初恋に対する優越感
「その安泰を奪おうとしていると伺いましたが」
うるせえキャベツ口に突っ込むぞ。
――言わなかったのは偉いと思う。
感傷に浸る暇もなく、離れていたキーリィがやって来た。
父であり神官長のハルト侯爵とは何度か顔を合わせているが、突っかかって来たり嫌味を言われたことはない。
確か――後輩曰く『キーリィはツンデレです!』だそうだが。
それより、神殿の役職と貴族の爵位を維持することは両立するんだなこの世界。
俗世を捨てるとかそういうことはないらしく、一説によれば騎士団よりも実力主義だという。
「ごきげんよう、ハルト侯爵令息」
「父の目は誤魔化せても、私は騙されませんよ」
「キーリィ、よさないか」
仲裁に入るルドも無視してキーリィは続ける。爵位で言ったらルドの方が上だけど大丈夫なんだろうか。
「騙すとは……具体的にお聞きしても?」
「王女殿下を陥れ、王家の親戚筋であるルドを利用して国を乗っ取るつもりでしょう」
「想像力が豊か過ぎる」
「は?」
やばい口から出てしまった。
――確かにゲームならルドと結ばれて国を導くルートもあったかもしれないが、ルドはリリナを愛しているようだしそれはない。普段から近くで見ているならより分かるだろうに、豊かすぎるとしか言いようがない。
「王女殿下が申し上げていたのですか?」
「聖女も落ち着いて」
「ええ、ルド公爵令息。落ち着いていますとも」
ハルト侯爵にそれとなく聞いた時も『息子は……なんと言いますか、思い込みが激しくて』と言っていたくらいだし、この様子なら放置するのは得策ではないだろう。
「王女殿下は何も仰りませんが、殿下の立場を思えば充分でしょう」
「証拠もないのに?」
「王女殿下にそのようなものは不要です」
「学年二位なんだよね?大丈夫?」
やばいまた口から出た。
これ以上付き合っていたらコントでも始まりかねないし、ルドが私とキーリィを交互に見ておろおろしている。
……そろそろ引くか。
「公平であれ、理性的であれ。お父上から教わらなかったのですか?」
「それを破っている偽りの聖女が何を――」
「ですが、それが揺らぐ程……ハルト侯爵令息は殿下とルド公爵令息が大切なようですね。
美しいではありませんか!ねえ、皆様」
キーリィが私に噛み付くことに夢中で良かった。
は――と息をつく音が聞こえる。
何事かと集まった野次馬に、自らに集まる視線に彼はようやく気づいたらしい。
「……証拠がないって?」
「じゃあ、聖女は何もしていない?」
「不作で市場から減っていた作物も急速に普及してるって聞くし」
「やっぱり聖女の力は本物なんだ!」
「生徒会の皆様、特にキーリィ様が言うものだから……本当に虐げたのだと思っていましたわ……」
そして広がる疑念にも。
――本人の口から引き出せたのは僥倖だった。
『キーリィはツンデレなんですけど、高感度を上げるまでは嫌な奴なんですよねぇ。
ルドが努力の天才ならキーリィは生まれながらのって感じ』
『ああ、お高くとまってる感じ?』
攻略対象と関わる度、後輩との記憶が蘇る。ルドの時もそうだったが、こうやって補正がかかるのはありがたいな。
『それもあるんですが、彼はリリナにずっと恋してたんですよ。
だから努力で自分を超え続けるルドにコンプレックス拗らせてて、主人公に八つ当たりしてくるんです』
『カスでは?』
『恋は盲目!麗奈だって拗らせちゃうことあるんですからね』
『へえ』
『興味持ってよ美鶴先輩〜!』
だからこそ、有利な流れを作れるのだ。
手堅く行こうじゃないか。
だってもう、タブーは犯しているのだから。それをカバー出来るくらいの、功績と地位を固めて――まあ、王族と寝ました!なんて罪を帳消しに出来るかと言われたら、無理でしょうね。
「どうかこれからも、お二人の良き理解者でいてくださいませ。ハルト侯爵令息」
ああでも、あの身体を知っているのは自分だけ!初恋を拗らせた男が望んでも手に入らないものを、私は!
なんて……なんて仄暗い優越感。
「では、ごきげんよう」
そんなもの、枯れたとばかり――。
私は優越感に浸る己を自嘲し、その場を後にした。
読んで頂き誠に感謝〜〜〜〜〜〜〜!
恋が絡むとポンコツになる男。やっぱり一人くらい嫌な奴って必要かなと……
次はそろそろリリナ出したい。