自分勝手《リリナ視点》
いつもの様に訪ねて、いつもの様にベッドに沈んで肌を重ねた。
隣でぼんやりとしている美鶴を眺めて、つい先程までの行為を思い出す。
「今日、いつもより積極的だったじゃん」
いつもが淡白な訳ではないし、求めたらキス以外であれば応えてくれる。
あたしの要求に従っているうちに、クールぶった瞳の中に欲の色が滲んで、段々と熱くなるのを指先から感じるのが大好きだ。
「別に。いつも通りでしょ」
「……なんかあった?」
でも今日は違ったのだ。
『脱がせて』と言う前に脱がされて、『おねだり』する前に全部叶えてもらって――キスだって、唇にはなかったけど額に、頬にと沢山くれた。
「まあ、あたしのせいなんだろうけど」
唇と唇が触れ合う寸前、目を見開いて離れていった。理性のブレーキを思いっきり踏んで、その後は誤魔化すように昇り詰めさせるなんて、あまりにも分かりやすくて愛しい。
「分かってるじゃん」
「嫌な女」
「それはリリナでしょ。
学校で絡んで来ないでよ、迷惑してるんだけど」
「あたしにも立場があるんですー。
それに、忘れたの?ゲームでは聖女が攻略対象と結ばれたら」
「あー、はいはい。追放ね。
一人も興味ないから安心して良いよ。
特にリリナの婚約者とかね」
愛しく思うのに、どうして素直に言えないのか。
……ともあれ、学校で何かあったらしい。一因は自分にもあることは理解しているけれど、おそらく生徒会の誰かに何か言われたのだろう。
誰かなんて考えなくても分かる。
キーリィだ。
あたしにもあの女を速やかに排除しようだとか、陛下にも進言しようだとか言って来るくらいなので、当然本人にも言うはずだ。
やりすぎないように言わないと、謝らないと――口を開こうとしたけれど。
「男好きなのも変わってないね。
逆ハーレム作りたいならもっと上手くやってよ」
「……は」
何も言えなくなってしまった。
呼吸の仕方も忘れて――どうやって自室に帰ったのかも曖昧だ。
……気付けば朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
『あの陰キャ女より、男のが良いに決まってんじゃん?
試しに寝たけど下手だし』
『やば!寝たんだ?
女同士って想像つかね〜』
『満足出来ないし、ってかさ〜!三年の先輩からまた誘われちゃった』
『この前の?』
『ん〜?別の人』
『あーしも人のこと言えないけど、まじビッチじゃん?うける』
思い出したくもない記憶が蘇って来る。
きっかけは最低でも本当に美鶴が好きだったのに、学校というコミュニティから孤立したくなくて、グループのメンバーには真逆のことばかり話してしまう。
『あたしレベルになると逆ハーレム築けるってわけ〜!』
自分ばっかり可愛い自分を見てみないふりをして、甘えきっていた醜いあの頃から『何一つ変わっていない』と突き付けられたのだ。
『嘘告信じて馬っ鹿みたい!』
馬鹿なのはあたしなのに。
「……自分を責めて反省したふり?
ちゃんとしなきゃ、今度こそ」
起き上がってカーテンを開ければ、朝の祈りを終えたであろう美鶴が歩いているのが見えた。
白で統一されたシンプルで、それでいてたっぷりと揺れるドレープが上品で美しい聖女の正装に、長い黒髪が良く映える。
「変わるんだ」
その姿に並び立てるよう、あたしも。
読んで頂きありがとうございましたー!
ここから挽回できるんですかね……
今更ですが、鳴木里々奈、妹は麗奈です。どこかでルビ振らなきゃ