第25話 禁足地と保養所
俺たちは火のような赤ポプラの森を眺めつつ、山道を歩いて上がっていった。
山道の横を、川が結構な勢いで流れている。
「ね、ねえ! あ、あそこって何?」
アイリーンが恐る恐る、川辺手前を指差した。
川辺に開けた場所があり、石で作られた古ぼけた神殿が見える。
黒と青のマーブル模様が幾何学的で美しい。
「あ、あれって保養所じゃないよな?」
「違うと思う……パンフレットに載っている建物とは違うぜ」
生徒たちは気味悪がっている。
「あ、あの神殿は大理石でできています! ほら、神殿の近くを見て!」
ミアが叫んだ。
神殿の周囲には屈強な白装束の者が二名立っており、周囲を警戒している。
「う、うわ~」
白装束の二名がこっちを睨みつけてきた。
……ヤ、ヤバい雰囲気だ!
あ、あそこが例の「禁足地」ってわけか!
「ねえ、おっさんたち、そこって禁足地ってヤツだろ?」
白装束二名に突っかかったのは、フェリクス、そしてガーランドだった。
あ、あの大バカ二名……な、何やってんだよ!
「僕らに中を見せてくれない? 金払うんで。貴族だから金は持ってるんだ」
フェリクスが財布を出しながら右の白装束の者に近づくと――。
「ぎゃうっ!」
ドサッ
そんな叫び声と鈍い音がして、フェリクスが地面に倒れていた。
右の白装束の者が「魔法の突風」を起こし、フェリクスを突き飛ばしてしまった!
「近づくな! 分からんか? 禁足地からお前たちを守るようにしているのだ!」
「まったく……。白装束の方々のおっしゃる通りですよ。ブルー&グリーンクラスの連中は知恵が足りないんですかね」
ベクターが首を横に振り、地面に転がっているフェリクスを見下ろした。
「な、何をっ、貴様!」
フェリクスは立ち上がってベクターにつかみかかろうとしたが、ベクターはそれをするりとかわした。
「君のような腐ったミカンには触れたくないですねえ。まったく……内部に入るにはもっと頭を使えば良いのに……」
え?
ベ、ベクター……今、とんでもないことを言ったぞ?
あ、あいつも禁足地に入ることを企んでいるのか?
◇ ◇ ◇
「ほら、落ち着け! た、確かにさっきの神殿は禁足地だ。だが、近づかなければ何も起こらん!」
ボウハラ先生が騒然とする生徒をなだめながら叫んだ。
俺たちはぐったり疲れながら山道を上がっていく。
「あれが『ファーガルン保養所』だぞ!」
少し歩くと、全面ガラス張りの直方体の建物が正面に見えた。
あれが俺たちの宿泊施設か……。
中には室内の畑や植物園が見え、キャベツやトマト、バナナやパイナップルが、太陽光を浴びて輝くように育っていた。
「お、おお~! すげえ、食材の宝庫だ!」
「採って食べていいのか?」
「バカ、許可がいるだろ」
料理アカデミーの生徒たちは食材が見えた途端、歓声を上げた。
「さあ、部屋に荷物をおき、着替えてすぐに食堂で昼食です!」
エミリア先生が保養所玄関ロビーで、力強く生徒たちに向かって叫んだ。
だが、妙な噂が広がった――。
昼食の担当はベクターたち……つまりホワイトクラスが担当するというのだ!
◇ ◇ ◇
「昼食を作るのは、ホワイトクラスたちだって?」
俺たちは保養所のロビーで驚いた。
昼食は噂通り、ホワイトクラスの連中が調理を担当したらしい。
つまりベクターやガルダスたちが作った昼食を食べなくてはならない……!
「く、食うしかないようだな」
食堂にて、ホワイトクラスの生徒たちが、俺たちに自分たちの料理を配膳してきた。
レイチェルは大きなテーブルの前に座り、舌打ちした。
「ホワイトクラスの奴ら、どんな腕を持っているのか暴いてやる」
食堂の机に、コース料理がどんどん運び込まれる。
俺たちは意を決して、一番最初に運び込まれたコンソメスープに手をつけた。
こ、このコンソメスープは最高級の証ともいわれる、黄金色のスープだ……!
「ああっ……」
「な、何だと! こ、この味わいは」
「し、信じられねえ味だ!」
俺たちはコンソメスープをスプーンですくって飲み、口々に叫んだ。
レイチェルが悔しそうに声を上げた。
「くっ……。こ、これは、ほ、本物の最高級コンソメスープじゃないか……!」
ホワイトクラスの前菜のコンソメスープには驚かされた。
色が澄み、黄金色以外の色が混じっていない、最高のスープの状態を示すものだ。
「肉と野菜の旨味がしっかり出てる……ほ、本物のスープだ」
「本物はここまで美味いのか……!」
「雑味がいっさいしねえ……」
俺も他の新入生たちもそのスープを味わい、その純粋なうまみの洪水に半ば恍惚としていた。
スパイス、野菜、肉の香りが鼻を通り、口に伝わり、後味も舌の上で旨味が強く残る。
……まさか、作ったのはホワイトクラスの「あいつ」か……?
「お楽しみいただけましたか? リクト君」
俺たちの席の横で、聞き覚えのある声がした。
白いコックコートを着用したベクターが薄ら笑いを浮かべて立っている。
こ、このコンソメスープを作ったのは、や、やはりベクター……お前か!
「君たちが僕らに完全降伏していただくために、腕によりをかけて作ったのですよ!」
またこいつは、気持ち悪いことを……。
「俺がスープの『下ごしらえ』を担当した! ひき肉、卵白、野菜、スパイスを混ぜる工程だ!」
ベクターの隣に立っていたガルダスが、熊のような胸板を突き出して、ガハハと笑っていた。
「最高の筋力、最高の素材で仕事をした! 美味くないわけがねえだろうが!」
「いや待て! 下ごしらえはともかく、このコンソメスープに関してはおかしい部分があるぞ!」
レイチェルがベクターを睨みつけて怒鳴った。
「このコンソメスープは、お前たちには絶対作ることができない理由がある!」
俺たちもレイチェルの言い分に驚いて、アイリーンやミアと顔を見合わせた。
「ほほう?」
ベクターはガルダスと目配せしたが、ひょいと肩をすくめて口を開いた。
「レイチェルさん、お聞きしましょう。何をそんなに疑っていらっしゃるのかな?」
レイチェルは挑むような顔でベクターを見ていた。
【作者・武野あんず からのお知らせ】
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