第36話 野外料理審査、決着!
ポ、ポレットはどうなったんだ?
審査の「試食」は終わっているし、ベクターはうらめしそうに蹴ってきたレイチェルを睨みつけているし、状況がよくつかめない。
ちょうどそのとき――森から赤い制服を着た男たちと、粗野な格好をした連中が出てきた。
「あ、あの制服を着た人たち、王立警察だよ!」
ニコルが声を上げた。
そ、そうか! あの赤い制服はランゼルフ王国を取り締まる王立警察官たちだ!
一方、粗野な格好をした連中は……あの悪どい漁師たち!
「み、見て!」
ニコルが漁師たちの手首を指差した。
鈍色に光る鉄の手錠が掛けられている!
「あっ! ポレット!」
ニコルが駆け出した。
王立警察の列の後ろでは、ポレットが女性警官に付き添われて歩いている。
ポレットが生きていた……俺は胸をなでおろした。
「バカがっ……愚か者ですね。王立警察なんぞに捕まって……なんてマヌケな連中ですか」
ベクターが漁師たちを見ながら舌打ちした。
ベ、ベクターの野郎……こいつ、一体何者なんだ?
漁師は逮捕されたが、こいつもポレットの誘拐に絡んでいるはずだ!
「さあ! リクト君、ベクター!」
校長の声に周囲の空気が引き締まった。
校長はパン、と両手を打ち、その音は森に響いた。
「審査の勝敗の発表ですよ! 学生の本分を忘れてはなりません。私たちは料理を学びに来ているのですよ!」
グレゴリー校長は厳しい顔で俺たちに告げた。
「では、札を上げましょう」
校長は姿勢を正した。
三人の審査員の前には「リクト組」「ベクター組」と書かれた札が置いてある。
こ、これで勝敗が決まる――!
「私、エミリアは当然――。『うな重』は素晴らしい完成度のお料理でした!」
エミリア先生は「リクト組」の札を上げてくれた。
ふーっ……俺は息を深くついた。
無意識に拳を強く強く握りしめていた。
「私は公平な判断をさせていただいた!」
ドレック先生は俺を睨みつけ――叫んだ。
「ベクター、ガルダス!『シヴェ・ド・サングリエ』は見事だった!」
ドレック先生の上げた札には「ベクター組」と書かれている!
ベクターは笑みを浮かべており、ガルダスは腕組みをして仁王立ちだ。
やはり、この教師はベクターの味方か!
「では、私が勝敗を決しましょう」
校長は即座に札を上げた――その札に書かれていたのは……。
ど、どうだ……?
――リクト組!
「2対1! リクト組の勝ちです!」
「おやおや、困りましたねえ。シヴェ・ド・サングリエは最高の料理だったはずですよ?」
ベクターが半笑いでグレゴリー校長に詰め寄った。
どういった心理状態なんだ、このサイコパス野郎……!
しかし、グレゴリー校長は冷静に眼鏡の位置を直した。
「リクト君の『うな重』は歴史を感じさせる完璧な料理だったのに対し、あなたたちのシヴェ・ド・サングリエは――」
校長はベクターとガルダスを、獲物を狩る鷹のような目で睨みつけた。
「インダストリアルトマト――つまり加工用トマトを使用した『ケチャップ』を使い、風味が落ちてしまった!」
あ、あの血のソースにはケチャップが入っていたのか!
おや? ガルダスが真っ青な顔をして巨体を一歩後退させた?
校長はガルダスのほうを向いた――。
「超一流のレストランではケチャップは使わず、加工用トマトを使った最高級の『トマトソース』を使います。しかしガルダス、あなたたちはそれをしなかった……それはなぜか?」
「う、ぐぐっ……!」
「あなたたちは単に毒々しい血の色を演出したいがために、真っ赤な色が出やすいケチャップを使った! 我々のアカデミーの審査に、そのような虚無な演出は不必要!」
「うっ……く」
ガルダスは熊のような体を丸めて、肩を落とした。
しかしベクターといえば、ひょうひょうとした顔で肩をすくめている。
「ねえベクター! あんたさあ、いい加減、負けと自分の間違いを認めなさいよ!」
ニコルがベクターに対して詰め寄った。
「僕の負け? 間違い? 何のことやら?」
ベクターはニヤけつつ首を傾げている……正気じゃない、こいつ……。
「料理に関していえば、僕はガルダスが作っていたのを見ていた……。監督していただけですよ?」
うーん……。
そ、そういえば、そうだ……!
「僕とガルダスを一緒にしてもらっちゃ困りますねえ」
こいつ……肩を落としているガルダスを前に、血も涙もない野郎だな……!
俺は耐えきれず、ベクターを問い詰めた。
「おい、お前! ポレットのことに関わっていたんだな?」
「身に覚えがないですねえ?」
「動画を見せつけてきたじゃないか!」
「動画は見せましたけど? 僕はなーんにも関係ない。――ほら、見てください」
王立警察は漁師たちを引き連れ連行していくが、ベクターの前を素通りしていく!
な、なぜだ?
こいつが関わっているのは明白じゃないか?
「そういうことですよ。じゃあ、僕はここいらで保養所に戻ります」
「お、お前、これからどうするんだ? まだこのアカデミーに通うのか?」
「その答えはこれですよ!」
突然、保養所の周囲から、たくさんの黒い影が飛び出した。
王立警察の周囲を、二十名ほどの黒服を着た者たちが取り囲んだ。
な、なんだこいつら!
「騒々しいのが来たわね……」
グレゴリー校長は額に指を当て、首を振りながらつぶやいた。
「まさか『闇の晩餐』がひそんでいたとは……」
黒服の連中はベクターを守るように囲み始めた。
一方、王立警察は黒服の連中を睨んでいる……!
な、何が起こっているんだ?
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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