじゃねえだろうな。
「ブルークラスのくせに、やるじゃねえかよ」
テオドーラは拳を下ろし、照れたようにそっと右手を差し出した。
レイチェルは驚いた顔をしたが――誘われるように自分も右手を差し出した。
二人の手は結ばれた――だがしかし!
「はいはい、感動しましたねえ。拍手、拍手っと」
乾いた声と拍手が、柔らかな空気を切り裂いた。
――ベクターがこっちに歩み寄ってくる!
特別観客席の最前列から、さっきの試合を見ていたのだ。
「リクト君、君の最終目標は何でしたっけ?」
「ベクター……? 何だと?」
「僕と料理勝負をする。その後、君はどうするんです?」
ベクターの問いに、俺は胸を張って叫んだ。
「俺の目標は世界最高の料理人になることだっ! お前に勝ったあと、まずは学校対抗料理選手権に出て、優勝する!」
「ざーんねん」
ベクターはおどけた表情で肩をすくめた。
「ん? うっ、おお……!」
ベクターの後ろにはいつの間にか、見覚えのある黒服連中――「闇の晩餐」たちが立っていた。
こ、こいつら、客席に紛れ込んでいやがったのか!
ガルダス、テオドーラ、ゲルダ、ドロシーたちを守るように、闇の晩餐が彼らの周囲を取り囲んでいる。
「僕が料理界を支配しちゃいますから、君が世界最高の料理人になる夢はかないません!」
サイコパス野郎のベクターが料理界を支配する……考えただけで厨房が地獄になるぜ!
ベクターは支配を実現するため、秘密結社に所属しているというわけか。
――そんなことをさせてたまるかっ!
「そうだ、僕の手下にしてあげても良いですよ!」
「うるせえっ!」
奴隷出身だった俺は、世界最高の料理人になるのが目標。
大貴族出身のベクターは料理界の支配が目標……。
まるで水と油――話が合うわけがねえ!
「――今日は特別ゲストを招いているんで、会ってください。どうぞ!」
「は?」
ベクターが訳の分からぬことを言ったので、俺は一瞬呆けた。
黒服連中の中から、壁が現れたと思った。
な、何だ? このでかい男――いや、でかい老人は?
「君がリクト君かね?」
しわがれた鈍重な声が、俺の腹を潰してしまいそうだった。
ホ、ホワイトクラスの全員、そしてベクターまでもが、その老人にお辞儀をしている!
な、何だこの光景は?
「私は闇の晩餐の主催者、リシャール・バルドーン」
観客席は再びどよめいた。
「おい、あの老人……。携帯端末のニュースで見たことがあるぞ」
「間違いねえ! リシャール・バルドーンだ!」
「あの闇の晩餐の主催者であり会長! そして料理界の闇そのものだ!」
ぬうっ
低い唸るような音とともにこの老人は右手を差し出し、強引に俺の手を掴んだ。
ギチイイッ
「い、痛ぇっ!」
俺は手に凄まじい痛みを感じて、手を引っ込めた。
な、なんて握力なんだ?
「すまんすまん。日々、パン生地とひき肉を練っていたら、石をも砕ける握力がついてしまったのだよ」
テオドーラがリンゴを潰している場面を見たが……、い、石をも砕ける握力だって?
ば、化け物か?
「君とベクターの対決……。私が審査させていただこう!」
「な、何、勝手なことを言っているの?」
いつの間にか客席から出てきたアイリーンが、俺の前に立って声を上げた。
「グレゴリー校長の許可がなければ、そんな勝手なこと、できるわけないでしょ!」
「私が許可しました」
俺たちの後ろから声がした。
グ、グレゴリー校長!
「リクト君とベクターの対決は、私――イルーネ・グレゴリー、リシャール・バルドーン氏、そして当日発表の三人で審査します!」
な、何だと?
この爺さんが審査?
するとバルドーン老人は口を開いた。
「君が負けたら、グレゴリー料理アカデミーはいったん閉鎖され、その後、我々のものになり……」
は?
「リクト君、君は闇の晩餐に所属することになるだろう」
はあ?
な、何を勝手なことを言ってやがる……この爺さんは……!
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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