第35話 これが最強の料理、うな重だ!
「お二人とも、何か悩みごとがあるのですか? とくにリクト君……」
グ、グレゴリー校長は俺の不安を見抜いている……!
「……審査を続けましょう」
グレゴリー校長は何事も無かったかのように、イノシシ肉を口に運んだ。
「ええ、とても良いわね。イノシシ肉も臭みがなく、香辛料で存在感が高まっているわ」
グレゴリー校長が珍しく微笑んでいるだと?
ベクター……笑って俺のほうをドヤ顔で見てやがる。
「それにしても、このソースの色は不可解……随分赤いわね」
校長が疑問を呈すると、ベクターの相棒、ガルダスが「俺が説明しましょう!」と声を上げた。
「血液は凝固すると黒くなりがちです!」
ガルダスは背筋を伸ばし声を上げた。
そして俺のほうを見て、勝ち誇ったように笑った。
こ、こいつも当然、ポレットの誘拐に関わっているはずだ……ひょうひょうとした顔をしやがって……!
「俺たちは真っ赤な色を表現しつつ、特別な酸味を加えるために、真っ赤な加工用トマト――『インダストリアルトマト』を使用しました!」
「ふむ……なるほど。……良いお料理でした」
グレゴリー校長は上品にハンカチで口をぬぐった。
校長はポレットのことは気づいていないようだ。
も、もし先生たちにポレットが誘拐されていることが知られたら、彼女の命が危ない……!
◇ ◇ ◇
「ではリクト! 貴様たちの『うな重』とやらを食わせてもらおうか!」
ドレック先生は俺を睨みつけた。
すでに三名の審査員――先生たちはうな重を目の前にしている。
「炊いた米という穀物に、甘辛いソースを塗った焼き魚だと……?」
ドレック先生は信じられないといった風に首を横に振った。
「こんなものが美味いわけがないだろう!」
しかしエミリア先生は拙い手つきで箸を動かした。
「た、食べなくては味は分かりませんよ!」
エミリア先生は、口元を震わせつつ咀嚼しうな重を飲み込んだ。
「さ、魚がトロリとしているわ! 炊き立てのご飯、甘辛く香ばしいタレとウナギの甘辛さ……」
エミリア先生は勢いよく、ウナギとご飯をいっぺんに口に運んだ。
見事な食べっぷりだ!
「そ、それらが混然一体となって美味しい! す、すさまじい完成度の料理だわ……!」
「な、何だと? バカな!」
ドレック先生はエルサイド島名物の苦ウリを丸かじりしたような顔をしていた。
――が、渋々、うな重を口に運んだ。
「う……むっ?」
ドレック先生は箸を持った手を震わせて、細い眉もピクピク震わせた。
「し、新体験だ……。ウ、ウナギという魚……なぜこんなにもトロリとしているのかっ!」
ガバッ……そんな音がしたように思えた。
まるで飢えた獣のように、這いつくばるようなウナギの頬張り方だ!
「こ、こんなバカな……! 美味い!」
箸を止める手が止まらない。
「この白米とウナギを同時に、頬張りたくなる! この香ばしさと甘辛さを全身に詰め込みたい――。う、美味すぎる!」
「ウ、ウソです!」
ベクターが鷹のような目をしつつ、拳を握った。
「な、何かの間違いでしょう? そんな甘辛い焼き魚が美味いわけがない!」
「うな重の美味しさの秘密――それは『メイラード反応』というものです」
グレゴリー校長はまるで、うな重というものを知っているように口を開いた。
「ウナギを炭火で焼き、タレを焦がすことで『超一級の香ばしさ』――すなわちメイラード反応が出来あがる。超一級のステーキ、高級なトーストにもメイラード反応が存在します」
「こ、こんな奇妙な焼き魚が超一級のステーキと一緒だと? ――リ、リクト君!」
突然、ベクターが俺に耳打ちした。
「ポレットの命を考えろ! これをうな重にふりかけるよう、今すぐ先生たちに伝えるんだ!」
ベクターが手に持っているのは、無気味なまでに真っ赤な粉の入った小瓶だった。
こ、これは見覚えがある!
忌まわしき、「デビルガイプシン」――悪魔の激辛唐辛子だ!
「さあ早く、これを君の料理にかけるように言いたまえ! リクト君!」
ベクターは薄暗い笑顔を浮かべ、俺に向かって不気味な唐辛子の粉を突きつけた。
こ、こんなものをかけたら、せっかくのうな重の味が壊滅する!
「僕は君のうな重に感心はしましたが、ちょっと刺激が足りないと感じましてね」
ベクターは余裕を取り戻したように、微笑んだ。
「この唐辛子でぜひ、味に変化を加えてください! さあ、何を迷っているんです?」
こ、この野郎~……俺のうな重の味をメチャメチャにする気だな!
こんな恐ろしい唐辛子をかけたら、うな重の味が死ぬ!
し、しかしポ、ポレットの命が……!
「ていりゃああああ!」
そのとき――掛け声とともに、デビルガイプシンの瓶が吹き飛んだ。
レイチェルが横にいて、ベクターの手に前蹴りを叩き込んでいた――。
「レ、レイチェル?」
俺は目を丸くした。
そして、吹き飛んでしまったデビルガイプシンの瓶を、アイリーンが見事にキャッチした!
「アイリーン! な、何がどうなってるんだ?」
俺が呆然としているとき、グレゴリー校長はホッとした表情でため息をついた。
「安心なさい――。事件は今、解決しました」
ベクターは手首を押さえて、痛みにうめいている。
ポ、ポレットはどうなったんだ――?
【作者・武野あんず からのお知らせ】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
もし少しでも「面白かったよ!」「この先が気になるな~」と感じていただけたら、☆や「ブックマークに追加」で応援していただけると、とても嬉しいです。それが作者の元気の源になります(笑)
次回もぜひお楽しみに♪




